ほんのすこしの、あいつに対する優越感。










のことをこんな風に見るようになったのは、たしか中学に上がる年の春ごろだった。小さい頃から一緒に居て、ほんの少し血の繋がりのある 従妹。
行動力はあるわりに、そのくせすぐ落ち込んだり、不安がったり、強がったり。
そんなところが放っておけなくて、放っておきたく なくて。


「変じゃないかな!?」

休みの日の朝。寝ていた俺の部屋に飛び込んで来たのは紛れもない 俺の従妹で────


「え゛ー……?」

寝起きの掠れた声で、俺はかろうじて返事をする。昨日の選抜の練習で疲れきっていた身体を起こして、何の為に なんて考えるまでもなく、いつもより入念にめかし込んだ従妹に視線を遣る。

少し緊張した感じの面持ちで、ほんのりと頬を紅く染めて応えを求めてくるを見て、俺は正直泣きたい気分だ。何が悲しくて自分の好きな女が、彼氏の為にしたオシャレに評をつけなきゃいけないんだ。

「なに、真田ってそーゆーのうるさいの…?」
「そーいうわけじゃないけど!」
「…あーはいはい、好きな人にはいつでも良く見られたい だろ…」

耳タコご馳走様 と返すと「ねぇ淳ってば!」と、今度は答えを求めてくるに、俺はハァ と一つ、大きなため息をつく。


「…可愛い って」
「でもでも、一馬こーいうの嫌いじゃないかな!?」
「だぁいじょうぶだって。…若菜でも可愛い って言うと、おもうし」

「え、なんで若菜くん?」

そう、素で返してくるの反応に 俺は「や、ものの例え」と言ってかわして、早く会いたいなぁなんて頬を染めて呟いているの見て、もう一人の報われないチームメイトの事を思う。


「で?真田と何時に待ち合わせてんの」
「11時」
「じゅういちじぃ〜?」

まだ9時前なんですけど と時計を見て言う。肉体的疲労に、この精神的ダメージはキツすぎる。いいじゃん別に と、俺の座っているベッドの脇にが腰かけた。

「淳と話してるとなんか、」

落ち着くんだよねー と、慣れた感じにテレビをつけた。少し前までの俺だったら、その場の勢いで何かしでかしてるかもしれない と思って、シャツの中に手を入れて自分の腹を少し 掻く。


────弱い、よなぁ…


「で、今日は何聞いて欲しいんだよ」

泣きそうになるくらいへこんでるくせに、あんな事を言われて喜んでる自分が居る。
けど、どうせ真田のことなんだろうな っていうのは、考えるまでもなく、の表情ひとつで嫌でもわかってしまう。それだけ長い時間、同じ時間を過ごしてきたんだから。


「か、一馬と…」
「真田と…?」

なんとなく本能的に あ、続き聞きたくないかも と思って視線を下に落とす。俺の体半分はまだ、愛用の布団に包まれたままだ。このままもう一度眠りについてしまいたい。


「キス…するかも…」

そんなこと俺に言ってどうしたいんだこの魔女は と、ショックな気持ちを隠すためにそんな風に考える。


「なに、からすんの?」

アラー、積極的ねー と言って、真田とキスするを想像して無性にハラが立った。はっきりと言ってしまえば 妬いてるんだ。俺は。


「違うわよ!一馬が…っ!」
「真田がなにー」

がくっ と俺は頭を垂れて、わしわしを自分の髪を掻きまわす。

「こないだデートした帰りに、今度 していいか? って…」
「おーいさなだかずまー…」

そりゃあ確かに、いきなりするのが嫌なのはわかる。怖がられたりなんかしたら、する側としてはキツい。本気で好きな女ならなおさら だ。だからと言って────


「フツー何日も前から宣言するモンかー…?」

キス程度で? と呆れた俺はハァ とため息をつく。どこまで奥手なんだあの男は。


「あつし!」
「あーはいはい、愛されてんね お前」

良かったな と言っての頭を軽く撫でる。恥かしそうにしながらも「うん…」と嬉しそうに返事をするを見て、ぐ とこころが締め付けられる。
物心つく前からずっと一緒に居て、誰よりも近い存在だと思ってたのに。高校に入学してほんの半年。こんなにも簡単に他の男に持ってかれるなんて 思ってもみなかった。


────けど、


持っていかれてから更にもう、半年。明日からは学年がまた一つ 上がる。真田がいつまでキスだけで満足していてくれるか なんて、考えたくも ない。


「真田のこと、そんなに好き?」

そんなこと聞いたって、傷つくのは俺自身 だ。馬鹿だと思う。けど、聞かずには居られない。が少し驚いた風に俺のことを見て、そして嬉しそうに、わ ら っ た 。


「──── うん、」

だいすきなんだ と、きっと絶対、真田のことを思い浮かべてたんだろう。ただの従弟で、幼馴染の俺なんかに見せるようなもんじゃない、そんな表情でやわらかくわらった。
妬ける。めちゃくちゃ妬ける。


────けど、それに安心してる俺が 居る。


「そっか、良かったな」


「真田がちゃんとの事、護ってくれんだったらそれで、」


そう、郭に言ったのは嘘じゃない。正直まだのことはめちゃくちゃ好きで、真田に妬くことも多いけど。


「あ、でもね」
「え?」

が何か、思いついたように言って俺のほうを見た。

「一馬とは違う意味で 淳のことも、」


────一番好きだよ。



「俺だってお前のこと、好きだよ」

そう言って微笑う。「知ってる」と言ってわらったは、本当の俺の気持ちなんて 知らない。


────ほんのすこしの、あいつに対する優越感。



、かあさんから朝飯貰ってきて」

俺、着替えるから とのそのそとベッドから出る。「いいよ」と言って階下に降りてったの事を、想う。

いきなり横から来て、掻っ攫って行ったんだ。これ位の贅沢 したっていいだろ。真田が知ってる俺の知らないよりも、真田が知らない俺が知ってる の方がまだ、数は多いはずだ。まだ抜かれてなんか、やるもんか。


「まだ、俺に対しての方が、」

心 開いてくれてるよなー と、自分で自分を慰めてみて 大きくため息をつく。
完全に出遅れたのは、俺の責任だ。どうしようもない状況からオちた若菜には、もう同情する以外ない。

取りあえず今日、一人で寂しい思いをするのは嫌だ。絶対若菜も巻き込んで やる。


わかってもらおうなんて、思わない。傷つけるくらいなら、ずっとずっと隠し通すさ。
こんなでも正直、充分幸せなんだ 俺は。



決して知られることの無い、大好きなキミへの、届かない 気持ち。




愛のよわむし 番外編パート2。愛のよわむし よりも三ヵ月後、そしてもう一人のよわむし よりも二ヶ月後 といった感じですかね。あっくん再び。可哀相な状況にいる割には幸せそう。

20061111(20050403)   秋夢うい

「だからってわざわざ俺までヘコませに来んなよ上原ぁ!」