「毎日シツコイ、」つーかウザイ。 ただでさえ怖い顔を更に怖くして阿部は言った。放課後、ここは教室の中で、彼のクラスメイト兼チームメイトの水谷くんと花井くんは気まずそうなかおをしていて、わたしから目を逸らした。「キャプテン今日休みにしてください」「は!?」てゆーか俺に振らないで欲しい とでもいうような花井くんのかおを見て、「じゃあ監督に直談判してくる」と後ろを向いたわたしの腕を阿部が咄嗟に掴んできてその勢いにすこしだけ身体が揺れた。
「っいいかげんにしろよ」
しょうがないといえば、しょうがないのだ。いつになく本気で怒った彼を見て、ふとそう思った。忙しいからかまってやれないという阿部に、わたしはそれでもいいからとゴリ押ししてこの『カノジョ』という地位をもらったのだ。まだ、電話どころかメールすらしたこともなくてデートをしたこともなくて手を繋いだこともなくてそれでもわたしは、紛れもなく阿部隆也の彼女なのだ。…たぶん。
「じゃあ、またこんど。約束だからねー」
「ああ」
今度 なんて、もう何度も約束してる。今度 なんてない。もうじき4ヵ月、その間に学んだことは、かたくな な阿部の性格と、彼の野球への愛情、今日のようなあきらめの良さと、彼のわたしへの気持ちの無さ だ。いい加減、にしてしまえばいいのにそこだけはどうしてもあきらめられなくてこのたった一つの我が儘を聞いてもらいたくて毎日のように放課後 彼の元へとやって来てもそれを受け入れてもらえたことなんて一度もない。けれどそれでもいいんだ、この場所を、与えてもらっているだけで。いまのわたしには、それさえも十分すぎるくらいだと、けどフラストレーションは溜まっていく一方だ。
「いこうぜ」
残りの二人にかけられた言葉に、服のうえからだった阿部の熱が離れてすぐ横を通りすぎる。後ろを振り向いて「ダイスキだぞー!」と叫んでしまってもいい位好きな、背中を見つめて、気まずいな ってまだかおに出てる(いらない)二人だけが代わりに振り向いてくれたので、笑って「がんばってねー」と手を振る。よし、いつも通り。これからも、この通り。
阿部はわたしがあきらめるのを、待っているのだろうか。そんなこと、一番、考えたくない。わたしも阿部に背を向けて、そのあと阿部が振り返ってわたしを見ていたことなんて、知る由もない。
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