本当にずっとずっと、見ているだけだった。気付かれるかもなんて不安もなくて。
本当に気付かれたあとのことなんて。

まったく考えていませんでした。










「どうしよう…」

もう、あの日から三日が経ってしまった。あれからいつ郭くんに何を言われるかと思ってビクビクしているのに。郭くんは何も言ってこないし、以前と何ら変わり 無い。
けれどその事が余計に気になって、やっぱり授業中は郭くんを見つめている。次に目が合ってしまったら、前回の事も否定する事が出来なくなってしまうのに。


「あたしってストーカー…?」

うーんうーん と、そんな事を考えているうちに、かれこれ1週間たってしまった。ああ、放課後が怖い。今日は日直に当たっている。しかも。


郭くんと、2人で。


「今日欠席してたのってこの三人だけだったよね?」
「う…うん」

そんなこんなであっという間に放課後の教室。外からは部活をする、元気な声が聞こえてくる。(寧ろ一緒に混ざって走り回って叫びたかったよ と、後に彼にこの話をしたらものすごく笑われた)

一つの机で向かい合って座り、郭くんが日誌を書いている。こんな近くで郭くんを見たことなんてない。あたしの心臓は今にも潰れそうだ。それでなくてもこの間の事があるから、怖くて怖くて仕方が無いというのに。


────彼は何て普通なんだろう。


さん」
「え、あ、ハイ!?」
「……」

名前を呼ばれ、ついつい過敏な反応をしてしまう。郭くんが黙ってこっちを見ている。


「あ、あの…」
「はいこれ、後はさんが書くとこだけだから」
「うぇ!?あ、どうも…」

書いていた日誌をあたしの方に向きを変えさせて、個所を指差してくれた。ペンを持つ手が震える。見られているのが恥ずかしくて、恥ずかしくて。そういえば名前を呼ばれたのも初めてじゃないかな!



「ねぇ、俺に何か言うことない?」
「…え?」

ふいに、そんな事を言われ顔を上げる。郭くんと目が、合う。
きっとあの時のことを言ってるんだと思って、あたしの顔が急激に熱くなる。


「え…?え…?」

真っ赤になって動揺するあたしをしばしジ… と見て、郭くんは ふ と微笑んだ。そして郭くんは人差し指の横腹で、あたしの頬にちょい と触れた。


「真っ赤」
「っ郭く…!?」

ガタ とあたしが引いた椅子の音が教室に大きく響いて。顔が、身体全体が、熱い。けれど郭くんに触れられた部分が、どこよりも1番熱くて。触れられた頬に手のひらをあててみたら、あたしの手は見事に震えていた。

心臓はバクバクいってるし、みっともないとこ見せてるし。さいあくだ。あたし。


けれど郭くんはそれでも表情を変えず、あたしの方をじっと見ていて。
でも、その、瞳が。



「ねぇ、俺に何か言う事、あるでしょ?」
「ご…ごめんなさい!」

今のあたしの精一杯の言葉。急いで立ち上がって頭を下げる。その拍子に、もう一つガタ と大きな音を立てて椅子が倒れた。

自分の足が震えているのが判る。自分の膝をぎゅ と抑えてその震えを止めようとする。


────沈黙が続く。


「…っくく」

郭くんの声が聞こえた。そろりと顔を上げて郭くんを見る。


「か…郭くん…?」
「っあ…あぁごめん…っ」

笑っていた。とても。すごく。少し俯いて、肩を震わせて笑っている。


「そ…そんな…」

笑う事無いのに… と思う。恥ずかしい。また俯いて、あたしはその恥ずかしさに耐える。

カタ という音がして、郭くんが立ちあがったのがわかる。


「……」

あたしの方にゆっくりと近づいてきて、郭くんの足元があたしの視界に入った。


「…っ!」

あたしの髪を、郭くんは一房優しく掴んだ。驚いて顔を上げる。



「ねぇ、俺に言う事、あるでしょ?」

すごく近くに郭くんの顔がある。間近で見てもホントにホントにきれいで。


すいこまれるようだった。


「一年生のときから…ずっと郭くんのこと、見てて…」
「うん」
「ずっと、ずっと…だから…」
「…うん」

「郭くんの事が、すき、です。」


凄いことを言った!あたし。
そうだ、あたしはずっと郭くんの事が好きだったんだ。

郭くんが満足そうに微笑んだ。
そして、掴んでいるあたしの髪に ちゅ、とキスをして。


「かっ…郭くん…っ!?」
「英士だよ」
「え…英士くん…?」
「英士」

「えい…し…」

あたしの顔はまだ 熱い。きっと脳の中まで熱くなってて、今のこの状況の理解が出来ない。郭くんはまた満足そうに微笑んで、あたしの髪を解放した。


「知ってたよ」
「え!?」
「いつも俺のこと見てたでしょ。ずっと」

「…っごめんなさい」

ああやっぱり と、気付かれていた事にまた恥ずかしくなって、とっさに謝る。


「別に謝って欲しくて言ったんじゃないよ」

ほら、顔上げて。 と郭くんはあたしの頬に触れ、顔を上げさせられる。



「俺も、ずっと見てたから」
「…?何を…?」
「…それは天然なの?それともわざと?」
「え…?」

郭くんの顔が、不満そうに少し歪んだ。けれどすぐいつものクールな顔に戻る。


「俺も、ずっと見てたよ、の事」
「…え?」
「気付かなかった?」


あたしのこと見てた?え?……え?


「ええぇえぇ!?」

そう、真っ赤になって叫んだあたしを見て、郭くんはまた肩を震わせて笑う。


「っホント…かわいいね…」
「そ…っ!?」

と、いうかさっきあたしの事…


「あのか…郭くん…」
「英士」
「えっ英士…」
「何?」
「え、ど…どう、いう…」

どーいう事でしょうか? 動揺してしまって聞けない。


「俺も、の事、すきだから」
「…っ!?」


うれしい。────すごく、うれしい。



あたしはさっきから一人でドギマギして可笑しくなってるのに、郭くんはどうして普通だ。



「ねぇ、これからもずっと俺の事、見ててくれる?」

色っぽい顔で、あたしの頬の横あたりの髪を掴みながら梳き、そう言う。



「はい…」

声が裏返ってしまった。そして郭くんは、今度は嬉しそうに微笑んで。あたしの前髪をかきあげて。


────おでこにひとつ、キスをして。


「これからよろしく、」


この瞬間、あたし達は彼氏彼女になりました。



わー、郭くんとても積極的です。

20061018(20041106)   秋夢うい

「あれでもすごく、緊張してたよ」「ぜったいうそだー」