彼は思ってたよりも積極的で、とても情熱的なひとでした。










、帰ろっか」

歴史に残るんじゃないかという程 衝撃的だった日直の日から三日。初めて一緒に帰る事になりました。


「…え?」

あまりにも突然の事で、昨日一昨日と何事も無かったので本当に、付き合う事になったのも夢だったんじゃないかと思えるくらいで。終礼の挨拶が終ってすぐ、まだ教室には沢山のクラスメイトが居るのに郭くんは何の物怖じもする事無く真っ直ぐにあたしの席までやって来てそう言った。

クラス中の人が呆然としてこちらを見ている。
廊下の騒がしい声がやたら大きく聞こえるのは、教室が恐ろしいくらい静かだからだ。


何だか変な汗が、出て来る。

生まれてこの方14年(今年で15だけど)こんなに他人の視線が痛いと思ったのは本当の本当に初めてだ。

郭くんと目を合わせるのもなんだか怖いし恥ずかしい。どうせ周りにバレるならもうちょっとマシな方法が良かったな、なんて思えてしまう。


「俺達付き合ってるから、に手、出さないでね」

ああ、何だかいっそこのままこの窓からダイブしたい衝動に駆られた。

明日学校に来たら自分の席(というか机)が無かったりしたらどうしよう とか。上履きの中にはやっぱり画鋲なんかが敷き詰められてるんじゃなかろうか とか。やたら古典的なイジメの内容が浮かんで来て。


「勘弁してください…」

あたしは机に突っ伏して思わずそう言ってしまった。顔が熱いので、恐らく耳まで真っ赤になってるんだろうなと自分でも思う。


「っふ…だから…っ」

郭くんが何か言うので顔を上げたら、やっぱりというかあの時みたいに笑っていて。


「も、ホント…っ可笑し過ぎ」
「…〜ッ」

更に恥ずかしくなって、身体全体が熱くなってきてしまった。


「ほら、帰るよ」
「う、あ…うん…」

笑うのをやめて、ほんのり微笑んだ郭くんが歩き出したのであたしもつられて席を立つ。

さすがに教室はザワザワしだしたけれど、やっぱり誰とも顔を合わせられず俯いたまま教室を後にする。廊下、下駄箱、校門までやっぱり目を引くのか何人ものひとがあたし達を見ていたけれど気にしていないのか、そんなフリをしているのか郭くんはいつも通り。

学校も少し離れたところ(100メートル位だけど)でようやく落ち着きを取り戻したあたしは、さっきまでとは違う緊張感で変な汗を流していた。


「ごめんね、昨日一昨日は練習で急いでたから」
「う、うん」

しばらくの沈黙から、郭くんが優しいこえでそう言った。なぜかそれにほっとして郭くんの方を見ると目が合った。すると郭くんは優しく微笑んでくれて、折角落ち着いたあたしの顔がまた熱くなる。


「そんなに緊張しなくていいよ?」
「う…ごめんなさい」
「俺だって一緒だから」
「えー、嘘だー」

恨めしく郭くんの方を見る。するとやっぱり優しく微笑んでくれていて。やっぱり嘘じゃないか とぼやく。


「ホントだってば」
「そんな風に、見えません」
「そう見えないだけだよ」

むぅ として郭くんの方をまた見る。今度はなんだか意地悪そうな顔で微笑んでいて、なに? と言っているようだった。


「郭くんは意地悪だね」

そう言ってあたしはハッ として気付く。それもやっぱりお見通しみたいで、ああ と言って郭くんは微笑った。

「いいよ、慣れないんでしょ?英士って呼ぶの」
「ごめん、ね」
「ちょっとずつ慣れたて来たら、そう呼んで?」

やっぱり郭くんは優しく微笑んでそう言う。


「えい、し?」
「うん」
「…英士?」
「そうだよ」

「英士…」

英語の単語を覚えるように何度か名前を呼ぶ。恥ずかしいけれど、なんだかすごく特別な名前のような感じがしてくる。不思議だ。


「英士」
「なに?」
「うん、なんか、なれてきた」

すごくすごく嬉しくて顔が緩む。あたしが郭くんに向って微笑みかけると、彼はなんだかすごく嬉しそうな顔をしていた。


「ねぇ、英士はどうして…」
「ん?」

「その…何て、言うか…」

言いかけてあたしは言葉に詰まる。


「最初はね、2年の体育の授業の時かな」
「え?」

驚いて郭くんの方を見る。


「同じクラスのヤツがの事好きだ、って言うの聞いて」
「…え!?」
「…誰か気になる?」
「えぇ!?あ、うん…まぁ…」

「教えないよ」

そう言う郭くんの表情は、何だか拗ねているような風に感じ取れないでもなくて。自分で勝手にそう思って何だか恥ずかしくなってしまう。


「…で、そいつがずっとの事見てて」
「へぇ…そぅ…」

その人があたしの事を見てたって事は、つまるところ、アレを全部見られてんだな、という事に繋がる。


が俺の事見てるって1番最初に気付いたのが、そいつ」
「あ、そっ…そう、ですか…」

あまりの恥ずかしさに最後の方の声がだんだんと小さくなってしまう。


「その時は全然気にならなかったんだけどね。そーゆー子いっぱいいたし」

自分で言うのもなんだけどね と郭くんは付け加える。

「でもそいつがしつこく言うもんだから、俺もの事ちょっとしばらく見てた」
「え、嘘!?」

あたしは驚く。そりゃそうだ、だってあの日の授業中以外で郭くんと目が合った事は一度も無い。
すると郭くんはあたしが何を考えているのか判ったらしく、少し笑って言った。


「俺はそんな、バレる程あからさまに見たりしないよ」
「あ、左様ですか…」
「面白かった。何か、しょっちゅう顔でボール、キャッチしてたから」

「うぅぅぅぅやっぱりそれも見て…ッ」

顔から湯気が出てるんじゃないかと思う位急激に顔が熱くなった。あたしは絶えられず両手で頬を抑える。


「それからかな。の事面白い子だな って意識し始めたのは」
「そう、なんだ…」

ありがとうございます とあたしは消え入りそうな顔でそう言う。


「そしたら三年になって同じクラスになるし。嬉しかったねあの時は」
「…あたしも、嬉しかった、よ?」

思い切ってあたしもそう言ってみる。ほんの少ししてソロソロと郭くんの方を見る。すると郭くんは嬉しそうな顔をして、うん、ありがとう とそう言った。


「英士…」
「なに?」

「呼んでみただけ、です」

自分で言っておいてなんだが、恥ずかしい。けれど何だか無性に何度も何度も郭くんの名前を呼びたくなった。

「英士、英士、英士…」

まるで何かの魔法の言葉のようだ。名前を呼んだ数だけ郭くんの事を好きになって行くような気がしてくる。



「…はい」

郭くんもあたしの真似をして名前を呼んだのだと思い、郭くんでもそーゆー事をするんだな、と思って何だか可笑しくなる。

…」
「なぁに?」

あたしは嬉しくて、すごくすごく嬉しくて微笑って返事をする。


「好きだよ」

郭くんはふざけて言っているわけではなくて、言われた本人であるあたしがそう思える程に郭くんの目は本気で、そしてやっぱり優しく微笑んでいて。

彼は思っていたよりもずっとずっと積極的なひとで。


「…ありがとう」

私にはまだ真っ赤になってそう言う事位しか出来なかった。それなのに郭くんは満足そうに微笑っていて。彼は思っていたよりもずっとずっと情熱的なひとだと判った。

とりあえず、郭くんの名前を自然に「英士」と呼べるようになる事がわたしの、今1番大きな課題だなぁと思った。


大 好 き な キ ミ の 、 な ま え 。




まあなんて恥かしいカップルなのかしらと、書いた直後に思いました。
今時こんな純なカップルはいないんだろうなぁ…たとえ小学生でも。

20061018(20041114)   秋夢うい

大好きなひとに名前を呼ばれるのは、どんな時も幸せになる魔法の言葉