あたしにとっても、英士にとっても とくべつで、たいせつなもの。










「郭くんって普段、どんな?」

あたしの一番の友達である彼女にそう聞かれて、あたしはすごく困った。


「え!?ど、どうって…どうだろう?」
「何でわたしが逆に聞かれるのよ」

それはごもっともなんだけども と話の種である当の本人の方に視線をやる。クラスの幾人かの男友達に囲まれて、会話をしている。ほんの数十秒ほど見つめて、気付かれたら何だか恥ずかしいのですぐに視線を友達に戻す。


「学校にいる時とあんまり変わんないよ」
「…あまり笑わなくて、しゃべらなくて、クールなの?」
「…そーいう事でもないけど」
「どっちよ、」

このしあわせものー と人差し指でおでこを一突きされた。
とはいえ、お付き合いというものを初めて、まだ2週間しか経っていない。ようやく名前を呼ぶのには慣れたけど、やっぱりまだ気恥ずかしいのに変わりはない。


「…郭くんはあれかな」
「え?」

何か考えが思い付いたらしく、彼女は一人納得したような表情をしていた。けれどあたしには何の事かさっぱり理解らず、んん? と眉根を寄せる。


「自分の大切なものと、そうで無いのと、分ける人」

いるよね、そーゆー難しい人 と付け加えた。


「よくわかんない…」
「自分の大切にしているものの前でだけ、本当の自分を出す って事よ」
「普通皆そうなんじゃないの?」
「理解ってないなぁ…おバカ、さん」

そう言っておでこをもう一突きされた。





「…え、試合?」
「うん、」

学校の帰り道。前から一度お願いしたかった事を、思い切って聞いてみる。

「英士の試合、観てみたい」

駄目かな? と横に並んで歩きながらも視線を自分の斜め上に遣る。あたしよりも10センチ程高い位置にある英士の目が、少し驚いたように見開かれている。あまりにも不自然な程驚かれたので、あたしが え? と言うと英士はすぐに目線を進行方向に戻したので、あたしもそれにならう。


「いいけど」
「ほんと?」

「丁度、次の休みに」

選抜の練習試合があるよ と英士が言った。


「じゃあそれ」
「うん」

そういえば学校が無い日に英士を見るの(という表現はなんだかおかしいけれど)は初めてだなー なんて思ってあたしは自然と顔がほころぶ。


「どうしたの急に」
「うん?ずっと前からね、観たいとは思ってたのですよ」

初めて英士を見たのは、教室の窓から見えたグラウンドで、英士のクラスが体育の授業でサッカーをしているときだった。もうそんな遠くじゃない、もっと、近くで見ていてもいいと許されてしまっては、願わずにはいられない頼み。


「授業のとは、全然違うだろうし。ほら、いつも話に出てくる…」
「…一馬と結人?」
「うんそう、英士の親友でしょ?」

「…。会ってみたいの?」

うん と言って英士の方に再び目線を遣る。すると英士もこちらを見ていたので目が合った。
何だか恥ずかしくて、けど嬉しくて。少し顔が熱かったけど、微笑いかけると、英士も微笑い返してくれた。


「あ…」
「ん、なに?」

その時 ふと、思い当たる事があってあたしは思わず声を出してしまった。慌てて ううん何でも無い と言うと、そう? と言って英士はまた微笑んだ。


「うう、楽しみだなー」
「ごめん。折角の休みいつも何処にも行けなくて」
「ううん良いよっ!あたしこうして一緒に下校出来るだけでもすごく嬉しい…」

とそこで自分はなんてすごい事を言っているんだろうというのに気付いて途端恥ずかしくなる。




照れ隠しの為、少し俯いて歩くようになったあたしの名前を英士が呼んだ。

家族から、友達から、クラスメイトから毎日呼ばれている名前なのに、こんな時は何だかすごく胸がきゅう と締まるくらい英士があたしの名前を呼ぶときはやさしくて。

顔を上げて、英士の顔を見る。



あたしは知っている。

サッカーや一馬くん、結人くんの話をするときの英士の表情はすごくすごく生き生きしてること。


あたしは知っている。

あたしを見るときの英士の瞳は、すごくすごくやさしくなっていること。

そしてそれはあたしだけに向けてくれる、特別なものだってことも。


「ありがとう」
「う、うん!」

学校で友達が言ってた事が、理解出来たような気がして。

あたしも英士を見るときの瞳はやさしくなってるといいなぁ と思った。大切にしているものが互いに同じ。これは自惚れなんかじゃないといいなぁ とも思った。


そんな、ある日の放課後。



英士サマシリーズ3作目。 あまり内容の意図がつかめません。(マジで)
ちょっと日常的な、おはなし。

20061020(20041126)   秋夢うい

友達の言っていたことがわかって、とても嬉しかった