本当は誰にも見せたくない。そっと奥に、しまっておきたいくらいなんだ。










────今日は、彼女が観に 来る。


「英士、なんかいい事あった?」

試合前の心地よい緊張感の中、俺の中のなにかを汲み取ったのか 一馬がそう言った。


「どうして」
「え、いやなんか、嬉しそうな顔、してるから」

俺はいつも クールビューティ とか周りから言われたりする事があるけど、そんな俺の感情を読み取るのは一馬か結人くらいしか居ない中で、一馬は結人よりも敏感だ。


「ちょっと、ね」

何があるのかはっきり言わないあたり、俺も結構キてるな なんて考える。不思議そうにこっちを見ている一馬に悟られないよう、そっと視線をギャラリーに送る。

ほんの数回、転々と視点を変えて目的の人物を視界に捕らえる。自然と口元が緩むのが自分でも判った。
でも決して誰にも悟られないように、に一瞬だけ ふ と微笑みかけて視線をボールに戻す。

気持ちが昂揚する。試合前だからというのもあるけど、それだけじゃないくらい自分でも判る。
そんな自分がなんだか可笑しい。



「やっぱ、英士なんか、変」
「そぉかー?」

英士はいつも変だけどな、わはは と一馬と結人がそんな会話をしていた。結人はともかく、あんなでも一馬は意外とあなどれない。





「スターティングメンバーを発表します。GK渋沢…」

西園寺監督の澄んだ声が響く。確証は無いけれど、確信はある。


────俺は、選ばれる。


「──…木田。MF…水野、杉原、郭、若菜、伊賀…」


よし と心の中で小さな喜びを感じる。今日は先発で一馬も結人も居る。
俺にとっては1番の、環境だ。



試合中、何度かの方に視線を遣った。普段は絶対にそんなことはしない、ほんの一瞬でもボールから目を離すことは大きなミスに繋がりかねない。
それでも俺は、頬を染めて、少し口をあけて観る彼女の姿がたまらなく愛しく感じて。




「お疲れさまでした」

試合は3-0と東京選抜の圧勝。
もう中堅クラスの高校生じゃ俺らの相手じゃねぇよー と所々でチームメイト達が会話をしている。
すばやく着替えを済ませて、出来れば誰にも気づかれないように帰りたい と願う。


「ごめん、俺 今日は先に帰るから」

いつもの3倍は帰宅準備が早かったと思う。一馬も結人も驚いて俺を見て いて。


「なんだよ、なんかあんの英士?」
「…ちょっとね」
「何!なんだよ英士 女でも出来た!?」

わはは と、結人が笑う。こーいう話は結人は何も考えずに核心をついてくるから嫌いだ。敏感でも内容までは深く考えない一馬の方が、なんぼかマシだ と俺は思う。


「そんな────」


そんなんじゃない。

そう、親友2人に嘘をつこうとした瞬間、それは鳴海と藤代と桜庭の声で遮られる。


「うわ!なんかすーげぇ可愛い子がいる!」
「えー、どれ、どの子だよ」
「あ、あれじゃない?あの…──」


────薄い茶パツの子!


藤代が指をさして言った。俺は嫌な予感がしてそれに目をやると案の、定。


「見た目だけでも可愛いけどさ、なんかこう微妙〜に」
「そうそう、こっち見てなんか微妙にそわそわしてるトコが可愛い!」
「誰狙いなんだろー、俺声掛けてこよっかなー」
「あってめ藤代!抜け駆けすんなよ!」

「へっへーん、早いもん勝…っちぃ!?」

変な声を出した藤代の目の前を ひゅ と何かが通って、 バン! という大きな音がして、更衣室を飛び出して行こうとした藤代と、その他チームメイト 得に結人と一馬が。

驚いてこっちを見ていた。


「え、ええええええいし…!?」

そう、俺の名前を呼んだのは一馬だ。
てん てん てん と、つい今しがた俺の足元を離れたばかりのサッカーボールが転がってくる。


「俺の彼女なんだから、余計な事しないでくれる」


更衣室内が一気にシーン となったけど、俺はそんなの全然気にならなくて。自分のスポーツバッグを肩に掛けて。


「じゃ、俺帰るから。また」

一馬と結人にそう言って、俺は更衣室を出る。






「えっ あ、英士お疲れさま!」

傍に行くと、が嬉しそうな顔をして、そう言って笑ってくれた。うん、ありがとう と言って、俺も微笑う。


「なんかねっ、すごかった!」

そう言い、頬を紅潮させて、俺を見上げるがたまらなく愛しくて。


「さ、帰ろっか」
「あ…と、結人くんと一馬くんは…?」

俺の十数メートル後ろにある更衣室に視線を送って、慌てたようには言った。


「何か用事があるみたいで、先に帰ったんだ」

また今度、紹介してあげるね そう言って微笑ったら、は嬉しそうに恥ずかしそうに微笑ってうん と言った。



「あれだね、もうどうしようもなく好き って感じ」
「手出ししようもんなら、ものすっごいキレ方するんじゃねぇの」

郭ってそーいうタイプみたいだしね、お前ら気を付けとけよ と椎名と黒川がそう言っていたらしいのは、後から一馬と結人に聞いた話だ。



本当は誰にも見せたくない。そっと奥に、しまっておきたいくらいなんだ。


みっともない、男の嫉妬。だけどそんな自分も、嫌いじゃない。


「好きだよ、
「あ、ありがと…」

そう言うと真っ赤になって照れる
いつかキミのその口から、俺のことを 好きだ と言ってくれるのを楽しみにしてるなんて。



────一生俺だけの、秘密。



英士サマシリーズ4作目。初英士サマ視点でお贈りしました。
本当はメンバーどころか仲良し二人にも見せたくないほど…めろめろです。

20061103(20041201)   秋夢うい

「まさかおれらの英士が女にうつつをぬかすなんて…」「……(うつつって結人…)」