本当は誰にも見せたくない。そっと奥に、しまっておきたいくらいなんだ。 ────今日は、彼女が観に 来る。 「英士、なんかいい事あった?」 試合前の心地よい緊張感の中、俺の中のなにかを汲み取ったのか 一馬がそう言った。 「どうして」 「え、いやなんか、嬉しそうな顔、してるから」 俺はいつも クールビューティ とか周りから言われたりする事があるけど、そんな俺の感情を読み取るのは一馬か結人くらいしか居ない中で、一馬は結人よりも敏感だ。 「ちょっと、ね」 何があるのかはっきり言わないあたり、俺も結構キてるな なんて考える。不思議そうにこっちを見ている一馬に悟られないよう、そっと視線をギャラリーに送る。 ほんの数回、転々と視点を変えて目的の人物を視界に捕らえる。自然と口元が緩むのが自分でも判った。 でも決して誰にも悟られないように、に一瞬だけ ふ と微笑みかけて視線をボールに戻す。 気持ちが昂揚する。試合前だからというのもあるけど、それだけじゃないくらい自分でも判る。 そんな自分がなんだか可笑しい。 「やっぱ、英士なんか、変」 「そぉかー?」 英士はいつも変だけどな、わはは と一馬と結人がそんな会話をしていた。結人はともかく、あんなでも一馬は意外とあなどれない。 * 「スターティングメンバーを発表します。GK渋沢…」 西園寺監督の澄んだ声が響く。確証は無いけれど、確信はある。 ────俺は、選ばれる。 「──…木田。MF…水野、杉原、郭、若菜、伊賀…」 よし と心の中で小さな喜びを感じる。今日は先発で一馬も結人も居る。 俺にとっては1番の、環境だ。 試合中、何度かの方に視線を遣った。普段は絶対にそんなことはしない、ほんの一瞬でもボールから目を離すことは大きなミスに繋がりかねない。 それでも俺は、頬を染めて、少し口をあけて観る彼女の姿がたまらなく愛しく感じて。 「お疲れさまでした」 試合は3-0と東京選抜の圧勝。 もう中堅クラスの高校生じゃ俺らの相手じゃねぇよー と所々でチームメイト達が会話をしている。 すばやく着替えを済ませて、出来れば誰にも気づかれないように帰りたい と願う。 「ごめん、俺 今日は先に帰るから」 いつもの3倍は帰宅準備が早かったと思う。一馬も結人も驚いて俺を見て いて。 「なんだよ、なんかあんの英士?」 「…ちょっとね」 「何!なんだよ英士 女でも出来た!?」 わはは と、結人が笑う。こーいう話は結人は何も考えずに核心をついてくるから嫌いだ。敏感でも内容までは深く考えない一馬の方が、なんぼかマシだ と俺は思う。 「そんな────」 そんなんじゃない。 そう、親友2人に嘘をつこうとした瞬間、それは鳴海と藤代と桜庭の声で遮られる。 「うわ!なんかすーげぇ可愛い子がいる!」 「えー、どれ、どの子だよ」 「あ、あれじゃない?あの…──」 ────薄い茶パツの子! 藤代が指をさして言った。俺は嫌な予感がしてそれに目をやると案の、定。 「見た目だけでも可愛いけどさ、なんかこう微妙〜に」 「そうそう、こっち見てなんか微妙にそわそわしてるトコが可愛い!」 「誰狙いなんだろー、俺声掛けてこよっかなー」 「あってめ藤代!抜け駆けすんなよ!」 「へっへーん、早いもん勝…っちぃ!?」 変な声を出した藤代の目の前を ひゅ と何かが通って、 バン! という大きな音がして、更衣室を飛び出して行こうとした藤代と、その他チームメイト 得に結人と一馬が。 驚いてこっちを見ていた。 「え、ええええええいし…!?」 そう、俺の名前を呼んだのは一馬だ。 てん てん てん と、つい今しがた俺の足元を離れたばかりのサッカーボールが転がってくる。 「俺の彼女なんだから、余計な事しないでくれる」 更衣室内が一気にシーン となったけど、俺はそんなの全然気にならなくて。自分のスポーツバッグを肩に掛けて。 「じゃ、俺帰るから。また」 一馬と結人にそう言って、俺は更衣室を出る。 * 「」 「えっ あ、英士お疲れさま!」 傍に行くと、が嬉しそうな顔をして、そう言って笑ってくれた。うん、ありがとう と言って、俺も微笑う。 「なんかねっ、すごかった!」 そう言い、頬を紅潮させて、俺を見上げるがたまらなく愛しくて。 「さ、帰ろっか」 「あ…と、結人くんと一馬くんは…?」 俺の十数メートル後ろにある更衣室に視線を送って、慌てたようには言った。 「何か用事があるみたいで、先に帰ったんだ」 また今度、紹介してあげるね そう言って微笑ったら、は嬉しそうに恥ずかしそうに微笑ってうん と言った。 「あれだね、もうどうしようもなく好き って感じ」 「手出ししようもんなら、ものすっごいキレ方するんじゃねぇの」 郭ってそーいうタイプみたいだしね、お前ら気を付けとけよ と椎名と黒川がそう言っていたらしいのは、後から一馬と結人に聞いた話だ。 本当は誰にも見せたくない。そっと奥に、しまっておきたいくらいなんだ。 みっともない、男の嫉妬。だけどそんな自分も、嫌いじゃない。 「好きだよ、」 「あ、ありがと…」 そう言うと真っ赤になって照れる。 いつかキミのその口から、俺のことを 好きだ と言ってくれるのを楽しみにしてるなんて。 ────一生俺だけの、秘密。 英士サマシリーズ4作目。初英士サマ視点でお贈りしました。 本当はメンバーどころか仲良し二人にも見せたくないほど…めろめろです。 20061103(20041201) 秋夢うい (「まさかおれらの英士が女にうつつをぬかすなんて…」「……(うつつって結人…)」) |