もっともっと大好きになれた、そんな瞬間。 中学生活の、最後の夏休み。部屋の中に居ても、ジーワジーワと鳴く蝉にイライラしながら机に向かう。山のように出された宿題がドン と圧し掛かってくる。 「終らない、なぁ…」 もう何時間も出していなくて、久しぶりに出した声は微妙に掠れていた。カーテンがふわふわと揺れた。ほんの少し冷たい風が入って来てそれが気持ちよくて目を瞑る。 ふと浮かんだ、大好きな人の顔に愛しさと淋しさが募る。 「英士がんばってるかなぁ…」 もう一週間以上も会っていないことにまた、さみしくなった。 * 「…おかえり」 英士はいつも約束の時間よりも少し早く来て待ってくれている。その姿を視界に入れてドキドキする。もう付き合って三ヶ月以上になるというのにちっとも気持ちは変わらない。 「ただいま」 久しぶり、会いたかったよ と微笑った英士にじわり と目に涙が浮かんだ。ほんの一週間と少し、会えなかっただけでこんな気持ちになるなんてなんてすごいんだろう。 生まれてこの方約15年、彼が傍に居なかったことの方が何十倍にも多いのに、…不思議だ。 「英士、また焼けたね」 「そりゃあね、毎日外 走り回ってるから」 いつからかそれはもう自然と繋がれるようになった手に、ぎゅ と力を入れてみた。 すると同じようにぎゅ と握り返されて嬉しくて恥かしくて、そろりを視線を上げたらそのまま手をぐ と引かれてキスをされた。 「俺も寂しかったから」 「…うん」 涙声になった。本当は会えない間ずっと、このまま居なくなってしまったらどうしよう と思っていた馬鹿らしい不安を全部見透かされてる気が して、 「……え、」 どうして? と、半分非難を含んだ問いを返してしまって少し後悔する。 「だって、昨日帰って来たばっかりじゃない」 また会えなくなるのやだよ とその言葉だけは必死になって飲み込んだ。英士は本当に申し訳なさそうな表情をしていて。 「昨日までは選抜の、だったんだけど」 ごめん今度はU-15のが、あるんだ と英士は言った。一週間も英士に会えないのを我慢して、それだけでこんな寂しい想いをしたのにまたすぐ同じことがあるなんて。 「ねぇ、どうしても行かなきゃ駄目なの…?」 「…、」 「サッカーばっかり、ずるいよ…」 俯いて、はっ とする。あたしは今一番言っちゃ行けない事を言ってしまって、もっともっと後悔する。 「 、ごめん」 そう言った、英士の顔を見てぎゅう と胸が締め付けられた。こんな、顔を させたいわけじゃないのに。困らせたいわけじゃ、ないのに。 きゅ と軽く下唇を噛んだ。 「っごめんね英士、嘘。大丈夫だから気をつけて、」 行って来てね と、ちゃんとわらえただろうか。寂しいのは本当。だけど英士がどんな思いでサッカーをしてるのかも少しはわかってるつもりだから。 「送ってくれてありがとう」 じゃあまたね と絡めた指を少しずつ離した。暑さからか、離した手のひらは少しじっとりと汗をかいていた。 「…、英士…?」 「…うん」 離した手を、もう一度取られて指先を軽く握られた。その時の英士の表情にどき として鼓動が激しくなる。 「あのね、」 「…?、うん」 「俺はずっと、サッカーやるために生活 してて、」 「…うん」 さらり と、ほんの少し吹いた風に英士の髪がなびいた。ああ 何を言われるんだろう と、嫌な不安が胸を襲う。 「それは俺そのものであって、一馬も結人も、一緒にプロの選手になろう って、」 「……」 「俺がサッカーをすることは、息するくらい自然なことで」 わかってる、英士がどれだけサッカーにかけてるか。その為に色んなものを犠牲にしてきたか。サッカーが出来なくなったら英士はきっと、英士じゃなくなる。 「あの二人がいて、サッカーが出来て、それだけで俺は 良いんだ」 「…、うん…」 握られている指に力が入った。 「サッカーばっかり、ずるいよ…」 そんなことを言う、あたしは必要ないんだ と、言われてしまった気が、して。 俯いて、じわり と涙が浮かんできた。あたしと英士は本当は違う世界の住人で、一緒に居られないんじゃないか って思っていた。見てるだけだった頃の、様に。 「…でもね、」 と名前を呼ばれて顔を上げる。泣かないで と、さらり 頭を撫でられてぐっと堪える。 「変わったんだ」 「え…?」 「前まではずっとそう、思ってたけど。今はそんな俺の隣にずっと、ずっと居て欲しい って、」 そう 思ってる。 言って微笑う英士の目に嘘は無かった。 「俺が夢を叶えるまで、叶えてからも、」 「え…し…、」 「には俺の隣でわらってて欲しい」 目の前の英士が歪んで見えて、次から次へと涙が溢れてくる。彼は本当に、あたしの何もかもを見透かしているように感じて、こんなにも。 「まだこれから先、もっと沢山 寂しい思いさせるかもしれないけど」 「…っえいし」 やさしく、本当にやさしく、英士はわらっていて。感じていた不安が全部飛んで行ってしまうくらい、あたしのこと想ってくれて いて。 「自分と、のために がんばるから」 「うん…っ!」 「ありがとう…、」 ────一緒に、居てくれて。 自分から英士の腕の中に入って行く。そしたらぎゅ とやさしく抱きしめてくれて安心したように、英士が息を吐くのが判った。 ごめんね、不安に思ってたのはあたしだけじゃなかったんだよね。 「よかった。本当に、安心した」 好きだよ、。言いながら、額に一つキスを落とされた。あの日の放課後のように、嬉しそうに微笑んでいて。 今でも怖いくらい好きなのに、もっともっと大好きになれた、そんな瞬間。 純白英士サマシリーズ 第六弾! やさしい雰囲気がなくなってしまったかなー… (ヒロイン少ししゃべるようになったしね)交際三ヶ月にもなったんだから多少は変わってるでしょう。でも気持ちはもっともっと大きくなるの みたいなね!(何) 20061103(20050616) 秋夢うい (もしもいつか、そんなことを考えて怖くて不安な) |