今ではあたしを産んでくれた事、とてもとても感謝しています。










「おい、腹減った」
「ハイハイ、今作ってるでしょ」

「先にお前食いてーなぁ」

夕飯前、食事を作っているあたしの後ろから、彼がが胸に手を触れてきた。併せてふざけた台詞に、あたしは「っばか!」と言って 咄嗟の攻撃のポカ、という音と同時に彼の イッてぇ! という声が重なった。


「おたまで殴んなおたまで!!」



高校を卒業して、ようやく自立する事が出来たあたしは未だに亮と続いていた。それというのも全力であたしの事を支えてくれて、愛してくれた亮のおかげだと思う。
代表選手やらなんやらは逃してきたものの、ようやくプロのサッカー選手になった亮と同棲を始めてもう半年が経とうとしていた。両親の元からもようやく解放されてあたしは、生まれて初めて心のよりどころを見つけたような気がしていた。


「ったくもう…」
「チッ…」

少し残念そうに舌打ちして、亮がキッチンを離れていって、ドカ と大げさにテレビの前に座るとサッカーの中継をかけていた。


「んだぁ?バカ代のやつ、まだ1点も入れてねぇじゃねぇか、」

ブツブツと、テレビの中の見知った顔に文句をつけている。あたしはその様子がおかしくて少し笑ったあと、料理作業に戻った。


「あー…オイ、
「んー…?」

亮はテレビを見たまま、あたしは料理をしながら。互いに顔の向きを変えずに会話する。


「明日、夕方からは予定 空けとけよ」
「…どうして?」

特に何も、前々から約束なかったよなぁ と考えて言ってみて、あたしのその言葉に、亮はどうしてって…と呟いて言った。


「お前明日、誕生日だろーが」

とうとうそこまでヤキが回ったか と、彼のその言葉に、あたしはは初めてハッとし亮の方に顔を向けた。
彼は相変わらずテレビに視線を向けたままだ。


「そっか…そうだ、…忘れてた」
「ぜってぇ空けとけよ」

「…ん、」

そこまで釘刺さなくてもいつもその日は一緒じゃない、と苦笑して言う。明日はあたしの、二十歳の誕生日だった。



***



「…ねぇ、どこ行くの…?」
「いいからついて来い、」

翌日の夕方、練習から帰ってきた亮に「行くぞ」と言われて否応なく連れ出される。どこに行くのか、何しに行くのかも教えてくれず、ただひたすらに前を向いて車を運転する亮の横顔を見つめる。


「…なんで、スーツ着る必要があるの?」
「うっせぇな…黙ってろ、」


高いレストランにでも行くのだろうか?だとしても教えてくれても良いじゃないか。と、そこまで考えて だんだんと嫌な感じがしてくる。そしてとても見覚えのある、…住宅街。


「…っ亮!?」
「ココ」

目的地到着 と、真剣な顔であたしを見る。行きついた先は、



「ここ…、あたしの実家だよ…?」
「知ってる」


そう、良い思い出なんか一つも無い、あたしを産んだ事すら邪魔に思う両親が住まう、家。


「っんで…!?」
「もうお前がこの家に縛り付けられる事はねぇよ」

行くぞ。といって亮が家のインターホンを押す。


「亮!?」

暫くして、ガチャ と音がして玄関の戸が開かれる。


「お母さん…」

あたしを産んだ、実の母親。誰よりも、あたしを産んだ事を後悔していた。
何とも言えない表情であたしを見てから、亮の方に目を移した。


「どうぞ…」
「失礼します」

言って、亮が家に入ろうとする。ついて入ろうという気にはなれなくて、そのまま立ちすくしていたら亮が「、」とあたしの名前を呼んで、


「来い。前々から約束は取り付けてあったんだ」
「え…、」


久しぶりに戻ってきた家は、変わらずあたしには馴染めない空気が流れていて。昔の闇が襲って来そうで…気分が悪くなって吐きそうになった。お父さんがいる、リビングに通されて。
ここに帰ってくるのは高校を卒業して、以来だ。


そこもやっぱり 重い、空気が流れていた。お母さんが人数分のお茶を用意して、お父さんの隣に座る。暫くいやな沈黙が続いて、その沈黙を破ったのは、以外にもお父さんだった。


「三上…亮君、だったかな?」
「はい」

「大体の事情は妻から聞いてるつもりだが…本気か、」
「もちろんです」

父と亮は一体何の話をしているのだろう…?なんのことだか、あたしにはさっぱりわからなくて。父さんがあたしの方を見た。


、お前も何か言いなさい」
「え…」

「お前自信の事だろう」

父が呆れたように言い放った。

「あきら…?」

本当に、状況がまったく呑み込めなくて、亮に助けを求める。


「…お前との結婚を許してもらえるように、お願いした」
「っ亮!?」

「必ず幸せにします。娘さんを俺に下さい」

言って亮が立ち上がって、深々と頭を下げた。それを見て、ぎゅうと胸が締め付けられる。


あたしには、頭を下げるほどの価値なんて ないのに…。



「あなた…仕事は何を?」

今度は母親が声を出した。亮は顔を上げて、一礼して再度ソファに腰をかけて。


「まだ駆け出しですが…プロの、サッカーチームに所属しています」

亮が言って、両親が少し驚いた表情をした。


「そうかね…」

父が、出されたお茶をすすった。少しの間の沈黙。





「私たちは…」

その重い、空気を裂いたのは、以外にも母だった。


「私たちが結婚をしたのは、あなた達よりももっと若い年のころでした」
「え…?」

「あなたたちの年のころにはもう、あなたは生まれていて、」
「お母さん…?」

なにかが ちがう。家の…いや、両親の雰囲気が今までにあったことのない、不思議な。


「世間知らずな子供のまま、その時の情熱だけで結婚をして、を産んで…」

母親が辛そうな表情をして俯いた。続きを、いえなくなったその母の言葉を父が継いだ。


「わたしはひたすら働いたよ。妻と、娘を幸せにするには、とにかく働くしかなかった」

確かに父は仕事仕事と忙しく、家に居る事は少なかった。幼い頃、何度も何度も母に父はどうしていつも家に居ないのか と、しつこく尋ねていた記憶がある。


「何年かたって独立して、わたしの仕事は更に忙しくなった」
「その頃から私たち夫婦にも、すれ違いが増えてきて…」

「ひたすら働くわたしと、ひたすら娘の育児と家事に専念する妻。次第に妻の方の不満が大きくなっていった。仕事ばかりのわたしは娘の面倒を見る事もなく、その事で妻に多々言われる事が増えて…」

「…私達は、最終的にそれを全て娘の、の、存在の所為にして…」


ドクンと心臓がはねる。幼い頃から聞いてきた、あたしへの、心をえぐられる コトバ。
あたしの頬を涙が伝った。

────今更、どうして今更そんな事を言うの…?


そう 言いたいけど、言葉が詰まる。そっと、亮があたしの手を強く握った。


「愛していたのに…、愛しているのに私達は娘を上手に愛してあげる事が出来なかった」

母が涙を流して必死に言葉をつぐんでいた。

「当然といえば当然かも知れない。わたしたち夫婦は幼い頃から、親の愛というものを知らずに育った」
「え…?」

父の言葉に、あたしは驚いて顔を上げた。父は暗い表情をしてしている。


「孤児だったんだ。わたし達は。同じ施設で育って、同じ時間を過ごしてきた」

父が、泣いている母の肩に手をかけた。そんな話、あたしは聞いたことがなくて、


「愛し方が判らなかったんだ。それを互いの所為にして、挙句の果てには娘の、の所為にまでした」


「最低の親だよ。私達は…」

父の最後の言葉に、母がぼろぼろと涙をこぼしていた。ごめんなさい と、小さく。何度も言って。


「さて、亮君」
「はい」

父が、強い眼差しで亮を見ている。

「これは、私達2人の結論だ。よく聞いて欲しい」
「…はい」

あたしの手を握っている、亮の手に力が入った。


「君達はまだまだ子供だ。…社会はそんなに甘くない」
「はい」

「君はスポーツ選手のようだし、困難な事のほうが多いかも知れない」
「…はい、」

父が、母を支えながらゆっくりと立ち上がった。それにならって、亮もあたしの身体を支えて 優しく立ち上がらせる。


「それでも君達が2人で支え合い、困難な道を乗り越えて行こうとするのであれば…」

父と、母が、ゆっくりと 頭を下げた。


「ふつつかな娘ですが…どうか宜しく…」
「…はい、必ず幸せにします」

「私達の大事な娘です…私達の分も、その子を愛してあげて下さい…」

母が、震える声で言った。


────これは…何の夢…?


お父さんとお母さんが…、あたし…?


…、」

お父さんが、あたしの方を 見た。見せたこともない、見たこともない、そんな 優しいかおで。


「誕生日おめでとう。幸せに…、なりなさい」





視界が、滲む。今まで誕生日おめでとう なんて。言われた事、無いのに。

あたしの心を大きく支配してきた。生まれてきてはいけなかったんじゃないか、という罪悪感。
父と母の言葉。あたしという人間が。

何の為に生まれて来たのかと思ったあの頃の思い、全てが。


────泡になって消えていくようだった。



「…〜ッ…」
、」

亮が、あたしの肩を優しく抱きしめてくれて。がんばれ、お前にはもう背負うものなんて何もないんだと。
あたしの気持ちを、後押ししてくれてるのがすごくよく 判る。


「あ、たし…っ幸せになる…っ」




お父さん、お母さん。あなた達の愛は、確かにすごくすごく判りにくかったけど。あなた達の間に生まれてきた事を、心底憎んだ事もあったけど。
あたしの事を必要として、愛してくれる人が確かに 居てくれるから。


今ではあたしを産んでくれた事、とてもとても 感謝しています。






「…じゃあまぁ、許しも出たことだし家帰ったらまずは子作りだな」
「そーいう事は2人の時に言えーーー!」




三流泥ドラマだよ!主役2人台詞無いじゃん!!パパママメインだろこれ!!と、突っ込み処満載の続編。

20070228(20041006)   秋夢うい


やっぱりあたしだまされてるんじゃないかなあ!