The hero of a





tale
俺は一度だって、物語の主人公になれたことは ない。





高校に進学して、俺はサッカー部に入部した。当たり前っちゃ当たり前のことだけど、あきらめが悪いっていわれたら、その通りかもしれない。


「上原ぁ!」
「おう!」

桜庭からの正確なパスを、俺は受け取って それをゴールに押し込もうとしたけど見事にポストに当たって、それは跳ね返った。その流れ球を、うちの背番号9番が拾って俺の変わりにゴールに押し込んだ。

「ナイスアシスト 上原っ」
「うっせぇ、」

笑顔で9番が走って来て俺に飛びついてきた。どうせ俺じゃあ決めらんなかったよ!と、反抗してやったら「ばーか、なにいじけてんだよ!」と、今度は桜庭が飛びついてきた。

「 ほ っ と け ! 」

俺は決していじけてるわけじゃ、ない。
俺は小さい頃からサッカーをしていて、普通のやつらよりは「少し」上手かった。中学の時、東京選抜にも選ばれて。普通のやつらからしてみれば、俺は「すごいヤツ」なのかもしれないけどそんなもの、選抜チームのやつらを見たら俺なんて本当に「平凡」な選手だった。

俺はいつだって、脇役だ。




「上原 昨日、」

アシストしたらしいじゃん おめでとう と、朝 開口一番に声を掛けてきたのはクラスメイトの、

「…
「なに、うかない顔して」

いつもの上原らしくないね と、は前の席に座って後ろを向いて俺を見てきた。「そーぉ?」と、自分でもわかるくらいのうかない声を出してため息をついた。 「どしたの」と、心配そうに顔を覗いてきて、「どーもしなーい」と言って俺は机に突っ伏した。(女々しいとか言うな!)


「俺、サッカーやめようかな」
「え、なんで」

「だって俺、ただの脇役だもん」

サッカーは好きだ。けど、それでもっと夢を追いかけて行こうと思ったらそれ以上先が俺には無いことを、散々思い知らされる。地域選抜に選ばれても、その中じゃレギュラーにもなれず。片や元チームメイトの中には日本代表、数人に至っては現役高校生にしてJリーガーがいる。


「カミサマって不公平、」

俺だって頑張ってんのにぃ と、ついに泣き言になってしまった。俺にはただ、実力が無いだけなのに。


「上原は、主人公になりたいの?」
「えー…?」

「や、そう聞こえなくもなかったから」

そう言われて、俺は考えみた。そんなもん、俺みたいなのがなれるわけ無い と、すぐに答えが出た。主人公になりたいと、そりゃ思ったことは何度もあるけど。


「やっぱ俺、脇役だし」

むしろエキストラ? とまで言って正直自分で少し落ち込んだ。…ただの通りすがりかよ。


「そんなことないよ」
「慰めてくれるな、余計惨めになる」

「そうじゃなくて、」

上原はかっこいいよ と、が言って 俺は驚いて顔を上げた。「なんか文句ある?」と、彼女は拗ねたようにそっぽを向いて すこし照れた感じだった。




「それって超 脈ありじゃねぇの!?」

やったじゃん上原!と、桜庭が興奮した感じで言ってきた。正直おれもそうなんじゃないかと、その時は浮かれていた けれど。

「けど、相手…俺だし」
「なに、その自信のなさ」

お前最近変じゃねぇ? と、桜庭は言った。自信が無い と、言われればそうだ。いつだって、俺は「自信」なんてもの 持ち合わせていない。持っているのは劣等感と悲壮感だけじゃないだろうか。

「こんなんが彼氏じゃあ、あいつが可哀想 だろ」

そもそも、ただの勘違いかもしれない。きっとそうだ、こんな俺のこと 好きになんてなるわけ ない。


「何か、今の上原 見ててすっげイラつく」
「桜庭」

「そんなん、お前らしくねぇよ」

情けないと、自分でも思う。サッカーが好きだから、趣味として続けていきたいとも思う。けど、 こんな間近で夢を叶えていくやつらを見てて、諦めたくない気持ちと、どうしようもない気持ちが押し寄せてきてしまう。
なあ、俺は。自分が向かっていく先を、見出せないんだ。





「まだ、うじうじしてんの?」

あれ以来、部活にも顔を出せなくなっていて。
放課後 誰も居なくなった教室で、俺はひとりぽつんと居座っていた。


「なんだよ
「さく 心配してるよ」

くそ、あのおせっかいめ と俺は思ってから顔を逸らした。すると彼女が苦笑するのがなんとなくわかって、そして俺の前の席に腰掛けた。(頑張ってすかしたツラをしてるけど、本当は内心ドキドキなんだよ)


「なんかよう?」
「上原がそう思うんなら、」

そうなんじゃない?と、は言った。意味不明だ。「用事があるのか」と、聞いたのにこの返事ははっきりいって変だ。


「なんだよ、それ」
「なんとなくね、上原があたしを呼んでるかなぁと、」

思ったから と、なんでこいつはこう、こっ恥かしいことを平気で言えるんだろう。「なんだよそれ」と、言われた俺が恥かしくて照れ隠しにもう一度同じことを言ってしまった。
とは、高校に入ってからもう二年 の仲になる。自分で言うのも変かもしれないけど、なかなか いい関係になると思う。好きなんだ。…俺はね。

お互い、同じ気持ちでいるんじゃないか と、思うことも何度もあったけど。いまいちあやふやな関係に、俺は最後の一歩を踏み出せずにもう一年以上が経っていた。(本当、情けない)


「…、やめるの?」
「なにが」

「サッカー、」

それでずっとうじうじ してるんでしょと、はオブラートに包む事もなく率直にそう言ってきた。痛いとこついて来るよなぁ と思いながら、暫く黙っていたら もそのまま何も言わなくなった。少し沈黙が続いて、それから俺は顔をの方に向けると目が合って、


「なぁ、はどうしてほしい?」
「そんなこと、あたしに決めさせるつもり?」

「…それもいいかもな」

自分では、決めきれない。誰かに後押ししてもらったほうが、楽だから。逃げてるだけなのも、じゅうぶん理解ってる。「お前があの時そうしろって 言ったから」後になって、そう言い訳が出来るんだから。


「やだよ」
「はは、やっぱり」

「あたしは上原のこと、」

甘やかしたりしない と、強い眼差しで言われて俺は ドキっとした。

「どれだけしんどくても、ちゃんと自分で決めなきゃ」

絶対後悔するから と、少し目を伏せた感じで言った彼女が なんだかすごく綺麗に見えたのは気のせいじゃない。彼女はいつもそうだ、どうしてこうも 俺を高揚させてくれるのか。(いや、なんとなくわかってるんだけど…、)

「俺さ、まだ一回も主人公になれたことないんだよな」
「主人公になりたい?」

「そりゃあな、でもまぁ 少なくともサッカーでは、」

永遠に脇役だな と俺は言った。本当はそれでもいいと 思う自分も居た。けど、そんな自分が許せない自分も確かに居て、どっちも決めれずに うじうじしてた。

「やめない、サッカー。続けるよ」
「…うん、」

いいよもう一生脇役でー と、吹っ切れて俺はんん と、軽く背伸びをした。ありがとな と、お礼を言おうとして、の方を見た。そしたら、嬉しそうに わらってくれていて。

「わかってないなぁ 上原は」
「なんだよ」

「上原は、もう主人公じゃん。だって、」

少し照れた そんな感じの表情をして、は身体を乗り出してきて ぶつかった視線が、どんどんと俺との距離を縮めていく。

「もう とっくの昔から あたしの物語の、」

おうじさまだもん と、とうとう 俺との距離は1ミリも無くなって、数秒してその無くなった距離にまた距離が出来た。それでもまだ相当近い距離のなかで俺とは視線を絡めあっていた。俺はなんかもうイっちゃいそうになっていた。(いや、心がな)

「…、普通おとこからしない?」
「自分からしといて言うか、それ」

「…まぁ、いいか」

つぎは上原からからしてよね と、俺から離れてぷいと 顔を逸らした。ああくそ、してやられた と思いながら、俺はどきどきする心臓を鎮められずにいた。


「こんなんが彼氏じゃあ、あいつが可哀想 だろ」


桜庭にああいったのは、本音半分 逃げ半分だった。簡単に言えば最後の一歩を踏み出す勇気が俺には無かっただけのこと。万が一、今までの関係が壊れてしまうようなことがあれば、正直俺どうしたらいいんだよ なんて、そうだな うん。うじうじ してた。


「なぁ、
「なによ」

「俺のおんなになるか」

椅子に座ったまま、背中は後ろに預けて両手はポケットの中。告白するにしてはなんて態度がでかい というか「あんた本気?」と言われても仕方ない格好。ごめん、最後まで情けなかったけど、きっちりしたらしたで逆に何も言えなくなってしまいそうで。


「…、馬鹿」

うっすらと、キラキラする瞳を見て 涙を我慢しているのがなんとなくわかった。

「かわいいとこあんじゃん」
「うるさい」

泣きそうな顔を隠そうとしているのか、照れ隠しなのか、しきりに前髪を弄って顔を隠そうと頑張っていた。そんなの癖を知っていた俺は、おかしくなってすこしわらう。


「な、なによ」
「べっつにぃ」

「上原のくせに、」

むかつく!と、俺に背を向けた。ああ、どうしよう。今までおもてに出さずにずっと仕舞っていた所為か、なんかもう好きで好きでしょうがないんだけど。

「で、なってくれんの?」

────俺のおんなに さ。


暫くの沈黙が訪れた。外から聞こえてくる部活動の声をBGMに、暮れてきた陽が教室をオレンジ色に染めた。まるで そう、青春ドラマのワンシーンみたいなこの状況に俺はなんだか激しく高揚していた。
はそれからまだ少しの間前髪を弄っていて、ゆっくり振り向いて。


「…なってやってもいいよ」
「…それはどうも、」

あんなにもビビっていた最後の一歩は こんなにも気持ちのいいものだったのかと、そんなことを思った。
俺は、サッカーでは主人公にはなれなかったけど、少なくともこのべた甘な恋愛青春ドラマの主人公にはなれるような気がした。

今日は記念すべき第一話だ。

「…じゃあ、お前きょうから俺のおんな な」


ああでも俺、最終回までちゃんとかっこいい王子様でいられんのかな。…無理だろうなぁ。



最初なんだか変な方向に進んで行って無理くり恋愛に持ってった結果がこれです。(ええぇ)
ちょっと弱気なあっくん、だけど最後はちょっぴりオトコマエを見せてくれました。そして初桜庭(出番少ねぇ)

20070314   秋夢うい


震える恋に10のお題 10:願うのは、後一歩を踏み出す勇気

「窓際でちゅーすんのはやめとけ」「…見えてた?」「ばっちり」