好きなのかなぁと思った瞬間、その場から駆け出した。後ろから、驚いてあたしの名前を呼ぶ彼のこえを無視して、幼馴染の家に駆け込んだのはつい一時間前のことだ。ちょうど電話しようと思ってた と言ってすこし微笑っていた。あたしのことも彼のことも良くしっていて、思い切り相談が出来ると踏んでのことだったのにそれは明らかに間違いだったと気がついた。こっちも逃げ出してしまいたかったけれど畜生わたしの事を理解しすぎだその手を離せ! 「いやだ」 いやだとか言うかこのヤロウ。必死に腕に力を入れて逃れようとしても目の前のコイツはまったくもって離してくれる気はなさそうだ。「んっ、んっ」と何度も何度も力を入れても押さえつけられている腕に無理矢理力を入れて動かそうとすると筋が痛んで攣りそうになる。 「なに、やりたいの?」 「それ以外なにがあんだよ」 「やりたきゃデリヘルでも呼べ!」 一気に3、4人呼べる位の金持ってんでしょうが!言い切って感情の波に息が上がる。あほか と冷静に返されて。 「…なんでかが、わかんないよ」 「お前がいままでわかろうとしなかっただけだろ」 ふいに首筋に小さく噛み付かれて、ぞわと鳥肌がたつ。すこし長めの黒い髪が頬にあごにくすぐったくて身を捩じらせた。それすらもわかっていたかのようにうまく囲ってくる。「あー」とか「うー」とか低い声を出してみるけど黙れと言わんばかりにキスでふさがれた。「んー!」と、その中で抵抗の声を出してみても舌で存分に邪魔される。 「泣いたって、やめねえぞ」 「それ、無理、やり、」 「ああ、する」 ああもうなんでコイツはこんなに追い詰められてんだ(いや追い詰められてんのはあたしか?) もう子供じゃないし痛みも快感も知っているけれど無理矢理されるのは初めてだ。ひょっとしてコイツそれに興奮してんじゃないだろうな とあたしの服を脱がしていくコイツを見ながらそんなことを思ってぐっと髪の毛を掴んでやった。 「い、って」 「ばかずま」 少なからずそれにむっとしたのか、あたしに髪を捕まれたままコイツはズボンを下ろし始めて(あぁあ見ちゃ、った)右ひざの裏を抱えられてそのまま照準を合わせてくる。おい待てこら前戯なしかっつーかゴムなしですか! と焦った瞬間突かれて、 「い!ったい!」 その衝撃に、もっと強く掴むどころか掴んでいた髪を放して自然とコイツの肩に手を置いてぐいと押し返した。もちろん意味はないけれど。反射だった。ああもうくそう久しぶりなんだぞバカ。それからコイツはからだを起こして服を脱ぎ捨てた。 「ばか、ずま」 「うるせ…」 言われて覆いかぶさってきてキスで塞がれた。コイツのからだは異様にあつくて、驚く。そのまま腰だけがゆっくりとあたしから離れていった。抜けないように気を付けながらギリギリまで引いて、すこしだけ挿れて、をしばらく繰り返された。痛いだけだった刺激も、なくなってきて痛みに寄せていた力の入った眉が楽になった。 それを理解ってか、浅く、を繰り返す中にたびたび最奥を突いてくる瞬間があって、思わず感じてしまう。 「ぁあ、もう、にくたらしい…っ」 「、そりゃどーも」 ほめてないっつーの!と突っ込む余裕すら与えてもらえなくて、かいかんの波とかんじょうの波が交互に押し寄せてきてくるしくて目をつむったら頭の中で白い霧のように散って佇んでいた記憶が凝縮しはじめた。そんなもの、戻ってこなくったっていいの に、 「おまえのこと、そういう風に見れない」 ほんの少しだけ、いつもよりも気合を入れたアイメイク。ぎゅう と、手を握っているのにわかるわけない新しいネイル。見せるわけでもないのに上下揃えられた勝負下着。思い切った言葉は、まっすぐな瞳に握りつぶされた。小学校の頃から一緒で、中学に入ってすきだと気がついた。高校生になってただの友達じゃ満足できなくなって。そんな想いはいとも簡単につぶされた。 「…おれより、」 次に言われた言葉に、つぶされた想いはあっというまに砂にされた。さらさら、さらさら、日が経つにつれてそれは霧のようにあたしの感情を曇らせた。言われた通り、その霧がかった感情で他の男と付き合って、その男と初体験は済ませた。その後も何人か彼氏が出来て、そしてやっぱり抱かれ続けた。だってそれが、 「一馬の、望みだったんじゃないの…っ!」 はじめにあたしを突き放したのは一馬じゃないか と、ああもう泣きたくなんか ないのに。あたしの気持ちに、一瞬ですら触れようとしなかったくせにどうしていまこんなカタチで触れているのか。動きをとめて、少しつった、目を細めてあたしを見下ろしていた。 「…そうだよ」 「っじゃあ、なんで…っ」 「余裕がなかった、から」 「ちょ、あ…っ!」 理解出来るような答えはもらえなくて、腰を引いて、あたしの額からぐっと髪をなで上げられて耳の下の筋に小さく吸いついてきた。ちゅ、と音がして耳元で「ごめん先にいかして」と口早にいわれて本格的に攻められる。あまりにも急に激しくされるものだから、ソファーから落ちそうになって必死にしがみついた。一馬の断続的な呼吸は、あたしをおかしくさせる。「あー…い、く、」ひくいのかたかいのか、かすれているのかわからないこえ。いつからこんなエロい声を出すようになったんだこいつは、 知らない知らないそんなもの。U-19に選ばれて、これから先のこと、他のチームメイトへの劣等感、焦り。あの頃の一馬にはいろんなプレッシャーや不安があって、そんなことわかっていたけれどそんなもの知らない。だからこそあの時期を選んだ。一馬はそんなあたしを選ばなかった。それどころか、自分の良く知るほかの男を薦められてそのまま自暴自棄になった。あたしの初めては彼にささげて半年後にはもう別れていた。その後付き合った彼の中には、それなりに本気の付き合いもあったけれど頭の中に佇むかんじょうの霧が、その恋に納得していなかった。 「さいてい」 「ドS」 「へんたい」 「いんぽ」 「さいあく」 「きちく」 「ばかずま」 「そーろー」 浮かんだ罵声を、思いつくまま全部並べて言った。最後までおとなしくきいていた一馬は「…よっつめと最後のは納得いかねー」数えてたのかばかやろう。最後のだけは絶対撤回してやんないからな。 「おれ、海外のチームに移籍するんだ」 「…、あっそ」 「スペイン。明日マスコミに発表されると思うけど」 「いい思い出作りにでもなったって?」 ふざけんな、あれから5年もたって、どうしていまさらこんなこと。思い出の日本を離れて、一馬はいいかもしれないけどじゃあ あたしは?今更こんなかんじょう、呼び起こされたってどうしたらいいかわかんないじゃないか。今まで一度も、あたしに触れたことなんてないくせに服の脱がし方もセックスの仕方も、全部ほかの女から学んだくせに(…醜い、嫉妬だこんなの) 「だから、」 ──── 一緒に、ついてきてほしいんだ 「……は?」 「だから、おれと一緒に行ってほしい」 あの頃よりも、すこし伸びた黒い髪。変わらないのは、馬鹿がつくほどの不器用さとまっすぐな瞳。 「あたし、通訳できないんだけど?」 「別に通訳しに来いって言ってんじゃねえよ」 「わかる ような、わかりたくないような」 「もうおまえのこと捕まえとく余裕も、準備もできたから」 泣いても無理矢理連れてくからな って、「なに強姦の次は誘拐ですか?」「おまえ本気で嫌がんなかっただろ」なんだ泣き叫んでればやめたっての?無理矢理するっていったのどこの誰よ!あ〜〜もうわけ、わかんない…っ! 「5年、かかったけど迎えにきた」 「どんだけ遠回りしてきたのよ!」 「おれがこういう性格だ ってわかってんだろ」 「わかっ、…てるけど!」 「あー…もう、いいから、」 ──── 結婚するぞ。 「してください、でしょーが!」 やりなおし! 5年目の、真実 「以外考えられない、おれと、結婚しよう」 |