高みを目指してひたすらだった。叶う、叶わない なんて愚問。そうなることが当たり前だと思って、自分自身のちからを信じて疑わなかったし、それなりの努力もしてきたつもり。事実、それを手に入れて今は更なる高みを目指してる。それに一生懸命すぎた なんて理由に言い訳なんかしたくないけど、あの時の自分は甘かった と、おかげで今は後悔してるよ。未だ手に入れられない 大切な、もの。 「新学期が始まったばっかりだっていうのに、」 ずいぶんのんびりしてるんだね と、リビングの戸枠に背中を預けて 腕を組んで言った。ソファにだらりと腰掛けて、ひたすら菓子の袋の中に行ったり来たりしていた手が止まった。一瞬、俺の方を向くのか という頭の動きをしたけど途中でぴた と止まって、 「…気のせい気のせい、」 そう言って彼女は、あまりにもだらりとした体勢を少しだけ正して 再び菓子袋に手が伸び始めたのを見て 俺はため息をついた。 「別に幻聴でもなんでもないんだけど?」 それとも何、幻聴にしたいほど俺がここにいるのは嫌なわけ? と、ちょっと毒を吐くように言ってやっと頭を後ろに向けて俺の方を見た。大して驚いたような顔をしているわけでもなくて、「Bienvenida」と冷静に言ってきた。 「何が”ようこそ”なんだか」 「お客様は歓迎しないとね、」 でないと不法侵入者みたいじゃない と言って俺の方に向けていた顔を前に戻した。俺はまたひとつため息をついて、彼女の方へと足を進める。L字になってるソファの端の肘置きの部分に俺は浅く腰掛ける。「なんか飲む?」と声を掛けられて「いらない」と短く返して。 「”久しぶり、元気だった?”とかそういう言葉は出てこないわけ?」 「久しぶり、元気だった?」 嫌味で言ってやったのに、俺のそれを皮肉にもまんま返してきやがった。なんだか怒ってやる気にもなれなくて、諦めて「やっぱり紅茶」と飲み物の催促をしたらは「はいはい、」わかってますよ とでも続きそうな返事をしてソファを立った。キッチンに入っていくの後ろ姿を目で追いながら、テーブルの端に置かれていた冊子を見て俺は少し眉を寄せて今まで彼女の座っていた場所に腰掛け直した。 暫くしてがポットとティーカップを持って戻ってきて、「あ、奪られた」と小さく声を漏らしてテーブルに置いた。は床に膝を付いてカップに紅茶を注いで、俺の前にそれを置いた。もともと置いてあった自分のカップにも新しく紅茶を注いで、俺とは斜めになるようにソファに座って。 「なに?」 「セイロン」 たった一言で俺の言いたい事を理解してしまうに少し悔しく思いながら、久しぶりに飲む彼女の入れた紅茶の香りをたのしみながら口にした。 「おまえ、学校は」 「今日はお昼からの講義しかないの」 でなきゃこんなにぐうたらしてないよ とは付け足した。まったくだね と俺も相槌をうってカップをテーブルに置いた。 「いつ日本に帰ってきてたの?」 「ついさっき、」 「そうなんだ。…おかえり」 すこし笑って言われて、不覚にもうれしいだなんて思ってしまった。帰って来た理由なんて聞いてくるなよ と心の中で願う。正直、自分が今ここにいる理由を自分で考えただけでも…恥な事このうえない。 「いま暇なの?」 「なにが」 「なにが って…」 仕事以外になにがあるの って言ってきた。暇なわけあるか!って言ってやりたいけどそれは流石に我慢した。言ってやるもんか、てゆーか言えるわけがない。 「別に、ちょっとオフ貰ったから里帰りしてるだけだよ」 「なんだ、マラガ 2部リーグ落ちしたからてっきり、クビに…」 「なるわけないだろ てゆーかなんで知ってんの!」 ああよかった、クビになったんじゃないんだ安心したー …って本当にほっとしてんじゃねぇよ! 「駄目だよ翼、こんなとこで油売ってる場合じゃないよ」 「なにが」 「ちゃんと練習しなきゃ、順位上がらないよ」 「日頃これでもかって位やってるつもりなんだけど?てゆーか僕ひとりでどうこう出来るレベルじゃないんだよね」 「でも2部リーグでも最下位になんかなったら翼、日本に左遷されちゃ…」 「俺 を 怒 ら せ た い の ?」 え、わかる? とわざとらしく驚いてみたりしてるけど、 「もう本当、呆れて言葉も出ないね」 「ありがとう」 「褒め言葉じゃないから!」 ああもう、どんどんと 俺のペースが崩されていく。がしがしと自分の頭を掻いて、イラっとした。身体を斜めに、の方に向けて背もたれに右ひじをついて頭を支える。そのときまた、テーブルの端に置かれていた冊子が目に入ってもっとイライラした。 馬鹿らしい。俺はこんな男じゃないはずなのに。 「、」 「はい」 「おまえ、見合いするんだってね」 今日初めて優位に立てた気がする。口をつけようとカップを持っていた手が止まって、俺の方を見たのかおがすごい驚いていて。ため息が出た。これを確かめる為だけに日本に帰って来た なんて、どうしたって言えるもんか。情けないね、緊張してるなんて認めたくない。指先だけが妙に冷えてて、…わらえる。 「なんで、」 「柾輝が電話で言ってただけだよ」 「…おしゃべり」 そんなに俺に知られたくなかったわけ?って言ったらあたりまえじゃない なんて言って。本気か?それとも俺をその気に期待させるだけの発言か?惑わされてる気がしてならない。柾輝から電話があったのは、丁度一週間前だった。「、見合いするらしいぜ、」どうする翼?なんて言われたら焦らないわけがなくて。 ただでさえ機嫌の悪い監督を言いくるめて、飛行機に飛び乗ったのは日本時間で昨日の昼過ぎ。 「なに、結婚したいの?」 「馬鹿言わないでよ、」 お父さんの会社の、上司の息子さんだから仕方なくだよ、そうため息をつきながらは言って テーブルの上の冊子───もとい見合い写真をちらりと視界に入れていた。ったく、親父さんも気が弱いんだから。 「そもそも、わたしまだ学生なんだから」 「まあ、そんなことだろうとは思ったけど」 すこし考えればわかることだったけど、それでも焦って日本に帰って来た俺は相当馬鹿だね と自分で思った。 「見せてよ」 「…は?」 「だから、写真」 どこのどんなぼっちゃんか見てやろうって言ってんの と言いながら寄越せとに向けて手を伸ばしたら、暫くじっと俺を見て ふよっと目を逸らした。 「…見ないほうがいいとおもうよ」 「いい、から 寄 越 せ」 ムッとして、ひくい声で言ってやったらそんな俺に気圧されたのか、ちょっとかおを不安そうに歪めて嫌そうに写真に手を伸ばした。両手でそれを渡してきて、受け取ろうと思ったらぎゅうと力を込めて放そうとしない。「はなせ」と再度きつく言ってようやくは手を放した。 どこのバカヤロウがこいつと見合いしようってんだ と思いながら開いて、薄い和紙も開いてみて…見て。 「…、…、…、………へぇ」 「だから、」 見ないほうがいいって言ったのに と、諦めたようにはため息をついて紅茶のカップに口をつけた。どこのちょっと年上でハゲかけのキモい男なんだろうね と思っていた俺はあまりの予想外の写真の男に言葉が出なかった。 「見たことある男だね」 「そうだね」 かっちりとスーツに身を包んで、きりっとした表情。お決まりなイスに座って、身体を斜めに向けて。 「──っは、なに気取ってんだか」 「翼すごいね、わたしそれ見た瞬間呆れるより先に」 わらっちゃった とは言った。俺は写真見て笑うより本人目の前にして馬鹿にしてやりたいよ と言ったらじゃあわたしの代わりにお見合い行ってきてよと返ってきた。 「来月からの代表合宿で嫌でも顔合わすんだ、そのときにでも散々言っといてやるよ」 「うわあかわいそう、きっと再起不能になっちゃうよ」 「知らないね、」 馬鹿馬鹿しいと言いながら俺は呆れて写真をに返す。「今度の代表合宿よろしくなって翼が言ってたって言っとく」ってお前それを見合いの席で言うつもりか?……あいつ合宿来ないんじゃないの。 「断れないわけ?」 「お父さんの立場もあるからね。形だけはお見合い するだけして、彼の方から断ってもらえるようになってるから」 「ああ、そう」 「安心した?」 ────安心した? 言われて俺は思わずをじっとりと睨んでしまった。こっちの気持ち、何にもわかってないくせに言うことだけはいっちょ前なんだから。 「見合い相手、もちろん柾輝は知ってたんだろうね」 「わたし、言ったもの」 「そう、それは良かった。」 覚えてろよ柾輝。これじゃあまるで、俺は恥かきに日本に来たみたいじゃないか。…いや、まったくそうだな。 「ところでお前、昼からの講義 なに、」 「ん?…んんん、なんだっけ?」 「詰まるとこじゃないだろ、そこ」 なんだっけなーなんだっけなー、って言ってるけど 何、そんなに俺には知られたくないのか と思ってすこし腹が立つ。本当にこいつは、 「ああ、思い出した」 「ああ、それは良かったよ」 「スペイン語、の講義だったかな」 俺はいつも、にペースを乱されてばっかりだ。今言われたことに思わず何も言えなくなってしまって、ゆっくりと視線だけをの方に向けた。そしたらも俺の方を見ていて挙句に「うそじゃないよ」?いい加減 腹、立ってきた。 「へぇ、なんのために」 「だって翼がスペインなんて行っちゃうから、」 わたし必死に勉強してるもん と付け足して。ナニ、そんな事言って、 「おまえ、俺のこと期待させるだけさせて どうしたいの」 思わず言ってしまって、後悔なんかしたって遅い。今までどうにも動けなかった自分が情けない。すこしの間、見詰め合うかたちになって、 「───期待、してるの?」 驚いて、言葉に詰まる。「言ってくれるね」って言ったら「なにが」と返してくる。 「まったく、わざとなのかそうじゃないのか、」 「翼に言われたくないな」 「なんだよ」 「翼だって、わたしを期待させるようなことばっかりして どうしたいの」 ふざけんな 以外に言葉が出ない。昔からそうだ、どうしてはいつも俺を惑わす。俺に向かっているような瞳、期待させるような仕草。どうれもこれもが、全部俺を惑わすんだ。たとえばそれが、 「ふーん、おまえ 期待してるんだ?」 「…知らないよ」 「…まったく、」 持ち上げては落とすんだね、お前は。って言ったらそれはこっちの台詞だよ って。どうしようもないったら ないね。 「じゃあまあ、必死にスペイン語 学んでろよ」 「言われなくてもしてるもん」 「お前が学校卒業するまでだからな、我慢も」 そしたら、お前が嫌だって言っても無理矢理、 「───攫っていくから、覚悟してなよ」 「じゃあ、」 ────早く迎えに 来てね。 言われて、笑いが込み上げてきた。ほんの少しだけ鼻でわらって、右手を額に当ててうえを向いた。もうそれこそ本当に、ため息しか出てこなくて けどそれと同時に嬉しくも思う。 期待ばっかりさせるから、いつまで経っても進めやしない。お前を抱きしめるのは、まだおあずけみたいだし。卒業するまでの間 もう暫くは、その期待に惑わされておいてやるよ。たとえばそれが、 たとえばそれが嘘だとしても わーお、久しぶりの翼さんはなんて別人!でも彼は、本当に好きなこには振り回されてると良いよ。 マシンガンだけが彼じゃない というのを書きたか…った。(大人になった彼はちょっとクールなんだ!/希望) そんで見合いの相手は真田あたりだと良いよ(笑) 20070412 秋夢うい ( 「とりあえず、レアルあたりに移籍申請だして、」 「…なんだって?」 「せめて1部の 「い い 加 減 怒 る よ 俺 !」 ) |