幼馴染と呼ぶにはもっと近くて、恋人と呼ぶにはまだ 遠い。










「おかえりー」

練習から帰って来た俺の部屋で、俺のベッドで、俺を迎えたのは幼馴染のだ。嬉しいのか悲しいのか、今の状態では、俺は 後者だな と思いつつ「おー」と、平然を装いながら返す。


「いつから来てたんだよ」
「ん。ついさっき」

もそもそと俺の布団から出て、んーっ と声を漏らしながら背伸びをし、「くぁ」とひとつ大きな欠伸をしたを見て ため息をつく。

「で、今日はなに」
「二人とも居ない 日、」

そう言った、の視線の先は窓の外の遥か 遠く。の両親が、出張で家を空ける日 それはもう小さな頃からの決まりごとである、俺の家で夕飯を済ませて ときには泊まっていく。


「…、そっか」

久しぶりに、の様子が落ち込んでいる事に気付く。にとって、両親は家に「居るか、居ないか」の存在でしかない。父親は大きな企業の役職者で、母親も同じ処に勤めている。家を空けることがとにかく多く小さい頃、今日と同じ理由で家に泊まりに来ていた時、淋しさに母親を想って泣いているのを何度も見たことがある。


「ねぇ淳、今日泊まってってもいい?」
「…おぉ」

因みにそれは俺の部屋ですか と、聞きたくても聞けない。


「少なくとも俺は、幼馴染なんかじゃ満足しない」


そう言ってキスをした、あの日から一ヶ月と少し。まだ、俺との関係は以前と何も、変わっていない。あの時は熱があったから、ひょっとしたら夢か何かと勘違いしてたんじゃないだろうかと、最近ではそんな不安さえ ある。

踏み込んで行けない自分と、この事実に イライラさえつのってくる。


「…
「なに?」

「…や、なんでもない」

何の含みのない笑顔で、返事をされてしまっては 何も出来なくなってしまう。ただひたすらに、への想いが日に日に積もっていく。





「やっぱり女の子はいいなぁ」

夕食後、台所でかーさんと並んで後片付けをするを遠くから見て 父さんがぽつりと言った。


「なんだよ。ここに可愛い息子がいんじゃん」
「女の子の方がいい」

会社でそれを言ったらセクハラで訴えられるぞクソ親父 と、言ってやりたいのを堪えた。かーさん同様、この変な親父ものことがお気に入りで仕方ないらしい。


「いつ嫁にくるんだ?」
「知らねぇよ、てゆーかなんだよそれ…」

でも淳には勿体無いよなぁ… とまだぼやく親父に、俺は深くため息をつく。


「淳ー」
「なにー!」

台所からかーさんに呼ばれる。また「手伝え」だとかなんとか言われるんだろうと思って立ち上がる。向かおうとしたその瞬間、言われた言葉に俺は、


「今のうちにお部屋にお布団、持って行っときなさいよー」


そしてまた、あの時と同じように。ベッドはちゃんよ と、まったく同じ台詞も追加されて。驚いての方を見ると、「だって泊まっていいってさっき言ったよー」と、さも当たり前のように返された。どうやらの意識では、泊まる イコール 俺の部屋 というのが成り立っているらしい。


「おい淳!子供だけはまだ作るなよ!?」

避妊だけはちゃんとしとけ!? と親父に耳元で嬉しそうに言われて、カーッ と頭に血が上った。


「なんもしねーよ!てゆーかありえねーっての!」

そう叫んで言うと残念そうな顔になった親父を見て、自分の言った台詞に 自分で落ち込んだ。





「何考えてんだよ、

今日ばかりは、いつもみたいに流されるまま 甘い顔なんてしていられなかった。ずるかったかもしれないけど、俺はあの日 ちゃんと自分の気持ちをぶつけたつもりだったのに、


「なに って、明日の朝ご飯かな」

おばさんのご飯食べれるなんて幸せ と言ってわらうに、イライラが募る。聞きたい言葉はたったの一つ。応えて欲しいものも、たった一つ。いつも一番近くに居て、何でも理解るようになったのに まだ一度も、その「理解る」部分をから直接聞かされた事が無い。

だからこそ、ああして自分の想いをキスに託して 伝えたつもりだったのに、伝わっていない。それどころか、何も聞かせてもらえない。あのときみたいにもっと、必要として 甘えて欲しいのに。



────俺は、欲張りなんだ。




「好きだ」

まっすぐに見据えたの目は 揺らいでいた。遠まわしだったからわからなかった とか、キスされたことなんて熱で覚えてない なんて言わせない。欲しくて、欲しくて欲しくて仕方なくて。


「あ、つし…?」
「俺はのことが好きだ」

逃げ道なんて作らせない。俺が甘やかすことで、がもっともっと辛くなるだったら、ちゃんと言って欲しい。それを全部受け止める自信も、想いの深さだって 強い。


「淳…?どうしたの…?」

ねぇ、今日おかしいよ と、少し顔を紅くして不安そうに小さく言った。

「離れて行くかもしれない なんて思わなくていいから。俺はずっと、の傍にいるし、誰よりもずっと、」


「おかあさん。おかあさん」


小さい頃、仕事に出て行く母親の背中を見ながら泣いていた 。本当は家に居て欲しくて、もっと甘えたくて。ぎゅ と、抱きしめて欲しくて。必要と して欲しくて。


「おかあさんはあたしがいなくてもいいのかな?」

「あつしのおかあさんみたいにやさしくしてくれないのかな?」


寂しくて淋しくて。でも決してそれを言葉に出して言わなかったを、俺は見てるだけしか出来なかった。そんなことが小さかった俺にも理解る位、それはすごく伝わって来て。



────誰よりもずっと、必要としてるよ。



「泣いていいよ。この前みたいに 不安になったり、寂しかったり。悲しかったりしたら泣いていいから。俺は嫌じゃないし、から離れて行ったりなんか しないから」


────だからもっと、ちゃんと。



「全部俺に、言って」

ちゃんと抱きしめに行けるように。傍に居てあげられるように。


「……っ、」
「寂しいならいつも俺が一緒に居てやるよ。泊まりに来たって、迷惑じゃないから」


────もっと俺のこと、必要として。


ゴンッ と、壁に頭をぶつけた。ぎゅう と腰に、飛び込んで来たの腕がきつく絡みついてくる。安堵して俺も背中に手を回してぎゅ と力を込める。やっぱり何も言ってくれなかったけど、ただひたすら 俺の腕の中で泣いていただけだったけど。



「だいすき…っ」

その時ただ一度だけ、小さな声で言われたその言葉がまた少し 俺との関係を進化させた。
そのあと、俺のベッドの中で 手を繋いだまま安心して眠るの鼓動に、おれの複雑な想いをのせたまま夜は更ける。

「まぁ、いいか…」

ぎゅ と、すやすやと可愛く寝息をたてるの頭を抱き寄せた。柔らかい 優しい匂いと、胸に詰まる愛しい 想い。まだまだ俺たちは、


────幼馴染と呼ぶにはもっと近くて、恋人と呼ぶにはまだ 遠い。


それにまだまだ満足出来ない俺は、本当の本当に 欲張りかもしれない。




幼馴染進化論シリーズ(あ、シリーズなんだこれ)第二弾。前話のやわらかい雰囲気とは違って、なんだか可笑しな進み方と展開。あっくんは優しくて攻め派なんだ! と、いうのを表現したかっただけ。淳パパ、ただただ変なひとになってしまいました。

20061108(20050520)   秋夢うい

手の温もりとの温もりが、俺を安心させる