待ってるだけじゃ絶対に見つからない。そんなものを俺は手に入れたいと思っていて、 「一週間と三日、」 最短記録ねと、ため息混じりな嫌味を、コイツは言った。かーさんから聞いた情報によると、もうすでに俺とコイツとの関係は17年にもなるらしい。俺の机の上に置かれた卓上カレンダーの、ハートマークの付いた日から先、今日までを細い指でなぞって言われたのがその言葉だ。 「…うるせ」 自分のベッドに寝転んで、右腕を枕にして俺は自分でもわかるくらいぶすっとした顔でそう言ってやった。いい加減にしたら?とでも言うような、そんな表情で見られて何故か俺は自分の母親に説教をくらっているような錯覚を起こした。 キイと、耳に付く高い音がして後ろに凭れかかったんだろう事が視界に入れなくても理解出来た。またネジ締め直さな と思いながら俺は、短くため息をついて、 「なんつーの?結局は興味本位ってゆーかさ、」 そーゆーの、わかる?と、ハンガーにかけた、青い色のユニフォームを俺は指差した。口を少しへの字に曲げた顔で、コイツは肩をすくめて「まあね」と言った。 「あーあ、結局俺ってそれだけの男っつーことかぁ」 「いるよ、絶対」 「なにが」 「ちゃんとみてくれる、おんなのこ、」 本気で、結人のこと と、伸ばされた手の、中指でトンと額を突かれて不覚にも嬉しいだなんて思ってしまった。 * 「…俺、決まりそう」 夏休みも終って、それこそ受験一色になってきた秋も初めの頃、何だか申し訳なさそうな顔で、小さく言ったのは一馬だ。いつものように、ユースの練習も終わってマックで月見バーガーを頬張っていた時だった(毎年この季節限定っていうのがそそられるんだよな) 俺も英士も、一馬が何を言っているのかわからなくて「は?」と二人して声が揃った。「怖えーよお前ら」と、笑ってたけど様子がおかしいのにはすぐに気が付いた。 別に焦ってるわけじゃねーけど、自分ひとりになる寂しさだけはどうしても拭いきれるわけでもなくて、これから先どうなっていくかなんて、これからのその瞬間の俺しかわからないわけで、 「良かったじゃない、」 俺たちの中で、第一号おめでとう と、英士が嬉しそうに言った。ああ、やっぱコイツ大人だよなーと、俺はそんな 変なことを思った。一馬の癖に生意気だぞ!と、一馬のナゲットを一つ奪い取って自分の口の中に放り込む。 その時何故か、いつもの幼馴染の顔が浮かんで来たのはちょっと驚いたからだ。そうに決まってる。 * 「…また泣かせたの?」 泣かされたのは俺の方だっつの と、季節らしい紅葉の形に色付いた自分の頬を撫でながら反論する。何度も何度も、同じ事を言われたことはあったけど、 「殴られたのは初めてだよ、畜生…」 「よっぽど結人のこと好きだったんだね、」 その子 と、コイツは言った。カレンダーの、赤いハートマークの付いた日を俺は黒のペンでがしがしと消して、チラ とコイツの方を見た。いつもと、変わらないように見えてでも、今絶対コイツ落ち込んでる と思う、自信があるのは もう17年も一緒にいるがゆえのものだ。(英士と一馬よりもなげーんだからすげー事だよな、うん) 「…今回は理由、聞かねーの」 「…、聞いて欲しいの?」 じゃあどうぞ、はい と言って、俺の方に身体を向けて言ってきた。俺はそれにカチン ときて、ぎゅと眉を寄せて、 「」 いつもの声よりも、少し低いおとで名前を呼ぶ。「うん」と、小さく返事が来て俺はひとつ、大きくため息をつく。俺は別に、内緒にしてたわけでもわざと黙ってたわけでもない。決まったその日は俺の中ではお祭り騒ぎだった、わけだし。(まぁそれを表に出さないのが俺だけど?) 寧ろどんな誰よりも、一番に報告に行きたいと、思った時もあったけれどそれに気付いてしまった俺はまた、その意味に気付きたくなくて変な意地を張ってた結果が今のこの状況なわけですけど。 「別に、言いたくなかったとかそんなんじゃねーよ」 「結人、そんなひどいことしたの?」 駄目じゃない、おんなのこには優しくしなきゃ と言うに、普段すげー大人な癖に、時々変な事で子供になるよな と、心の中で言ってやった。 「大阪、行くぞ。俺」 ぐ と、ほんの少しだけの眉が寄って視線が俺から外された。本当は、素直に喜んで貰えると思ってた。のおばさんから、コイツが、 「ずっと、黙ってたことは謝るよ」 「別に、わたしには関係ない し、」 「じゃあ、なんで、」 ────結人くんが行っちゃうの、寂しいみたいなのよ。 そう、おばさんから、聞いたことだ。 寂しいなんて感情、本当はと同じくらい俺だって強い。でもそれ以上にずっと頑張って来た、夢が叶うこととこれからの俺の在りかたに、頭と気持ちがいっぱいだったんだ。 「どうしても大阪じゃないと、だめなの」 「…おま、それは…」 不 意 打 ち だ 。 今にも泣きそうな顔で、上目遣いをされたら俺だってぐらっとくる。そりゃ他に、俺を必要としてくれるチームがあれば大阪じゃないかもしれねーけど、でも。 「…うそ、わかってる」 ちゃんと、わかってるから。 だから大丈夫 と、泣くのをこらえて必死にわらう。そんなを見て(畜生こんなん反則だ…)なんて思ってる俺は本当はもうずっと前から、わかってたんだ。 俺は小さい頃からずっと、待ってるだけじゃ絶対に見つからない。手に入らない、そんなものを手に入れたいと思っていて、必死になってあがいていた。その中のひとつを、ようやく手に入れる事が出来ると実感した時に、また別の、手に入りそうで、入りそうじゃない、すごくあやふやな関係に甘えていた事にも気が付いて、触れてしまえばすぐにでも崩れてしまいそうな、愛しい、 「、」 なに、と言いかけた言葉を無理矢理遮ってやった。しばらくそのままで居てやったら、の唇から俺の唇をつたって驚きと緊張が伝わってきた。 「今まで付き合ってた俺の彼女。ずっと、お前の代わりにしようとしてたの、」 気付いてたろ と、おでことおでこをくっつけて超至近距離で目を見て言ってやった。手に入れるのは簡単だけど、その後ずっとそれを維持するのが難しい事を 無意識の中で意識的に感じ取っていた俺はずっと必死にコイツの代わりを、探してた。 「わたしも一緒に大阪行きたい…」 「…だーめ、」 お前が傍に居たら俺、きっとサッカーもお前も中途半端になって絶対後悔する。だから、 「だからお前は、俺が迎えにくるまで、おとなしく待ってなさい」 探しても探しても見つからない、大切なものは 「ずっと、傍にいてくれてありがとな」 そう言ったら、は本当に嬉しそうに「うん」と笑って「わたしも、ありがとう」と言ってきて俺は耐えられなくなってぎゅうと強く、抱きしめた。くすくすと笑って、「痛いよ、結人」と言いながら優しく回されてきた手に、 俺はありえないくらいの幸せを感じていた。 昔、某企画サイト様にて、ブルーバートというお題をもとに書いた作品。「幸せの青い鳥」いい響きだ…。一生懸命探すけれど、ほんとうはすごく身近に大切なものはあるのです。 20061111(20051005) 秋夢うい (さあ、幸せ探しの冒険へ) |