こどもの頃のあの約束を、守れるときが近づいて来ているような気がした。 沢山のダンボールとゴミに囲まれて、俺は一つのビニール袋を手に取った。中には、何重にも何重にも重ねられて かなりの厚さになっているピンク色の封筒(まるでロシアのおもちゃの、マトリューシカのようだと思った)。それは大分色褪せていて、封筒の端々が少し茶黄色く変色していた。 俺はビニール袋の中から封筒を取り出して、厳重にのり付けされた封を出来るだけ丁寧に剥がしていった。 「うわ、なつかしー…」 厳重な封筒の中に入っていた、一枚の紙切れを抜いて見て 俺はあまりの懐かしさに思わず声が出ていた。 さすがに厳重にしていただけのことはあって、封筒ほどその紙切れは色褪せていなくて綺麗なままだった。 「ちょっと結人、なにしてんの?」 全然進んでないじゃない と、部屋に入ってきたのは俺の いわゆる幼馴染とゆーやつで、ほんの二ヶ月ほど前に(やっと)かのじょになった だ。 「おーコレ、見てみろよ」 「なに?」 俺は自分の口元が緩んでしまっているのに気が付いたけれど、どうにも抑えられなくて。持っていた紙切れを、に見やすいように少し持ち上げて見せる。が俺の前に座って、「んー?」と小さく声を出して覗き込んだ。 「あたしは、…しょラらい…ゆラとの?およ…?」 「ぶは、読みにくいだろ」 声に出して必死に内容を読もうとするに、俺は思わず噴出して笑う。は「なによう」と、ちょっと拗ねたような顔をして俺から紙を奪った。 「あたしは、しょ…しょうらい?ゆうとのおよめさ…」 「思い出したか?」 眉を寄せて、んん と悩んでいたの表情がなにかに気付いたようなものに変わって、 「うん。思い出した…これ、」 「なつかしーよなー」 ちょっと照れたような、でも懐かしい 嬉しそうな、そんなかおをはしていた。 確かまだ、小学校に上がる前だったと思う。その頃一緒に見たテレビ番組で、結婚式の特集をしていて、 「ねぇゆっと、あたしもこれきたいなぁ」 どこで売ってるのかなぁ なんて、が言い出したんだ。それに俺は、 「ばーか、これはうえりんぐどれすってゆって、およめさんになるおんなだけが、」 着れるんだぜ!なんて、えらそうに言ったんだった。そしたらが「じゃああたしもおよめさんになる!」なんて言い出して、 「そうだ、それで結人があたしに言ったのよね」 くすくすと笑いながら、が言った。 「およめさんにはひとりでなれないんだぞ!」 「じゃあどうしたらなれるの?」 「おれがおまえをおよめさんにもらってやるよ!」 あの頃は、それがどういう意味なのかそりゃもちろんわかってなかったわけだけど。親父とかーさんみたいになることだ っていうのはわかってた気がする。 「それで結婚するには婚姻届がいるんだ って後から知って書いたんだっけ」 「でもって結人が18になるまでは結婚出来ないんだっていうのも聞いて、」 「じゃあ約束だね て、」 二人してせいやくしょだー!って、意味もわかってないくせに書いたものだった。けどあのときの俺は、大人になってもと一緒に居られるんだって、すごく嬉しかったのを今でも覚えてる。ひょっとしたらもう、その時から俺は、 「さ、結人 片付け再開しなきゃ、」 後一週間しかないんだよ と言って、は二人の誓約書をもう一度封筒にきちんと入れて大事そうに机に置いた。大阪ってどんなところかなー、向こう着いたらたこやき送ってね なんて楽しそうにしてるけど。 「わたしも一緒に大阪行きたい…」 俺が大阪行きをこいつに話した日、一緒に行きたい って言った。けど俺はお前が傍にいたらサッカーもも中途半端になって後悔するから って。そう言ったことは間違いじゃないと思ってる、けど本当は傍に居たい 居て欲しいとも思ってて。それをちゃんとちゃんとわかってくれて嬉しいとも 思う。けどな、 「、」 俺は、雑誌やらなんやら散らばっているベッドの上に腰掛けて名前を呼ぶ。そしたらは「なに?」と俺の方を見て「もう、サボってないでちゃんとやってよ」と、俺の手を引こうと伸びてきたの手首を掴んで。 「お前はもうちょっと、わがままになってもいいから、」 「結人、なに言って…」 「ほんとは俺だって、お前のこと連れて行きたいって思ってるよ」 あの日以来、は一度も俺の大阪行きに対して寂しいだとか、行って欲しくないとか、何一つ弱気なことを言わない。それが俺にしてみれば余計心配なわけで。 「結人…」 「どうせお前のことだから、俺が向こう行ったって 会いたいとか、ぜってー言わないだろ」 「だって、そんなの…、」 結人のこと 困らせるだけじゃない と、は少し顔を赤くして俯いた。 「そりゃ確かに、会いたい会いたいばっか言われても困るけど でも、」 お前の場合ちょっとくらいわがまま言ってもらった方が俺は安心するし、嬉しいんだよ と、の手首を掴む手に少し力を込めた。そしたらは俯いた顔を少しあげて、上目の涙目で。ちらっと一度だけ俺と視線を合わせてまた俯いて、 「さびしいよ、ほんとはまだ、」 行って欲しくないよゆうと と、時々言葉を詰まらせながらは言った。それに俺は思った以上にぐっときて、手首をぐい と思い切り引いてベッドの上にの身体を落とす。邪魔になる、本やらなんやらを乱雑にバサバサと落として 驚いた顔をしているに我慢できなくなって唇を塞いだ。 「なぁ俺、もう18になった」 「っや、ゆ…っ」 「まだ、お前のことよめさんには出来ないけどさ、」 一度すると止まらなくなって、唇だけじゃ足りなくなっての首筋をキスで辿りながら、 「俺の気持ちは確実に、そこに向かってるから、」 俺が一人前になるまでもう少しだけ、待っててよ と、言って俺はに覆いかぶさっていた身体を少し起こしての顔を見る。はたっぷりと涙を流して俺を見上げていた。 「ゆうと、絶対向こうで大阪美人と浮気するもん」 「しねぇよ、決め付けかよ っていうかなんだよ大阪美人て」 「ゆうと、離れたらきっとあたしのこと忘れちゃうもん」 「18年近くも一緒に居ていまさらそれはねぇだろ」 てゆーか、俺は信用がねぇのか?と、苦笑して言う。は本気じゃなくて、きっと寂しい悔し紛れにこんなことを言ってるんだろうなんて事は考えなくたってすぐにわかる。昔からホントに寂しかったりするとはぐらかしたり、強がりなところがあったから、 「ゆうとが近くにいなかったらあたし他にすきなひとできちゃうかも」 「…いや、それはマジでありえそうだからやめて」 最後のは効いた。そうだ、だって幼馴染のひいき目抜きにしてもそれなりに可愛い。春からは短大生になるんだし、もし他に男が寄ってきたりなんかしたら…、 「無理、マジ無理」 「…じょうだんだってば」 本気で焦って、俺は自分でもわかるくらい真顔で言った。も本気にすると思ってなかったのか、ちょっと言い過ぎた?といったようなかおをしていて。 「ああくそ、もうちょっと我慢するつもりだったんだけどな」 「は?」 せめて大阪で、俺が少し活躍できるようになったら と思って一生懸命我慢してきたわけだけど、 「ちょっともう、無理かも」 「なにが?」 「、すげーすき」 折角止まりかけていたの涙がまた復活して、「あたしも、結人 すき」と 恥かしそうに小さな声で言った。俺は嬉しくて 自分の顔が少し緩むのがわかって、再度強めにの唇を塞いだ。もそれに応えてきて、俺の背中にゆっくりと両手が添えられた。 「…、」 「ん…」 「…、していい?」 うるんだ瞳に、ちょっと上気したかお、そんなんで見上げられて思わず声がかすれた。「う、な、なにを…?」と、ちょっとどもりながらが聞き返してきた。 「なにって、セックス」 「むっ、むり!やだ!」 何のためらいもなくズバっという俺。一気に顔を赤くして、全力で否定しては組み敷いた俺の腕から抜け出そうともがいた。そんなん俺が簡単に「わかった」なんて許すはずもなく、咄嗟にの腕を掴んでベッドに押し付け 逃がさないようにして、 「俺だって無理だもん」 「っだ、あたし、まだ…」 はじめてだもん なんてそんなかおで言われたらそれこそ我慢出来なくなって、 「わかってるって、怖くない怖くない、」 「ゆ、ゆうとっ」 「はやく俺のもんにしたい」 さっきのは冗談だって、わかってるけどでも本心は心配で不安でしょうがない。だから抱いて、俺のもんなんだって、実感が欲しいわけで。 「俺にまかせとけ」 「…、…ひゃっ」 首筋に唇を押し当てて、のにおいを感じる。服の上から、ゆっくりと胸を揉んで(その時意外と大きい事に驚いた)、その俺の手を退かそうとしているのか、腕に手が当てられたけど力が入らないらしく 寧ろ添えられている感じだった。 「はぁ…、お前ほんっとかわいーな」 「っ…やだぁ、」 今度は服の中に手を入れて、ゆっくりと撫でながら上へ上へと手を這わせていって今度はブラジャーの上から、指で掴むようにして揉んだ。が小さく声を漏らして、俺の肩口を掴んで少し力が入っていた。俺も興奮してきて、ブラジャーのカップの部分を下げて 親指の腹でこするようにして押したりつまんだりして。 手は服の中のまま、俺は自分の身体を少し動かして 自分のベルトを緩めて前のボタンを外してくつろがせる。こんどはの、キラキラと沢山の石がついたベルトを外してボタンを外し、ジー っとゆっくりチャックを下ろして、下着のラインを辿りように指の先から撫でる。「…ぁんっ」と声をあげての身体がびくん と、大きく反応して、 ────コン、 コン? 嫌な音がして、その音のした方を見る。俺の部屋の戸は開いていて(てゆーかしまった閉めんの忘れてた)、そこには呆れた顔した英士と こっちを見きれない一馬。「うげ」と俺は思って、英士はひとつため息をついて、もう一度コン と、戸をノックした。 必死だったんだろう、一度目のノックじゃ気付かなかった 目をぎゅうと瞑っていたが英士の方を見て、「ふぇ〜〜」と変な声を漏らした。 「えいしく〜ん」 「あ、こら卑怯だぞっ」 この状況から抜け出せると踏んだのか、は安心したように少し表情を緩めて助けを求めるように英士の名前を呼んで手を伸ばした。 「結人、プロで活躍するまで自分におあずけするとか言ってなかった?」 ねぇ一馬 と、意地悪い笑みを浮かべて英士は言った。一馬も馬鹿正直に「言ってた」なんて余計な事言いやがって。 「俺たちだって忙しいのに、引越し準備手伝ってって泣き入れてきたのは誰」 「それはな英士、俺だ」 しまった、それ今日だっけ と俺は思いだして。 「でもな英士、俺の息子さんはすでに戦闘準備万全なんですけど」 「知らない」 「一馬、お前ならわかってくれるよな!」 「いや、わけわかんねぇから」 そうこうしているうちにがベルトまできっちり締めて俺の下から抜け出し、英士の後ろに隠れて。 「もイヤだってさ」 いい気味だね と、英士が嫌味たっぷりに言った。そうなると俺は諦めて自分のベルトも締めなおして。 「さ、結人さっさと片付けるよ」 「英士の鬼!」 「誰のためにやってあげてると思ってんの、」 悔しかったらさっさと片付けてからすれば?と、英士は散らばった本を拾い始めた。その言葉に一馬は苦笑しながら「俺はどれ片付ける?」とか言って、は「え、じゃああたし片付けたくない!」とか言い出して。 「一時間で全部終らせてやる!」 「そうしてもらえると嬉しいね」 「あたし、帰るもん!」 「なに!それじゃあ俺が頑張る意味がねぇ!」 ぎゃあぎゃあと、俺とが騒いでいると英士が俺に向かって本を投げつけてきて ヤバいそろそろ本気で怒りそうと思って俺はしぶしぶ片付けを始める。は「しないもん、絶対しないもん」と、一馬に向かってぶつぶつ言っていた。(てゆーかそこまで拒絶するか普通!?) 俺はまだ当分させてもらえそうにねぇなーと、諦めてため息をつく。 片付けながら、のことを考える。残り一週間、最後の日の夜には、リボンを付けた 新しい家の合鍵を渡して。 「会いたくなったらいつでも来ていいからな!」 なんてカッコつけて言ってみて、目下 活躍出来るようになるまではキスだけで我慢するよ。だから せめて。 他のおとこ好きになるなんてことだけはやめて欲しいなぁ、なんて。 そんでちゃんと、迎えにいけるその時まで 待っててくれよな。 久しぶりの新作でごわす。ちょっとこういう日常の1コマ的な感じのものは珍しくなりました。 そんで下ネタ表現も久しぶり。唐突に結人が書きたくなりました。微妙だなぁ… 20070227 秋夢うい |