二年とすこしまえ、高校に上がる前に部屋の模様替えをした。普段からちょこちょこ変えるのは好きだったけどこんなにがらりと変えるのは初めてだった。絨毯を新調して、家具の位置を全部変えた。何年も使い古した歴史ある目覚まし時計も、子供のころのアルバムも全部汚いダンボールに入れて物置に押し込んだ。部屋の光も影も漏れないように、分厚い、でもまっしろなカーテンを買ってしかも二重にしてつけた。

わたしとあいつの境界線。わたしのこの感情も、汚いダンボールにいれたつもりで押し込んで隠した。


お母さんが「ちょっと若菜さんとお昼食べてくるからね」と言って嬉しそうに出ていった。「どっかの娘の違ってこっちは仲がいいのね」と独り言につぶやいた。ふっと短く息を吐いた瞬間、ベッドの上に放置していた携帯電話の着うたが大音量で流れてきてわたしはつい素っ頓狂なこえを上げた。

急いで電話を手にとって、相手を確かめた。わたしはそれには出ずにそのまま窓に寄って 例のカーテンを引いた。その瞬間携帯は静かになって、ガラ と勢いよく窓をあけた。

「…なによ、」

なんで笑ってんのよ と、窓の向こう側。さらに言えば、向かいの家の部屋の中でこっちを見て大爆笑しているやつをわたしは睨みつけた。

「だっ、おま…ひゃぁ!って…っ!」

っかしー と、涙をも流しかけない勢いで笑い続けるやつに、ムカついて傍にあったぬいぐるみを投げつけた。「いって!おまえやめろって!」と言いながらも笑う彼にムカっときて、窓を閉めてやろうと少し引いた。

「あー!ちょ、まてまて

悪かった、おれが悪かったから!と、結人は少し焦って笑うのをやめた。(それでもちょっと顔が笑っていて、おまけにもうひとつぬいぐるみをなげつけた)

「なんかよう?」
「や、まあ…そっち行っていい?」

わたしが投げつけたぬいぐるみを二体拾って、結人は「ほら、こいつら連れてってやるから」とわけのわからない事を言ってニカッと笑った。(そのさわやかさがむかつく!)

「…いいけど、」
「んじゃ、おじゃまします」

口では礼儀正しい事を言っていても、行動はそうでもない。わたしと結人の家の、70センチほど空いた隙間をまたいで結人がわたしの部屋に入ってきた。「あれ、お前また模様替えした?」と、入ってきて部屋を見渡すなりそう言ってきた。

「また変えたって…結人が最後にわたしの部屋来たのいつよ」
「えーいつだ、去年…?」

ちょっと待て、そんな前だっけ と、真剣に頭をかかえて悩む結人にわたしはため息をついた。「去年?ほー、去年ですか。わかなくんの記憶はいったい何年前から止まってるんですかねー」と言ったら「いやおれまだそんなヤバくねーぞ」とか的外れなことを言ってよこした。冗談でそう言ってるのか、本気でわからないでいるのか もうどうでもよくなって、わたしは隠しもせずにあからさまにため息をついた。


「そんなまえ?どころこか高校入ってから、」
「…え、」

一回も来てないでしょ と、あきれて言った。すると結人は「あー、そっか、そうだな、うん」となんとも歯切れの悪い返事をしてきてずうずうしくもわたしのベッドに腰掛けるもんだから、わたしは仕方なく勉強机の回転いすを結人の方に向けてそれにキィという回転の音をさせながら座った。
ふと、見慣れた自分の部屋に 結人がいるだけでなんだか変に違和感に感じて急に緊張した。結人がこっちを見ているのには視線で気がついて、それにいたたまれなくなってわたしは反対側を向いて、MDコンポの再生ボタンを押した。部屋の雰囲気に反比例して、大塚愛の元気な曲が部屋に響く。


「…ちょっと音でかくね?」
「いま、下げる、よ」

ボリュームをゆっくりまわして、部屋のBGMになる位にまで音量を絞ってようやくおちついた。キュ、キュ、とゆっくり体をひねって椅子の音を出して無言。「なにしにきたの」と、ようやく聞けたのはもう二曲目に入った頃だった。「なんだっけー」と、結人は言って両手を頭の後ろで組んでそのまま後ろに倒れてわたしのベッドの上に寝転がった。

「元気?」
「なにそれ」

「さいきん会ってなかったからー、」

気になってたんですよ僕は と、結人は軽い感じで聞いてきた。最近会っていなかったなんて、そんな軽くもない。高校生になってから片手で数えられるほどしか会っていないんだ。実際は。いまや、もう最高学年でそれすらももう半分すぎようとているのに。

「それが理由?」
「まぁちょっとは」

「…わけわかんない、」

むかつく。さすがに最後の一言は口に出しては言えなかったけれどわたしは一秒時間が進むごとにイライラ、イライラとしてきて可愛く愛想笑いすらできなくなっていた。どうして、こんなに、イライラするのかもわからなくて結人の事を責めたくなってそれを必死に我慢した。

「なに、イライラしてんの」
「…してない」
「してんじゃん」

「してないってば!」

ストレートに、いまのわたしをつついてくる結人に つい声を荒げてしまう。感情の起伏と興奮から、じん と涙が浮かぶ。わからない、結人にも、わたし自身にさえも、わたしの気持ちがわからないわかるわけないわかりたくもない。「うん、まぁ別にいいけどさ」?なにがいいのなにその悟ってるような納得は。どうして、こんなに、


「おまえさ、中学のときいじめられてたってほんと?」

そんな話を、してたわけじゃないのにいきなり出てきた結人のこの質問にわたしはようやく気がついた。彼はこれを、訊きに来たのだ。ざわ と、鳥肌が立って、
キィコと音を立てて机に体を向けて両肘を突いて、両手に頭を乗せてわたしは必死にかんじょうをおさえた。「なんのこと、」震えるこえをおさえてやっと返事を返して、


「クラスにさ、同中だったらしいやつがいて最近仲良くなったんだけど、」
「……、」

「そいつが言うに、お前が中学んときいじめられてたとか、」

わけわかんないこと言ってんだよね と、結人は言った。両手にのせたまま、わたしは少しだけ頭を動かして結人の方を見た。結人は寝転んだまま顔を少しだけあげてわたしの方を見ていて、ほんのすこしだけ見つめ合って「なにそれわけわかんない」と小さくぶっきらぼうに返すと、「うん、わけわかんない」と結人も真似して言ってきて、言いながら体を起こして中途半端に体を壁に預けた。


「…用はそれだけ?」
「なあ、ほんとなの?」

「『何もない』…もういいでしょ、」

帰ってよ、そう言いながら結人を退かそうとして伸ばした手を強く引かれてわたしは体のバランスを崩した。勢いで右足がベッドにつまづいて、それを支えようと左足がベッドに上がってひざをついた。それだけではバランスをとりきれなくて、咄嗟に捕まれた方とは逆の、左手をだんっと結人の顔の横、壁につく形になって結人を見下ろすことになる。ギ と、ベッドが軽く軋んだ。


「な、にすんの」
「おれの、所為 なんだろ」
「なに、馬鹿なこと、」

「嘘つくなよ」

ぎゅうと、捕まれている手に力が込められた。平静を装って、「離してよ」と言ってみても「やだ」とひくいこえで返されてそれこそわたしは身動きが取れなくなった。じっと、結人を見つめてみて ああ、こんなに怒ってる結人見るのは何年ぶりだろう と、そんなことを考えた。フラッシュバック、

「たとえそうだとしても、結人には関係ない」

そう、わたしが結人に近く、幼馴染で、仲が良くて気にいらないという理由で中学生のころいじめられていたとしても、それは結人のせいじゃない。結人に関係もない。周りからみて、わたしが結人の傍にいる事が気にいらない と思われるほどわたしは 幼馴染として結人に相応しくなかったんだと。結人に、関係ないんだ。いじめられる理由も原因も、そう わたし。フラッシュバック、


「…ごめん、」
「どうしてあやまるの、離して」
「気づいてやれなくてごめん、まもってやれなくてご」

「かんけいないってば!」

言い切らせるまえに、怒鳴るようにしてとめた。震える呼吸で、もう離してよ と、言って目線を逸らしても捕まれている、結人の力はゆるくならない。だってそんな 謝罪されたって、わたしにとってはみじめになるだけだ。思い出したくもない、そんな、テレビやマンガの中の世界ほどひどいいじめでもなかったし、ちゃんと友達もいたし、学校は楽しいとも思ってた。けどそのなかには、思い出したくないかんじょうだって。フラッシュバック、


「…ずっと行きたいって言ってた高校、」
「……、」

「おれにも言わないでいきなり志望変えて、離れてったのも」

全部その所為なんだな と、結人は言った。かんけいない、結人にはかんけいないの と何度言ってみても状況は変わらない。ずっと行きたいと思っていた高校を諦めた。内申が足りないとか、判定が足りないとか、そんな可哀相な理由じゃくて。わたし自身わたしの意思で志望を変えた、

「わたしが自分の意思で結人から離れたの」
「馬鹿、言え」

「なに、じゃあどういったら結人は満足するの?」

結人の所為でいじめられて傷ついた一緒の学校に行けばまたいじめられるだからわざと避けてた結人なんか嫌いだ ってこう言えば満足なの!と、そこまで一気に言って瞬時に酸欠になる。泣くもんかと、こらえて息も荒く、睨み付けるようにして結人を見る。「…」と、なぜか呼ばれた自分の名前が震えて聞こえた。

「でも言わないから、結人の所為だなんて絶対言わない関係ない」こんどはもう少し落ち着いて言って、「なんかいでも言うけど、結人は悪くないんだから」最後にそう、付け加えた。いじめられてない そう、否定する事すら忘れて。フラッシュバック、

「…んで、」
「え…?」

「なんで言わねーんだよ!」

捕まれていた腕を、もう少し引かれて噛み付かれるようにキスをされた。どうしてわかってくれないのどうしてわかってくれないの、フラッシュバックする、中学生どころじゃないそんなもっと前から、      に隠していた    が断片的な 映像のようにわたしの頭の中でフラッシュバックする。
ねえ、どうしてわかってくれないの。
言えば結人は助けてくれたまもってくれた。けど、言えば結人は自分の所為だって今みたいに自分を追い詰めるでしょう。


「ただの幼馴染としか思えない」
!」
「そう思えてれば、こんな、しんどい想いしなくてすんだのに!」

わたしはゆうとのことがすきで、ゆうとはわたしの幼馴染で、ゆうとの気持ちもわからないまま同情なんてされたくなかったごめんなんて言われたくなかった。まだだ、まだ泣くのを必死に我慢して逆に泣きそうになっている結人を睨み付ける。先に結人の方が我慢出来なくなってぎゅうと目をつむった。そうしてやっと素直に涙が出てきてそのまま結人の上に倒れこんだ。結人の脈とシンクロする。








記憶の奥底に隠していた感情

必死に隠してきたのに、どうして引きずり出すようなことをするの。あんたわかなくんのことすきなのって聞かれて嘘でも否定できなかった。そのせいでいじめられてかげぐちたたかれて嫌なことされてもこれだけは嘘もつけなかった。だから隠したのに。

のいない学校いったってこれっぽちもたのしくなくてのことばっか考えてんの全然わかってねーだろ わかんないよわかりたくもない なんでそんなに素直じゃねんだ 結人に言われたくない 無理やりわからしたっていいんだぞ できないくせに言うな、ばかゆうと 

もうすこし待って、もう少し待って、濁った色になっていたこの感情をきれいなピンクに戻すまでもう少し待って、もう少し待って。
ちゃんと結人のかおを見てちゃんと言えるようになるから。「そんときはおれも好きって言っちゃうからな」ってもう言ってんじゃんか!

くやしくてサルみたいに短くなった結人の頭にかぶりついてうーと小さく唸って覚悟を決めた。


誕生日ネタで書き始めたはずなのに話がずれて流れるまま 流 れ た !

20071014   秋夢うい

あーもうやっぱ無理やりわからしてやる 叫ぶから かーさんもおばさんもいない ねらって来たな、ば か ゆ う と !