ずっとずっと、キミだけの傍に。 「──── 来日?」 久しぶりに会った幼馴染から聞いた言葉は、あたしを驚かせるには充分だった。 最後に会ったのは確か今年の冬の終わり。少しだけ休暇が貰えた と言って韓国に戻る事無くスペインから直接その足で日本に来た その時以来だと思う。でもまだそれも半年しか経っていない。 「…なん、で?」 心の底から嬉しい反面、何かあったのだろうか という不安も同時にある。 「に会いに来るだけだ って言ってたけど、」 潤慶は と英士は言った。いぶかしむあたしを見て、英士は「顔緩んでる」と流すように言った。 潤慶と男女の関係になって2年、ずっとスペイン暮らしをしている彼とあたしは国を遥かに越えた遠距離恋愛だ。 「でもこないだ電話した時はそんなこと言ってなかったのに…、何で?」 「…、さぁ」 昔っから潤慶の考えてる事はわかんないから と、あたしの彼にそっくりな従弟の彼がそう言った。 英士から聞かされたという事が、あたしの中で何かちくりと刺さるように残った。 * 「Tanto tiempo!」 「……は?」 三日後。英士達三人と、空港まで潤慶を迎えに出る。半年振りに会った潤慶は変わらない笑顔であたしたちの前に姿を現した。あたしが世界で一番あいするひと。自然と顔が緩んで同時に熱くなる。 「ユン、会いたかった」 スペイン語の挨拶で少し固まった三人を尻目に、あたしは潤慶の方に駆け寄っていって彼の首に腕を絡ませて抱き着く。彼も持っていた荷物を降ろして背中に腕を回して来て抱きしめてくれる。 「うん、僕も会いたかったよ 」 そういって頬と、首筋の微妙なところに幾つもキスを落としてくる。万人の目がある空港で、恥かしさよりもまず 久しぶりの潤慶の感触を感じていたかった。 「ちょっと、いい加減にしてくれない」 最後に、唇に落ちてきそうになったキスは英士の言葉によって止められた。潤慶はそれでも小さく笑い「チェ」と言って、結局はあたしの唇に軽く触れた。 「なんだ、結構面白かったのに」 結人が笑いながら言った。英士は呆れた顔をしているし、一馬は少し恥かしそうにしている。 「三人とも元気そうだね」 「ユンこそ」 「お手合わせ願いたいね」 サッカーという絆で深く結ばれた少年達が談義をしている様は見ていて嬉しいものだ。いつか本当に彼の隣で、並んで一緒に歩きたい。 「あたし、タクシー止めてくる」 言って駆け出したあたしのいない間に、 「いつまでこっち居れるの」 「んー、丁度五日」 「たったそれだけかよ…」 「そんな顔しないでよ一馬、これは」 ────俺が自分で決めた事なんだから。 そんな会話がされていたなんて、知るはずがなかったんだ。 * 「ホントにいいの?」 「うん、最近ずっと独りだったし」 一緒にいられて嬉しいよ とが笑う。英士の家に泊まり込むつもりでいた俺は、暫く両親が居ないというの言葉に甘える。の言うとおり、一緒にいられて嬉しいのは俺も一緒。 遠く離れた異国の地で、支えて貰っていたものは現地の仲間達とサッカー、そしての存在 だ。彼女の存在がどれだけ、俺に元気と勇気を与えてくれているのか計り知れない。 嬉しそうに微笑む彼女の頬に触れると、薄く目を閉じて首に腕を回してきた。惹かれるように俺も背中に腕を回してそれに応える。 「ん……」 優しくもれる彼女の吐息に、胸の奥が熱くなる。を抱く腕に力を込める。一瞬抱き上げるようにしてそのまま半回転し、彼女を下にして後ろにあったベッドに二人で倒れ込む。 「…英士達待ってるかも…、」 「大丈夫、ヨンサは僕のこと良くわかってくれてるし…それより」 あんまり優しくしないから、覚悟して とそう、耳元で囁くとは一瞬 少し身震いをして嬉しそうに微笑んだ。 「いっぱいして…」 「もちろん」 彼女を抱く時はいつも優しくなんかしてやれない。痛みに耐える表情も、快感に呑まれて耐える表情も、離れて暮らす俺にはいつも刺激が強いから。 なにもかもを 埋め込むように、残すように、深く 俺の傷を 付 け て い く 。 「…、っぁ」 俺の下した決断を、彼女は受け入れてくれるだろうか。今はまだ、快感の中に潜む焦燥感。 * 「いつ言うつもり」 英士がそう言って来たのは滞在四日目。明日の夜にはもう、日本をたたなくちゃいけない。英士のこの台詞の中に、俺への責めと、哀れみが込められているのが嫌でもわかる。 「何でまだ言ってないってわかるの」 「そんなの…っ!」 見ればわかる事だろ! と、結人と一馬と 出店の屋台に楽しそうに並ぶを見て英士が言った。俺は少しだけ笑って俯く。 「言うよ。今夜にでも ね」 「…が受け入れなかったらどうするつもり」 「…、それでも俺は」 「なに!なんの話してるのー!」 ハイ、買って来たよ! と嬉しそうに今買ってきたばかりのりんご飴を差し出して来たのを受けとって、そのまま空いたその手に触れる。 「ん、無邪気で可愛い僕のお姫様の話」 手の甲にキスを落とす。恥かしそうにでも、嬉しそうに笑うを見て喉が 焼ける。 「ごめん、英士、結人に一馬も」 「え?」 「僕ら帰るから」 合図を送るように三人に目を遣る。さすがの結人でも言葉が出ないみたいだった。 「────…あ、」 気まずそうに何か言おうとした一馬の胸を、結人が軽くトン と手の甲で叩いた。 「え、もう帰るの?」 まだ遊びたい とが言って来た。俺はにっこりと微笑んで少し拗ねた表情の彼女の耳元で、 「の可愛い浴衣姿見てたら、」 抱きたくなっちゃったなー と囁く。が少し顔を赤くして「何言ってんのっ!」と肩を叩いて来た。あはは と笑って三人の方に向きなおす。 「お祭りの醍醐味ってさ、浴衣脱がす事だと思わない?」 ねぇ英士 とたった一人の従弟に向かって言う。 「…その後ちゃんと、着せ直せるんだったら ね」 俺はわらう。最高の賛辞をもらったみたいだ。 * 「────……え?」 きっと俺は、口元だけはわらってる。この四日間ずっと見てきたの笑顔が一瞬にして氷ついた。 「我侭かもしれないけど、その間にはずっと 待ってて欲しい」 「え…だって、そんな…」 嘘よね、何言ってるのユン…? と、必死に笑いながら目はもう濡れて来ている。けど俺はもう、やめることも引き返すことも出来ない。もう一度、言うよ。 「僕は次の春から韓国の軍に入る。国の方針だからね」 徴兵制度は韓国の男子なら誰しも逃れられない運命 だ。怖くないわけじゃない。不安じゃないわけじゃない。けれど、 「な、んで…っ!潤慶今韓国にいないじゃない!どうしてわざわざ戻ってまで…っ!」 「…」 「やだやだ!聞きたくない!!」 崩れるようにして座り込み、泣き叫んで耳を両手で塞ぐ彼女の前に座ってそっとその手を取る。こんなにも取り乱す彼女は初めてだ。折角の決心も鈍る。 「何も一生いるわけじゃないよ、二年 たった二年でいいんだ、だからね、」 「その間潤慶に会えなくて!連絡も取れなくて不安で!あたしどうしたらいいの!?」 やだよ!いかないで!! と強く抱きついてきた。俺の顔はきっと歪んでいて 優しく抱きしめてたしなめるようにぽんぽんと背中をたたく。 「我侭かもしれない。自分勝手だ っていくら俺のこと責めたっていいよ」 「…っぅ、やぁだぁ…っ!」 「離れてる間も、ずっと俺はの事だけ想ってるよ。ずっと、だけを愛してる」 泣かないで と言ってもそれは無理な頼みだとわかってる。本当は俺だって泣きたいくらいだ。けど決めたことだから。自分自身が、彼女の為に 愛するの為に決めたことだから。 「愛してる。愛してるよ…」 「いや…やだよゆん…っ」 「の事をずっとずっと護れるように、幸せにしてやれるように、」 その為に俺は行くんだよ と、身体を離してすこし乱れた浴衣の襟口をもっと乱して。幾つも幾つもキスを降らして行く。震えるからだに幾つも幾つも。どんどんと唇を落としていって浴衣を乱しては脱がせていく。 「二年経ったら必ず迎えに来るから、幸せにする為に必ず」 を俺以外の全てのものから奪いに来るから そう言って最後に深く口付ける。彼女特有のあ ま い に お い 。 「…っ、ユン…っ」 「これだけは忘れないで。が不安な時も、寂しい時も、俺はずっと の事を想ってる。誰よりもの事を想ってるから…」 最後に帯をしゅる と緩めて泣いて崩れたの身体を抱き上げてベッドに深く落とす。 「結婚しよう。誰よりも幸せにするから」 その為に強くなって帰ってくるから 約束するから とそう、本当は離れてしまうのが一番怖いのはこの 俺。本当はいつもこうして抱きしめていたい、触れていたい、抱いていたい。 「…っあたし負けない、あたしもずっと、潤慶の事想ってる…愛してる…っ!」 「…うん、」 「絶対迎えに来て…そしてあたしのこと、」 ────ユンのお嫁さんにして下さい。 * 「じゃあ行くね、」 「うん。春まではいつも通り電話だけはするから…」 「うん、僕も」 そう言って潤慶は英士達の目の前で少し深くキスをしてくれた。きっとこれが最後の温もり。離れた唇と共に涙が浮かぶ。 「手紙、毎日 書く…っ」 「ありがとう、それだけで頑張れるよ」 「頑張れよ、潤」 「中でもサッカーは出来るからね」 「その間に、俺のモンになってっかも」 「は結人なんかに惚れないよ」 ていうか俺以外にそんな男 いないね そう言って最後にもう一度だけと唇を合わせる。 「じゃあね、ずっとずっと愛してるから」 「あたしも、潤慶だけ、ずっと想ってる。愛してるよ」 誰よりも強くなって帰ってくるよ。 の全てを受け入れられるように、護れるように。 「幸運を」 誰よりも強くなって、帰ってくるから。 ────その時はずっとずっと、キミだけの傍に いるよ。 色々本物の設定はすっ飛ばしてやって下さい。世界って難しい。(ほんの少し調べましたけども;) 20061109(20050315) 秋夢うい (離れていても変わらない、想い) |