ねえ、小さいころからいつも一緒にいたよね。
これからもこれまでも ずっとずっと、それだけは 変わらないと思ってたよ。




01*




「一馬!昨日の試合、」

1点も取れなかったんだって〜?と、月曜日も朝一番、あたしは教室に入るなり 大きな声を出しながらそれはもう見慣れた幼馴染の所へと駆け寄った。


「何で お前が知ってんだよ、」

!と、明らかに嫌な顔をしながら一馬が言った。期待通りの顔をしてもらえたことにあたしは嬉しくなって、


「結人からメール貰ったもんね、」

一馬に喝入れるべし!…ってさ! と、一馬の目の前にずずいと自分の携帯電話を突き出して、結人からのメールを見せ付けるようにしてみせた。「なにぃ」と言いながら一馬は、結人からのメールの内容に一通り目を通して その後ちら とあたしの方を見て、しまったと思う一瞬の隙に、あたしは一馬から携帯を取り上げられてしまう。


「あっばかずま何すんのよ!」
「俺の勝ち」

一馬とおそろいの携帯電話にしているのが仇となって、もの凄い早さで結人からのメールを消去しやがった。ふふん と、それはもう勝ち誇ったでっかい態度で一馬はそう言って、あたしに携帯電話を突っ返してきた。


「昨日は1点も取れなかったくせに、」

あっかんべー と、まるで子供のように、舌を突き出して 人さし指で目の下をさげて一馬にそれを向けた。


「な ん だ よ!!」
「なんでもありませぇん」

耳まで真っ赤になって怒る一馬に、あたしは楽しくて思い切り嫌味を言って返した。その発言に更に腹を立てた一馬が、あたしの名前を叫んできた。(でも全然怖くないんだなー)

そんなあたし達ふたりの日常茶飯事のやり取りに、クラスの連中は まーたやってるよ とクスクス笑ったり呆れ顔。おいおい負けてんなよ真田ぁ! とか、には尻にひかれっぱなしだなー と、仲のいいクラス連中が野次を飛ばしてくるのもいつものことで、あたしはまるで雅子さまの様に華麗に手を振って「どうもどうも」と言って返した。

幼馴染である一馬とあたしのこうしたやり取りをするのは、高校に入学してまだ半年足らずにして、同じ中学からの持ち上がりが多いこのクラスの名物となっていた。(まさかそんな、狙ったわけじゃないんだけど)

あたしは元々、こんな性格だし 男女共に友達も多かったから、中学校も楽しかった。
けど、一馬は小学校の頃からサッカー漬けで まぁ性格もあんなだから、あんまりクラスにも馴染めてなくて、いつも独り、無愛想だった。中学に上がって、もっとサッカー漬けになって独りでいるのも相変わらずで。あたしはそれがすごく心配で。

もっと、本当の一馬を見てもらえたらきっとみんな一馬をすきになってくれる。

そう思ってあたしはいつもの一馬が出るようにわざと怒らせるようなことを言ってみたりして。案の定、そんな一馬を見て とっつき憎いと思っていた何人かのクラスメートが一馬の傍に来るようになって 一馬もだんだんと打ち解けてって。

一馬の周りに友達がいることが、あたしにしてもすごく嬉しかったし あたし自身、一馬とのああいったやり取りは楽しかったから。


もちろん、ただ幼馴染が心配で ってだけじゃなくて。もう何年も前から、あたしは一馬が好きだったから。


「俺は必ず、プロになってやる」

U-14に選ばれたあの日、そう言った一馬の強い瞳とかおが、すごくすごく まぶしく見えて。一馬がその夢を叶えるまで、ただの幼馴染 として一馬を支えて行こう、側に居よう って心に決めた。

勿論、他のオンナノコ達に対しての不安はいつも付きものだったけど、それは一馬の性格と、一生懸命なサッカーへの信念と一馬自身そういうものを遠ざけていた事があたしを安心させていた。(実際今までに何十人って告白されても全部断ってたし)

ねえ一馬。その事実が、一馬に一番近いのはあたしなんだ って。もちろんそれは小さい頃からずっとそうだったし、これからもそうであると、信じて疑わなかったよ。ねえ、


────今日の この日が、来るまでは。




まだなにかしら野次を飛ばしてくるクラスメイトに手を振りながら、あたしは、

「やっぱりね、うん、一馬はあたしが居ないとダメよねー」
「んだよそれ」

そう言って、一馬にも向かって小さく手を振ったら 一馬が怪訝な顔をしてそう返してきた。


「あたし昨日、応援行けなかったでしょ?」

だから一馬、点取れなかったんだよ と、あたしは自信満々に言った。本気でそう思ってる半分、そうであったらいいな っていう期待。

「なんだそれ。別にお前が来なくったってゴール決めるぐらい出来るっつの!」
「ハイハイ、強がらない強がらない。彼女の居ないかじゅまくんにこの可愛い幼馴染が応援してやってるんだから、素直に喜びなさい」
なめんな!と怒り続ける一馬に あははと最後に笑いをつけてまくし立てるように言った。


「誰がかじゅまだ!ってか自分で可愛い言うな!それに俺にだって彼女ぐれー 居 る ん だ よ !」
「かじゅまにかじゅまと言って何が悪い!そうでしょ?彼女の居る一馬にあたしが…、」


言いきる前に、あたしは言葉に詰まった。聞き間違いじゃ ない?ねえ一馬、


────いま、な ん て 言 っ た ?

「彼女ぐれー居るんだよ!」


「……え?」
「…そーいう事だよッ」

照れているのか そっぽを向いた、一馬。頭が真っ白になる ってこういうことなのかな。一馬がなにを言ってるのか、理解できなくて、理解したく なくて。


「うそ…、」
「嘘じゃねぇよ」

「え…だってそんなの、…いつの間に」


────嘘だ、そんなの、いつもの一馬の強がりに決まってる。


「昨日試合の帰りに言われて…、OKした」

そっぽを向いたままの一馬の耳が、真っ赤になっているのが見えた。────なんで、

────ねえ、なんで?

今までそんなの一回も受けた事なかったじゃない。そう、叫びたいのをぐっ と堪えた。


「…おい、?」
「っあ…」

つい黙り込んでしまったあたしを怪訝に思ったのか、そんな表情をしてあたしの名前を呼んだ。それでも、あたしは何もいえなくて、ただ一馬の顔を見てるしか出来なかった。

「なんだよ…?」

信じられない、信じたくない。頭が混乱して何を言えばいいのか判らない。どうしたらいいのかわからない。一馬が眉を寄せてあたしを見てる。

ああ そっか。ねえきっと、「あんたみたいなのに彼女が出来るなんて物好きもいたもんね?」とか、「一馬のくせにナマイキ!」とか。
いつも通りのあたしの反応を待ってたんだよね?


「っへぇ…そんな物好き、この世に居たんだ?」

ちゃんと笑えてる?声は震えてないかな?一馬に、気付かれない?


「…お前ならそう言うと思った」

いつもと変わらない、一馬の そんなかお。

「その彼女!泣かせたらあたしが承知しないから!!」

今、自分に出来るとびっきりの笑顔で 一馬の頭を小突いた。ちょっとだけ小さく「いてぇな」っていう声が聞こえて、


「…わかってるよ、」
「がんばれー」

一馬の隣に立っている、他の女の子の姿なんて想像出来ない。したくない。馬鹿だよね、あたし。がんばれ だって。
ねえそんな、こころに思ってもいない こと。



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ようやく復活お披露目。説明的な第一話。あ、日付みたらこれ、嘘恋書いてる途中から書き始めてたんだー。

20070405(20041012初版)   秋夢うい