やり場のなくなった気持ちのはけ口と、それが全てだった あたし。
伝える事の出来なかったこの、何年分もの想いは。
ねえ、この、




02*




あの一馬に、彼女が出来たそうです。野上ヶ丘中の三年生で、つまりはあたし達の後輩 なわけだけど。いつも一馬の事見てたんだって。練習や試合も、いつも見に来てたんだって。

一馬が高校生になって、練習や試合なんかでも中々一馬を見ることが出来なくなったから想いが膨らみすぎて。
告白せずには居られなくなったんだって。想いを、伝えずには居られなかったんだって。

ちっちゃくて、女の子らしくて 可愛くて。なんだか守ってやらないと駄目な思いに、駆られて。

────自分が守ってやろう。

「何かさ、ゲンキン、かもしれねぇけどでも、…俺 が、守ってやりたい って」

そう、思ったんだって。



「あたしの方が、ずっと、一馬を、見てた、のに」
「…うん、」
「他の人を、見た事なんて、なかった、のに」
「…うん、」

「一馬には、あたししか居ない、って、思ってた、のに」
「……うん」

「ごめん、…舞乃」

昼休み、昼食を食べるために屋上に出た。まだ10月の初めとは言っても、風が強くて すごく肌寒く感じた。もうすぐ、独特のあたたかさや雰囲気が訪れる。けれどその反面に、なんだか独特な淋しい思いにも駆られるその季節が、今のあたしにはピッタリだと思った。

ずっとずっと、ずっと幼い頃から一馬にだけ向けてきたこの締め付けられるような想い。
もう、行き場のなくなったこの想いを、言葉にしてみたらすごく空しかった。もうずっと、あたしの気持ちを知っていた、親友の舞乃が、それを受けとめてくれた。

「ごめん」

舞乃に言ったその言葉の意味は、きっと一生 舞乃にしか判らない。あたしの言葉を受け止めて、あたしの代わりに泣いてくれている舞乃が、ぎゅ とあたしを抱きしめて来た。肩のところから舞乃の、息の詰まりが感じられる。

何も言ってもらえなかったけれど、そのキモチだけは充分に伝わって来て。

「ありがと、」

彼女の存在が、どれだけ今のあたしのココロの空洞を埋めてくれたのだろう。

「…あり、がと…っ」

舞乃がいなかったら、あたしのこの一馬への失恋の涙が、綺麗に流れる事はなかったかも知れない。ねえ おかしいよね、あたし 一馬のことすごく好きなのに、

ひたすら2人で涙を流した、高校一年の初秋だった。





「おい、何で目腫れてんの、お前」

案の定、午後の授業を受けるために教室に戻ったあたしと舞乃は、クラスの皆から心配されて 声を掛けられた。言い訳を作るのは簡単だった、一緒に読んでる本がカナシクテ。なんとでも言えた。


「なぁおい、どうしたんだよ」

一馬にだけは言われたく無かった。心配なんてされたくなかった。たとえそれが心配なんかじゃなくて ただの興味だったとしても、言われたくなかった。理不尽な程に湧き上がる一馬へのイラ立ちが、一気にあたしを支配した。


「おこちゃまには判らないんじゃないかなぁ?ねぇかじゅまくん」

震える唇を隠すように、目は合わせない、顔も見せない。

「っだよそれ」

あたしの変化に気付かない一馬は、いつものようにあたしに馬鹿にされているんだと思ったのか、ムッとしたこえ。きっと子供のように、拗ねる表情を見せてるんだろうな って。


「ほーら、子供。そんなんじゃ、年下の可愛〜い彼女に、」

愛想つかされるわよ と、一馬に背を向けたまま、机に頬づえをして言ってやった。

「判ってるよ、バーカ」

そう言った一馬が、今きっと顔を赤くしてテレてるんだろうな なんて、安易に想像出来た。「ま、フラれないように精々頑張れ」なんて言いながら意を決して一馬の方を見た。変化を悟られないように、笑顔で、いつも通りの嫌味。


「っうるせぇ!」

ほらね、顔を真っ赤にして反論してくる。笑っちゃうよ。一馬のひとつひとつの言葉、仕草、全部 どうしてこんなにわかっちゃうんだろうね。

一馬に出来た、ちっちゃくて可愛くて、女の子らしい、守ってあげたくなるような。

────あたしとは正反対の、カノジョ。


「その子も可哀相に、こんなへたれバカ好きになっちゃって…」
「へたれ言うな!」

いつも強気で、口も悪くて、可愛げも無くて。強がる事しか出来ない弱い こんなあたしが。

「守ってやりたい って思ったんだよな」


そんな 一馬の、彼女になれる なんて、あたしがいないと駄目 だなんて。これからもこれまでも、あたしが一番…、一馬に一番近い存在だったんだ なんて。

なんて、思い上がりもイイトコだったんだろう。本当、馬鹿げてる。今のあたしは、一馬の幼馴染 っていう、
一番近くて、一番遠い存在になってしまったんだ。

ねえ、おかしいよね あたしこんなに一馬のこと好きなのに、どうしてこんなに一馬のこと 憎いんだろう。


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一番近くて、一番遠い存在。そこからの進化は気持ちの強いふたりだけ。幼馴染ってそーいう感じがしてしょうがない。
相手に本当に大切なものが出来た時って、友達よりも、親友よりも、親兄弟よりも、幼馴染の自分 が、1番相手との距離を計ってしまう。弱い、のと、守ってあげたくなる、は別物だと思うわけですよ。

20070305(20041012初版)   秋夢うい