それはもう、生まれたときからあたしと一馬はおとなりさんで、幼稚園も小学校も中学校も全部一緒だったから。
これからもずっと一緒に居るのが当たり前だって、思ってた。
でも それ以上に一馬のこと、すきだったから。誰よりもずっと、




03* 


         





「なぁ、デートってさ、」

どういうとこ行ったらいいんだ!?と、突然 一馬がそう言ってきた。一馬にカノジョが出来てから、今日で丁度2週間。一馬の顔はそりゃもう真っ赤で、


「何であたしに聞くの」
「いやだって女のお前の方が、よくわかるだろっ」

そっぽを向いてそう言うあたしに、教えてくれよ! と一馬は必死。なんで、それをあたしに聞くの。何にもわかってないくせに。あたしの気持ちなんか、ちっともわかってないくせに。わかってないくせに わ か っ て な い く せ に 。

醜い嫉妬と苛立ち、自己嫌悪と悲しさが一気にやって来たみたいですごく、──辛い。


「…けば?」
「は?」

震える声を、ごくり と息を呑み込んで必死で抑えて。あたしは席を立って、一馬の目を少し睨みつけるように見下ろして、見据えて、

「ラブホテルでも、行けば?」


カッコ悪い。あたし。そう思って、自嘲気味に笑うあたしを見た一馬は、相変わらず鈍くて、からかわれてるんだ と解釈したみたいで、

「ばっ馬鹿!何言ってんだよお前!」

ね。あっかい顔して 怒ってる。でも、すきなんだ。どうしてだろう。こんなにも、

────す き な ん だ よ 一馬。

なんでか 喉が焼けるようにちりちりと、して。唇は震えて涙が込み上げて来る。ここで泣くもんかと強がるあたしは、やっぱり弱くて。無理してわらってみせた。軽く握りこぶしを作って、一馬のこめかみに、触れる程度にパンチして。

「冗談、よ。ばーか」

そのまま一馬の顔は見れずに、心配そうにこっちを見ていた舞乃の所まで行って。ごめん、後、お願い と震える声で小さく言ってあたしは教室を飛び出した。後ろから、舞乃があたしの名前を叫ぶのが聞こえたけど、振り返る余裕なんか勿論 無くて。

廊下と、階段を全力疾走。ものすごく息があがって、始業を知らせる鐘が響いて、屋上の戸を大きく開け放して、身体全体で風を受け止めた時にはもう、どうしようもなく涙が止まらなくなってた。

「っは…はぁ…ぅ、っく…」

後ろで戸が ぱた と閉まる音が聞こえて、もう立っていられなくなって それに背を預けてずるずるとしゃがみ込んだ。舞乃と泣いて、それから2週間。もう泣いてやるもんか って、思ってたのに。我慢していたものが全部流れてくるようだった。
こんなに声を上げて泣いたのなんて、何年ぶりだろう。


────もう、頑張らなくてもいい?

2週間、一馬に気付かれたくない っていつも通りに振舞った。絶対に泣かなかった。一馬のことも、一馬のカノジョのことも 責めなかった。

────もう、我慢しなくてもいい?

一馬へのこの、たくさんの想い。涙となって全部、流れてしまえば いいのに。





二度目の終業を知らせる鐘が、屋上にいても大きく響いた。暫くして、校庭の方から帰宅していく生徒の声が聞こえてきて。もう二時間、ここにいるんだ と変に冷静な考えが浮かんだ。屋上の扉から離れて、ちょっとした死角になっている所にもたれ座ってぼーっとしていたあたしは、そんなを聞いてもちっとも動く気になれなくて。

…」

少しして、横から控えめに名前を呼ばれた。誰か、なんて考えるまでもなくて あたしはようやくゆっくりと立ち上がった。自分の身体じゃないみたいに すごく重く感じて、なんだか しんどかった。


「ごめん、ね」

そう言って舞乃の顔を見た。すごく泣きそうな、顔をしていて。あたしは本当に良い友達を持ったな、なんて嬉しく思う。「帰ろっか」と、あたしは舞乃の手の中にあったあたしの荷物を受け取った。


「ありがとう、来ないで、くれて」

そう、言う。5限目が終われば、舞乃はここに来る事だって出来たのに、それをしないでいてくれたのは、本当にあたしの事を理解ってくれているからだ。


「もう、我慢、出来ないかも、」

しれないけど と、あたしは少し掠れる声で、ゆっくりとフェンスに近づいて行って カシャン と小さく音を立てて指を絡ませた。下を見ると、運が良いのか悪いのか、大きなスポーツバッグを持って歩く一馬の、姿が見えて。


「ちゃんと、忘れるよ。時間は、掛かるかも、しれないけど」

ちゃんと、忘れるよ そう言って舞乃の方に向き直る。すごく泣きそうな顔をしていたけど、でも優しく「うん、」とだけ言って微笑ってくれて。

ずっとずっと、信じて疑わなかった あたしと一馬の距離。ねえずっと、近くにいるような気が、していたのに。

─────ちゃんと、忘れるよ。


誰かに言わなきゃ、それが実行できないような気が、して言葉にしてみたけど、一馬しか見えていないのに、見えてなかったのに。そんな あたしの、精一杯の、強がり。

「一馬のこと。ちゃんと、忘れられる」

そんな簡単に言ってしまえるほど軽い恋をしていたわけじゃない。
こんなにもたくさんの ス キ 、簡単に忘れらるわけ、ないじゃない。



←BACK     NEXT→

もうちょっとで話が動きます。というか次からやっと若菜さん登場。

20070307(20041129初版)   秋夢うい