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どうしてだろう 自分がこんなにも弱いだなんて、思わなかった。弱いことが、とても嫌なのに。
どうしてだろう、 04* 強くなれるとも思わないのは 時々、肌に寒さを感じるようになってきた季節も11月。一馬がカノジョと付き合い始めてもう、一ヶ月以上経っていた。初めて出来た彼女に戸惑っているのか、…浮かれているのか、 「やっぱ さ、俺からした方が、いいよな」 相変わらず一馬は、あたしと舞乃にほとんど カノジョの話ばかり。大概は一馬の悩み相談(ていうかただの惚気だな)だったけれど、それを一馬本人から直接訊かされることに、あたしは少し慣れてきてた(慣れたっていいことないのに) 一馬に、あたしの気持ちを悟られてなるものか って意地だけが、今のあたしを支えてくれていた。けどやっぱりそれでも耐えられない事も多くて、よく授業を抜け出しては屋上でただ悔しくて泣くしか出来なかった。 表向きは、何も変った様子はないあたしに、他のクラスメイトや教師達はただ単に、授業をサボっているだけだという解釈を取ってくれて。(…散々怒られたけど、) 授業を抜ける回数が増えてきた頃、担任の女教師に呼び出された。けど、その担任だけは、あたしの内情的なものを読みとってくれたのか、 「成績だけは、下げないようにすれば他の先生達にはうまく、言ってあげるから」 何とも、教師らしくない、良い教師なんだろう とその時は思った。…成績良くて良かった。 今日の一馬の悩み相談はキスについて らしい。…どうして、あたしがそんなこと 聞かれなきゃならないんだろう。 「そんなの、女の子からさせてどうするのよ」 この約1ヶ月半の間に、あたしは 無理してわらう事を覚えた。舞乃はあたしを気遣ってくれて、一馬がカノジョの話をする時はすごく不安そうな顔をしていたけど。あたしは一馬の前でだけは 変わらず自分を保っていた。保つしかなかった。 「んな、どうしたら 出来る」 一馬がりんごのようにあかい顔をして、しつこく聞いてくる。そんな、恥かしいと思うくらいなら 聞かなきゃいいじゃない。 「舞乃、英士くんは───…って、」 英士くんからしたに決まってるか と、途中で舞乃が英士くんと付き合ってることを思い出して聞いてみようと思ったけど。英士くんのことだもん、ばっちり決めてるに決まってるよね。うん。 「ん、まぁ…それは、うん、」 はは と舞乃が力なさそうに笑った。 「だってさ。英士くんにきけば。一馬」 あたしはもういい加減疲れてきて、ため息混じりにそう言ったら 一馬もようやく諦めてくれたのか「そうする…」とだけ小さく言った。(ああもうほんと、いい加減にしてほしい) 「ああ、そうだ話変わるけど」 「なに?」 ふいに、一馬が何か思い出したような そんな顔をして言ってきて、思わず素になって聞き返してしまってあたしは後悔する。 「。お前最近 授業サボりまくってんだろ。何やってんだよ」 「…っ」 言われて、あたしよりも舞乃の方が息を詰まらせているのがわかった。何にも考えてないくせに、そんなことを言ってくる一馬に、あたしは焦燥感を覚えて 同時に一馬の所為であって、そうでない事に悔しさと嫌悪感。 「一馬には、一生教えてやんない」 「なんだよそれ、…おい!」 今のは効いた。とうとう我慢 出来なくなって、そう言いながら席を立ったあたしを、一馬が少しムッとして強く言ってきた。「さぁね」と、あたしは小さい声で、わざとそうしたわけじゃないけど 冷たく言い放った。 「じゃ、そーゆー事で次、サボります」 少しでも気を緩めたら今すぐにでも 泣いてしまいそうだった。どれだけ我慢しても震えてしまう唇をきゅ と引き結んで、舞乃にアイコンタクト。ごめんね と、気持ちを送ってあたしは教室を出て行く。 「…なぁ染居、のやつ、いつもどこ行ってんだ?」 教室を出て行くあたしの後ろ姿を見届けて、一馬が舞乃にそう聞いてきたらしい。聞かれて答えられるわけがなくて、少し申し訳けないと思いながらも微笑って、 「ごめんね、わたしも知らなくて」 そう、嘘を付いてくれていた。ありがとう、ごめんね。 *** 「く、っそー若菜!今日は 負 け ね ぇっ!」 「はい、はい、俺に勝とうなんて一生無理だ っつーの!」 昼休み、俺は長袖のシャツを肘のところまで腕まくりして、クラスの連中とボールを巡って勝負するのが日課になっていた。つってもどうせ俺には勝てねーんだから必死になって向ってくるのを、楽々かわし続けるだけだけど。 「おい、若菜ー」 そろそろ息の上がってきたころ(俺じゃなくて相手がな)、観客に入っていた別の友達に名前を呼ばれて、「えー、なんだよー」と言って、足裏でボールを止めた。俺を呼ぶ友達の方を見て、その隙に俺の足元のボールを取ろうとした友達をサラリとかわして。(そんとき「ちくしょー」とか言ってたけど ははは、無理だっつーの!) 「携帯、鳴ってる」 走り回ってる間に落とさないようにと、預かってもらっていた携帯電話のストラップをつまんで掲げて俺に見せてきた。グラデーションにランプが光る自分の携帯電話を見て、「おー投げてー」と叫ぶ。 ん! と投げられた携帯を両手で受けとって、液晶画面に出ている着信主の名前を見てポ と音を立てて、 「おー、なに英士」 『結人?今ちょっといい?』 「うん。あ、ちょ、待って」 そう言葉を切って、俺は相手にしていた友達に ちょっとたんまなー と短く言ってそこを離れ、近くの石階段に腰を下ろして、他のヤツと勝負を始めたのを観ながら、 「ごめん。で、なにどしたの」 『の、事なんだけど』 「は??」 『うん、…ちょっと今、ヤバい事になってるらしくて』 英士がわざわざ電話してきて、のことだ なんてめすらしいなと思った。しかもヤバいってなんだ と思ってまあ情報源は英士の女からだろうなぁ とも思って、少なからず良い話では無さそうだよなぁ、そうも思って俺は眉根を寄せた。 「なに、がどうしたんだよ」 * 『───そういう事、らしいんだけど』 「そっ…か、あいつ一馬の事、」 英士の話を全部聞いて、俺らの残りひとりのことを思い出した。もちろん一馬に彼女が出来たことは、知らなかったわけがない。その時に英士と3人で、からかいがてら祝いだとか言ってちょっと騒いだり したし。知らなかったのは、 「一馬のこと、好きだったんだ…」 自然とそう声が出て、知らんかった とおれは小さく付け加えた。英士も同じようで、「うん、俺も全然気付かなくて」なんて言ってる。 別に 悪いことでもなんでもないのに、一馬に彼女が出来た時に祝ったことに なんでか罪悪感。きっと英士も、同じような気持ちなんだろうな とか何となくそれは思って。 一馬の幼馴染として小学生の時にを紹介されて以来、俺も英士もとは仲良くしていたし、英士に至ってはの親友の、女の子とも付き合うようになっていて。 『俺が様子見てこようかな、とも思ったんだけど』 「それはアレだろ。お前舞乃ちゃん居るんだし」 『そんな事関係ないでしょ。…けど俺より、』 結人の方が、と仲が良かったから と英士が言った。確かに、今英士がの所に行ったら 変に気を遣わせるかもしれない。元気で明るくて、なんかたまにハチャメチャで。そんなとは何かとよく気が合ったし、確かに英士よりは遥かに俺のほうが仲良いよな、と思って。 「わかった。俺 電話でもして、様子見てくるわ」 『頼める? 舞乃も、すごい心配してて』 でも自分にはどうにも出来ないって落ち込んでて と英士は付け足した。 「わかった。心配しないでって言っといてあげてよ」 『ごめん結人』 「いいよ。俺も、気になるし」 『じゃあ頼むね』 おお じゃあな と言って、ぱたん と携帯電話を閉じて考えてみた。そうだよな、一馬とは幼馴染で仲良いのは当たり前だと思ってたけど、そっかは一馬の事を 想ってたのか。なんっで気付けなかったのかな俺、そう思って悔しい。 まぁ、今日はオフだし、 「…放課後にでも電話すっか」 なんて俺はひとりごちて、クラスの友達連中に「わり、教室戻んなー」とだけ声をかけて。 ────ずっと好きだったやつに恋人が出来たら、 俺はどんな風に思うのか なんて。漠然と、そんなことを考えてまったく想像出来なかった。実際、が今どんな状態かもわからないけど、なんでか俺は、理由もわからない そんな苛立ちを感じてたんだ。 ←BACK NEXT→ 若菜くんいらっしゃーい。 20070408(20041129初版) 秋夢うい |