俺のなかのは、馬鹿が付くほど元気で明るくて、こっちのテンションまで上げてしまうような 空気を持ってた。そんなを俺はこどもの頃からずっと、ずっと、




05* 


           






教室に戻ってからの昼休みの残った時間、少し色々と考えてみたけど、けどでもそんな 英士が言う程大きな問題でも無いだろうな、なんて思って。あとで電話でもして少し話せばいいじゃん。
なんて、気楽に考えてただけだったんだ。


放課後になって、雨が降ってきた。昼前から雲行きは怪しいと思ってたけど、それまで降りそうな感じは無かったのに今 自分が濡れずに済んでいるのはそれもこれも今朝メールをくれた英士のお陰だな なんて思ったりして。

そこで俺は急に思い出して、傘を持っていない方の手をポケットに突っ込んで携帯電話を取り出す。開いて、リダイヤル履歴から目的の名前を見つけた俺は発信ボタンを押して受話部を耳に当てた。
プップップップ というお馴染みの音が何回かして、それが呼び出し音に変わる。


「…出ねぇな、」

つい声が出て、そろそろ留守電に変わるだろうと思って、切ろうと液晶画面に目を移した瞬間、それが受話を知らせる画面に変わったのを見て 急いで耳に当てる。


「もしもし?」

結人様ですよー と、少しおちゃらけたように言う。の声は途切れ途切れで、電波状態が悪くて何度も「おーい?」と問いかけて。

『っ…?結人ー』
「おー、今平気ー?」

暫くして、ようやく俺の名前を呼ぶの声が聞こえて 良かったー繋がったー と俺は付け加えて、


『うん平気、何?どしたの結人』
「え!?あ、いや最近お前とメールとかして無かったしさ、」

何か暇だったから電話してみた と、あわてて言う。電話を掛けたまでは良いが、いざ「何の用?」と聞かれたら答えられるわけねぇじゃん俺って馬鹿? と思っての咄嗟に出た言い訳はちょっと苦しかったか…。


『あはははは、変なゆーとー』

受話器の向こうでのわらう声が聞こえて、 なんだやっぱり大した事ないんじゃん と思って俺は安堵する。後で英士に電話してやろうと思いつつ、


「なに、お前今何してんの?」
『あたし?ううん別にちょっと考え事してただけだよ』

結人はー? と聞き返されて「俺?俺今学校の帰り道ー」「そうなんだー、雨の中大変だねー」なんて普通の話、

「やーでも、英士のおかげで傘はバッチリ持ってたんだなこれが!」
『ああ、英士くんの天気予報は抜群だもんね』

あはは、と楽しそうに笑う声を聞いて、何だよ英士のやつ ホント大袈裟だなー と俺は思って。


「あ、そういやお前さ…」

パ─────!

今なにを聞こうとしたのか忘れるくらい 急に後ろから大きなクラクションの音が聞こえて、驚いて俺は「うおっ」と情けない声を上げながら道路の脇に少し飛び退いた。そのとき小さい水溜りに足を突っ込みそうになって体のバランスを崩して、住宅の塀に手をついて身体を支える。
大きなトラックが俺の隣をバシャァ と大きな音を立てて、水しぶきをあげながら通り過ぎた。

「…ったくなんだっつーの!」

あまりにもムカついて、あっという間に見えなくなるほどに走って行ってしまったトラックの後に向かって俺は言葉をぶつけた。


『どうしたの結人、大丈夫?』
「おー、何か今すっげームカつくトラックが…」

最後まで言葉が出なかった。そこで、俺は携帯電話から聞こえた、微かな音に 意識を奪われて。
は…いやまさか、だって。ここからの学校は遠いし、何より帰り道でもなんでも、ないじゃん。しかもこんな、天気だぞ。そう思って俺は一瞬思考が停止した。


『ゆう…』

が俺の名前を呼んだ。だけどそれは、ある大きな、音に、遮られて。


「…なぁ、」
『うん、』

「お前、今」

息を呑んだ。聞き間違いであったらいい なんて、そんなこと思う余裕すらなくて。


「お前今、どこにいんの」
『……、』

出してみて驚いた自分の ひくいこえ。ああ、俺は怒ってるのか と、そんなことを思った。こんな、普通なら迷ったり、沈黙したりするとこじゃない。

無意識の内に俺は走りだしていた。向かう先はトラックの走って行った方へ。通いなれた、通学路。見慣れた景色。慣れ親しんだ俺の地元。昔よく一馬と、英士と、と、遊んだ、

ズボンの裾に、雨に混じった泥がいくつも跳ねた。真っ白になってる、俺のあたまはそんな事も気に出来ないくらいになってて。
間違いであってくれ、勘違いであってくれ。英士の、言ってたことがふいに頭に蘇った。

────一馬と、英士と、と、昔よく遊んだ。思い出の、

いつもどんな時でも、明るくてたのしい。一緒にいる俺たちを一瞬で笑顔にしてしまう、そんな魔法を持っていた。一番近くで俺らを見ていて、元気をくれた。太陽みたいなやつだと、俺は子供のころの印象をずっとこころに持っている。



遊びなれた公園。小さい頃からちっとも変わっていなくて、いくらでも思い出は蘇る。いつもサッカーでならこれくらいの距離を走ったところで息なんかあがったり しねぇのに、すっげ辛くて。いつもは小さい子供たくさん遊んでいて賑わっていて。

走りこんだ、その公園はあいにくの大雨で、ひとは居ない。そんな、殺伐とした風景の中で すっげー不自然な。


「な…に、やってんだよ!」

!と、目的を見つけて俺は心拍数が上がる。走り寄って大きな声で名前を呼んで、自分が動揺していることに気付く。

「結人…」

綺麗な髪も、「かわいい!」って気に入っていた高校の制服も、全部濡れて。傘もささずにベンチに座る


「何やってんだよ、ずぶ濡れじゃねぇかよ!」

俺は今まで握っていたのを忘れていた携帯を乱雑にポケットに突っ込んで、その手での腕を掴んで 自分の傘の中に誘い込もうとした。けど、俺の力が弱かったのかが拒否をしたのか、くんっ と腕が張っただけで立ち上がる事をしなくて。


「あー…ホントだ、気付かなかった」

あたし、馬鹿だね そう言ってが小さくわらった。俺はそれにカッ として、の手に握られていた、携帯電話を強引に取り上げて俺のポケットに押し込んだ。ぐん と腕を掴む手に力を入れて強引にを立ち上がらせる。
無理矢理俺の傘の中に入れて「持ってろ、」と言って無理に持たせて、俺は自分の着ていた上着を脱いでの身体に掛けた。その上から、もう一度強く腕を掴み直して、傘を自分で持ち直して、歩き出す。


「ちょ、と結人…っ」
「俺んち、行くぞ」

「い、いよ!あたしもう、帰る、からっ」

そう言って俺の手を振り払おうとするの腕を、もっと強く、力を込める。

「…った!」
「このまま帰したらお前、」

何するかわかんねぇからな と、少し睨むようにして言った。そんな俺に気圧されたのか、すこし顔を歪めて きゅ と、下唇を噛んで俯いた。握り締めたの腕がすこし、震えていた。掴む、強いちからは俺の怒りなんだと、自分でそんなことを思った。


***


「これに、着替えろよ」

それから後は、なんの抵抗もしてこないで言葉も無く 大人しく俺に腕を引かれているだけだった。自分の部屋に上げてタオルと、自分の着替えを渡して俺は部屋を出る。思わず連れて来てしまって、これからどうすればいいのか わからなかった。
なんであんなとこに、あんなままで居たのか、とか。思い当たる事があるのが、自分的に辛い。大した事ねぇだろ、とか。英士も大袈裟だな とか、そんな無神経なことを思った自分に嫌気がさしていた。


「…も、着替えたか?」

部屋の外で着替え終わるのを待っててもしょうがないな と思って、俺は一度ため息をついてキッチンへ向かう。の分のホットチョコレートを作ってマグカップに注ぎ、戻って自分の部屋の戸をノックする。中から小さく「うん」と返事が返ってきたのを確認して「入るぞ」と言って戸を開けた。

部屋に入って、の様子を見て俺は自然と顔が歪むのがわかった。


「これ、飲めよ」

そう言って(つーかそれしか言えなくて)、マグカップを差し出して、ちゃんと受け取ってもらえた事に安心する。服は着替えてくれたものの、髪はまだ全然濡れたままだし、何よりいつもの明るい、笑顔が、無い。

俺は相変わらず何も言えなくて、無言でチョコを飲むの横に前を向いて座って、置かれたままだったタオルをの髪にかぶせて優しく、拭いてやる。(恐る恐る とも言えるかな)


「ごめん、ね。結人」

少しして、がちいさくそう言った。そこで俺は髪を拭いてやる手を止めて、まだ少し濡れている顔をひとつぐい と拭ってやった。

「なん で、あんなとこで…」

雨に打たれてたんだよ と最後まで言えなくて俯いた。適切な言葉が見つからない事に、俺は腹が立つ。「あのね、」がそう呟いて俺は顔をあげて、が言葉を続ける。


「…小さい頃に、戻りたいな って考えてたら」
「…うん、」
「あの公園で、皆で遊んだ時の事、思い出して」
「……、」

「小さい頃は、楽しかった なぁ、って、気がついたら、足があの、公園 に」

向ってて と消え入りそうなまでに小さくなっていく、こえ。小さいころの思い出。あの公園での思い出を共有している俺に、なんのことかわからないわけがなくて。

「…一馬の、ことかよ」

意を決して出した名前に、の身体が少し緊張したようになったのがわかった。そのうち視線が 俺の机の上にある、俺と英士と、一馬、3人で写っている写真立てに行っていて。


「…も、どうし たらい…か、わかんな…くてっ」

の言葉が、途切れ途切れに なる。そんなのかおを見て、後悔する。かけてやることばが、こんなんなってもまだ出てこない。出てきてくれない。


「かず…の声聞くのも、顔見るのも…も、つら…っ」

太陽のようだと、ちいさいころからいつも思っていた。肩を震わせて、本当に辛そうに泣くに、俺は何か言わなきゃとか思っても全部、喉に突っ掛かって出て来なくて。何も言えなくて。

いつも元気で明るくて、楽しそうに笑う、の顔が浮かんで、巡って、

────何も出来ない、どうして何も してやれない?どうして、


昼間感じた苛立ちは、これだったんだと今になって気が付いた。英士に「まかせとけ」なんて言って、こんな俺じゃ何も出来ない事くらい 判ってたはずなのに。いつも太陽に照らされているばかりだった俺に、何も出来るわけないじゃないか。

────どうしてこんなに、もどかしいんだ。

…、」

何も出来ない、してやれない、。それなのに、
こんなにも 誰かを泣かせたくないと思ったのは、生まれて初めてだった。


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若菜くんいらっしゃーい(第二弾)素敵結人全☆開 (えぇ)

20070416(20041130初版)   秋夢うい