こんなに傷つけて泣かせて、許せない 憎い とさえ思えた。けどそれとは反対に、そんなにまで想われてるあいつの事が、ものすごく、





07* 






何もないとも言える、シンプルだけど こいつらしさが凄く出てると思う 部屋。俺が差し入れに持って来た、午後の紅茶を飲みながら、「どうだった?」と 英士がそう聞いて来た。俺はペットボトルのキャップを手に指にあそびながら、


「…思ってたより、」

ひどいかな と、ぼんやりと窓の外を見てそう言った。俺らが考えてるよりもきっと、もっと、は傷ついてると思う と、英士の方を見ながら言った。に会った、あの雨の日からまだ2週間。でももう2週間 だ。思い出しただけでも、鋭い痛みが俺を襲ってきて 顔が自然と歪んでしまう。


「学校でもすごく情緒不安定になってるみたいで、どんどん一馬に対する態度が」

変わってきてるみたいなんだ と英士が言った。自分の彼女に聞いたのか と俺は考える事もなくそう思って、学校で一馬を目の前にしてどんな気持ちで なんて、いくら考えたって 検討もつかなかった。


「とりあえず俺、毎日電話とメールは入れてんだけど…」

どうすりゃいいんだろうなぁ と言って、俺は両手をおでこに当ててそのままぐしゃ と自分の髪を握った。自分の中のイライラは、日に日に積もっていくばかりだった。だって、あんなに泣いてた。震えて、俺 の腕の中で。あんなに、


「あれから 俺…」
「…結人?」

どうしたの と、不安そうに英士に名前を呼ばれた。けど 俺はそれにすぐ答える事が出来なくて、すこしだけ間を置いた。迷っていた、そうじゃない と、認めたくない思いと この想いと。


「なぁ英士 俺、のこと、」

頭から離れねぇんだ と、顔を上げて英士を見た。いつも冷静な顔を、驚きに変えて視線がぶつかった。どうしても、なにをしてても、

「あいつのことばっか、気になって…」
「結人、」

まさか と、英士が言葉に詰まった。少しためらってるんだと、すぐに理解出来た。けど、俺には英士の言いたいことも ちゃんとわかってて。


「好き とかそーいうんじゃない と思うんだけど。でも、」

どうしたらいいのかわかんねぇし、────この気持ちが何なのか も。

の事、ほっとけねぇ し、ほっときたくねぇんだ」

泣かせたくない と、心の底から思った。あんな顔で泣かれて、あんな傷ついてる守ってやりたい とさえ思った。をこんなにまでした一馬のことを 憎いとも思うし、許せないとも思った。でも、それとは反対に そんなにまで思われてる一馬のこと、


***


「もしもし、俺!」

夜も十時過ぎ、あれから毎日 に電話を入れるのが日課になっていて、


『わかってるよ結人、』

ちゃんと名前登録してあるんだから と、そうが電話口の向こうで笑っていた。それに安心して、俺は電話を持ったままベッドに背中からダイブした。正直、毎日電話を掛けて 出られる瞬間が、俺は一番緊張していた。

「…泣きたくなったら俺のところに来るか、俺 に電話する事」

そう、約束させた。けれどまだ、から電話がかかってきたことは一度もなかった。だからってじゃあ、が泣いてないとも言い切れない もしかしたら電話をかける今、泣いているかもしれない なんて思ったら俺は毎日のこの日課が怖いとも思っていた。


「今日さぁ!学校のヤツが…」

特に何かを話すわけじゃなくて。ただ俺がその日あった事や、が観たというテレビドラマの話。サッカー選手の話。ユースの話。けど、そうする事が当然な事のように、そして不自然なくらい──── 一馬の話は出て来なくて、出せなかった。

いつでもどんなときでも。あの時のの泣き顔が頭から離れない。

────ただ、


『あははっ!結人らしいね!』

そうやって、すこしでも笑ってくれる事にこころから安心してる。同情とか、義務とか。そんなんじゃなくて、ただ、大切なともだち として、
ただ大切な、友達の一人として 心配なだけ なんだ。それなのに、

「かず…の声聞くのも、顔見るのも…も、つら…っ」

あんなにまでからだ 震わせて 泣いて。鈍感な一馬の事、責める事もしなくて。そんな、

右腕を、目の上にかぶせた。そのままぎゅう と目を瞑ったら自然と「あ゛ー…」と変な声が出た。腹の上には切れた通話の プー、プー と定期的な音のする携帯電話が握られた左手。

────ざわざわ と、する気持ち。


「ごめんね結人、ありがとう」最後の最後。電話を切る時に言われた言葉だ。何もしてやれてねぇのに 俺。こうして俺が電話する事で、少しは元気になってくれるかも という希望と、嫌でも一馬の事思い出させてしまってるかも という不安。
日常生活が変わってしまう程に、の中では何か沢山のものが壊れてしまっているというのに。俺は、

そんなにまで想われてるあいつの事が、ものすごく羨ましいと 思う。ざわざわ と、する気持ち。

「どーなってんだよ俺ぇ…」


***


黄色いタータンチェックのカーテンの隙間から入ってくる陽のひかりが当たって、まぶしくて目が覚めた。あたまが痛い。ふとかおに触れてみると、指先に腫れたまぶたの感触がした。


「……っ」

もそりと起き上がって、耳元で鳴り響いていた目覚まし時計をリンッ と高い音をたてて止めた。ぎゅ と眉を寄せて、右手で頭を押さえる。がんがんと頭が鳴り響く。まだこのままゆっくりとしていたかったけど、時計の針は学校へ行く支度をしなければならないところをさしていて。

行きたくない なんてそう 一馬のいる、学校に行きたくない と思ってでも、休むのは楽だけど、この想いに負けたくないとも思って、すう とひとつ大きく息を吸ってベッドから降りた。
カーテンを開けると、太陽の光がもっとあたしの目を刺激してきて、少し目を細める。あたしの部屋の窓の向かいは一馬の家 だ。道路一つ挟んで、そのまま お向かいさん というものだけれど。

どうすれば楽になれるかな。一馬のこと、忘れられるかな。そんなことを考えながら、もう一度静かにカーテンを引いた。一馬の事ばかりがあたしを支配している。ただなにも疑わずずっと一緒に居ると思っていたときよりも、こんなになった今のほうが一馬を想う、時間が長いなんて馬鹿げてる。

「、っ!」

突然携帯の着メロが鳴って、あたしは驚いて身をすくめた。枕の横に寝転んでいる携帯電話を手にとって、開いてディスプレイを確認して、着信の相手を知る。胸がぎゅうとなるような感じがして同時に、不思議な安心感があたしを満たしていくのがわかる。


「結人」
『おー、はよー!』

悪ぃまだ寝てた? と電話の向こうで少し申し訳なさそうな結人の声が聞こえてきて、「そんなわけないでしょ」と返して結人もまあそうだよな と笑って返してきた。
続けてあたしは、「どうしたの?」なんて 毎日のことなのに、そう言ってパジャマのぼたんに手をかけて、少しずつ着替えを始める。自分の写った鏡の中の、すこし笑顔になっている自分に驚きながら、


『これはな、貰った人は幸せになれるという伝説のハッピーモーニングコールだぞ!』

今日もちゃんと遅刻しないで学校行けよ! と、わけのわからないことを言ってくる結人。そんな、結人のいう「ハッピーモーニングクール」とやらを、あたしは毎日受けている。ああもう 結人はやさしいんだから と、そう思って少し泣きそうになる。


「結人こそ、遅刻しないでよ」
『俺?ヨユーヨユー』

だって俺だし! と訳の判らない事を言っていても、それも全部あたしの為なんだろうな っていうのが伝わって来て、


「ありがとう、結人」

電話を切って、携帯を握る自分の手が震えていることに気がついた。満たされるような結人の、あたたかさに触れている時だけは一馬への想いがすこし軽くなっていることもわかっていた。素直に嬉しい気持ちと、不思議な 思い。けど、その結人のやさしさに触れるたび、一馬への想いもどうしても押し寄せてきてどうしようもなくなるときがある。

一馬への想い、結人のやさしさ。

そのどちらもが、どちらをも潰し合っていて あたしのこころを揺らしていた。
もういっそのこと、幼馴染であることさえも捨てて すべてを忘れられたら楽なのに。いつのころに戻れたら、今の未来を変えられていただろう なんて、そんなこと思わなくてもいいのに。

過去も未来も、あたしの傍には一馬しかいない そんな願いがかなうことは一生ないんだ。たとえ何度生まれ変わったとしても、きっと。

そんなことを考えて、これから先 生まれ変わった一馬の隣にいる誰かを想像して、うらやましいとさえ、思った。そんな、空しい。


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次回!ハレルヤチャ〜ンス(嘘です) タータンチェックのカーテンとか書いといてタータンてなにか知りません。
(すんごい柄のカーテンだったらどうしよう)(ウケル)

20070525(20050202初版)  秋夢うい