人生でたった一度だけの出逢いがあるとするなら、あれはそのたった一度の出逢いだったといえる。会えて嬉しかったとか、素敵だったとか、そんな単純なことは何も思えなくて、憎悪にも似た一瞬の恐怖の視線が、わたしを硬直させた。きっともう、二度と会うこともないとわかっていても、何故だろう 彼にあんな表情をさせてしまう何かが、わたしにあったのだろうかとそんなことを考えてしまう。動かない、きらきら、きらきら、問いかけてみても返事がかえってくることはない。 「どーしてぇ!メモリ見ておけばよかったのに!」 そう、興奮して言う会社の先輩に わたしはむぅ と口を尖らせながら そんなこと言われたって、まさか彼が来るだなんて思いもしなかったんですから と返して「ま、それもそうね」と悔しそうに社内観覧を渡された。一通り目を通して、あまりわたしには関係のない内容だと理解して印鑑を押し、「これ、となりに渡してきますね」と言って自分の席を立った。通路を挟んで向かいの通称「おとなり」の課に社内観覧を届け、わたしよりほんの少し古株の人に今夜食事でもと誘われて「また今度、」と微笑ってかわす。 「どうにも、サンはいつまでたっても釣れないね」 「そう思うなら、早く諦めていただけるとありがたいんですけどね」 「いやいや、にオトコができるまではがんばるつもりさー」 尤も、それが俺だといいんだけれどね? と彼は笑って言った。まったく屈しない彼の発言に、わたしは苦笑して それじゃ と小さく会釈をして自分の課へと戻る。 「なぁにぃ、またあいつに捕まったぁ?」 「はい、まったく諦めてくれる気配なしですね」 しつっこいわねあいつもー と、気持ち小さな声で話ながら彼女はわたしに書類を渡してきた。「あれがレイソルの真田だったらいいのにね?」「もう、やめてくださいよ、あかり先輩」わたしはかの彼に、そんな感情を抱いているわけではないのだ。決して。 「もう二度と、会うこともありませんよ」 なんで直接会ったあんたの方が冷めてるのよぅあたしが会いたかったわぁ と、年上とは思えない可愛さで先輩は拗ねる様な仕草を見せた。そういわれてももう、一週間も前の話なのだ。いつまでも興奮していられるような出逢いではなかった。しばらくは誰にも話せる気になれなくて、家に貼られているポスターをぼんやりと眺めて、はじめて彼を観たときと会って見せられたあの表情のギャップに少しの間悩まされた。わたしが気にすることでも、ないのだけれど。 人生でたった一度の出逢いを、後にも先にも繋げられるチャンスを掴めるかどうかで運命は変わる。思わず呼んでしまった名前に、逃げるようにして背を向けて 飛び出したあの空しい背中を思えばそのたった一度の出逢いすら後悔して思える。ありがとう と、すこし微笑ってもらえてそのまま別れてしまったほうが、ロマンティックではなかったか。もう、いまさら だ。 今月は、前半に働きすぎた。先週も重役出勤したばかりだというのに、今日も残業ストップの命が出されて山積みの仕事を泣く泣くあかり先輩に託し(泣いていたのは先輩だけれど)、ほんのすこし冷えてきた風を肌寒く感じながら、駅までの道を、カチカチ、カチカチ、あかり先輩へエールのメールを打ちながらフラフラと歩いていた。ストラップもなにもついていない、わたしの携帯電話。先週お店で拾った彼の携帯電話と、同じだった。 「さみしいわけじゃ、ないんだけどな」 吐息にも似た、小さな声でぼそりとひとりごちた。送信ボタンを押して、送信完了の文字を確認して携帯をたたむ。バッグの中に片そうと、一瞬意識を外に向けられず、強い衝撃と、建物へ打ちつけた身体に電気のような痛みが走った。背中を強く打ったためか、一瞬呼吸が出来なくて身体を支えきれずにずるずると倒れ込んでしまう。 「っ、はぁ」 「ご、ごめ…っ!」 正面から走ってきた、人にぶつかって互いに弾き飛ばされたのだとようやく理解できた。わたしは当たられた衝撃で、相手は自分の勢いでどうやら転んでしまったらしい。「大丈夫ですか」と周りにいた人に声を掛けられ、相手に手を差し伸べられて支えをもらおうと手を伸ばし、ふと顔を上げて相手の顔を見れる。 「…っ!」 「あ…、」 今日は、声が出なかった。前と同じように、深く キャップをかぶってはいて、陽も落ちた暗がりだとしても下から見上げる彼の顔は間違えるはずがない。彼も、わたしの顔を覚えていたようで 差し伸べた手を一瞬躊躇して引っ込めた。「ごめんなさい、前 見てなくて」「や、ごめん俺も」わたしはすみませんありがとうございます と、大丈夫だという意思を気にかけてくれた通りすがりの人に伝えゆっくりと立ち上がった。 「っ、ほんと ごめんっ!」 今来た道を彼は見て、顔色を変え 小さくそういって脱兎のごとく走り去っていく。こんな二度目の偶然が、あるのだろうか。呆然と、彼の走っていった方を眺めていると数人の女の子がカツカツと必死にヒールを鳴らして走って来て、もーどこ行ったかわかんなーい!もうちょっと、日立台まで行ってみよ!と彼の走って行った方へとさらに向かっていた。 「なんなのかしらね、」 大丈夫?と、女性が横から声を掛けてきて、これあなたのでしょう? と携帯電話を渡された。地面に落としてしまった衝撃でかひとつ、大きめの傷がついてしまっていたけれど「すみません、ありがとうございます」とお礼を言ってわたしはそれを受け取った。今頃になって、どきどき と、うるさくなってようやく携帯をバッグの中に片して早足で駅へと向かう。 ようやく自宅へと戻ってきて、ソファの上へ乱雑に荷物を置いた。しばらく部屋の真ん中で立ちすくんで、ゆらゆらと一枚のポスターへと目を向けた。約二ヶ月、表情の変わらないこの彼を時折見つめてパワーをもらっていた。出逢うはずもない、彼に二度も。こんな偶然が?現実味のない想いだからこそ、たった一枚のこのポスターに 自分の中に鼓動を感じることが出来ていた。恋とも憧れともいえないこのかんじょう、を、そのまま現実味のないままでいさせてあげたかった。 しずかな部屋に、ブー、ブー、とバッグの中で鳴る携帯のバイブ音にびく となる。あわててバッグの中をさぐり、手に馴染んだ携帯の、サブディスプレイを確認する。一瞬考えて疑問に自然と眉間が寄り、開けて着信画面を確認して確証に変わる。見覚えのある携帯番号。 「わたしのじゃ、ない…」 自分の携帯電話に、自分の番号から掛かってくるはずがない。あたまがまっ白になる。この着信の向こう側、わたしの携帯電話の元には───彼 が、いる。震える手の中で震える携帯電話に、かんじょうが崩れる。期待なんて一切持てない、この絶望感に、無機質なバイブ音がずっと鳴り響いて残る。 - PREV - TITLE - NEXT - 調子良く掛けるので勢いのあるうちにどんどん書いてけー!ってことで数時間で完成。 うん、5、6話で終わればいいなとか言ってたのはどこの誰でしたっけ?…無理です。 サブタイトル、またまんまです。エヴァではありません(笑)一話一話を短くスピーディに! 20071127 秋夢うい ( セカンドインパクト ) |