真夜中の
観覧車U



「わ、このユッケすごくおいしい」
「だろ?は絶対これ好きだと思ったんだよなー」

こんな時間に、焼き肉が食べたいと言い出したときは吃驚したけれど、ああそうか真田さんはわたしに、これを食べさせたかったのだと気付く。クラブに寄っていたのは本当だとしても、きっとわたしから返事が来るのを待っていたんじゃないだろうか。そう思ってついふ と笑いを含んでしまって「なに?」と訝しがられてしまう。

あの日、しっかりと覚悟を 持っていったつもりだったのに結局はこうしてまだ、真田さんと繋がりを持ってしまっている事に可笑しくなる。まさか、あんなこたえが返ってくるなんて思いもしなかった。あまりに驚いてなにも言えなくなってしまったわたしに、真田さんは苦笑して。「ごめんな」 あんな表情をされてしまったのでは、それこそ本当にわたしはなにも言えなくなってしまって、


「俺、残ることに決めたんだ」
「なんですか?」


つい物思いに耽っていると、激しい 肉の焼ける音とけむりの向こうに、しっかりと決意を持った表情を見せる彼がそこにはいて、なんのことかわからずにただじっと見つめるわたしに、

「もうしばらく、今のチームでがんばるよ」

ありがとう と、とても穏やかな顔をして真田さんは笑った。 「別のチームに、移籍の話が出てて」 ああ、彼はちゃんと納得出来る答えを出せたのだ。「これ、もうちょい頼む?」と照れくさそうににメニューを指す真田さんに、わたしは「はい」と笑いながら返事をした。あのとき確かに、最後になると思った日、思いもしなかったやさしい答えに、わたしは、


+++


「ごめん、」

さんがちゃんと納得してくれるようなこたえは用意、出来なかったんだ。そう言った真田さんは苦笑していた。「んー、なんていうか。さんといるとたのしいし、安心する、ていうか、」 「あ、の…、」 「あ!や、恋人になって欲しいとか、そんなんじゃなくて、だから、つまり、」真田さんは必死に言葉を探しているようで、ときおり逡巡しながら少しずつ、少しずつ、言葉を繋いでいく。

「ともだち に、なってもらえると、うれしい」

ってあー!俺なに言ってんだ… きっと思うように言えなかったのか真田さんは恥ずかしそうに、あごを乗せていた右手で顔を覆って少し項垂れた。テーブルの上に置かれたままの左手の人差し指が 落ち着かないようにトントンと音を立てる。彼の言ったことを、ちゃんと理解するまでにほんの少し時間を要した。ともだち、…友達。聞き間違いでなければ、真田さんは確かにそう言った。大きなビルの上層階、高級なレストラン、大晦日、こんな日にこんな場所で、こんなシチュエーションを用意して彼は。


「ごめんな」

あまりのことに驚き、なにも言えないでいるわたしに 真田さんはそう言って苦笑する。落ち込んで、いるように見えた。

恥ずかしい。思い上がりであればいいと、確かに願ってはいたけれど実際 過剰な考えだったことに気付かされてとても恥ずかしい。まだなにも言えずに、羞恥のあまりうつむいてしまった瞬間 大きく鐘が鳴り、その後しとやかに店内に流れていた音楽が少しテンポをあげた。驚いて顔を上げると、真田さんの視線はまた窓の外に向けられていて わたしもつられて外を見ると『0:00』を示した観覧車のネオンが色とりどりに変化させ、愉しませる。


「…真田さん、」

そっと 視線を戻して見た真田さんの横顔にちいさく名前を呼ぶと、楽しそうに窓の外を見ていた目が一瞬で緊張したものに変わって、


「あけまして、おめでとうございます」
「あ…、おめでとう」

「今年も、よろしくお願いします」

微笑って、わたしはちゃんと言葉に意味を込めた。こんなやさしいこたえをもらってしまっては、拒絶する理由などみつからない。
おどろいて、次に照れた笑いを見せて、「ありがとう」 真田さんは目を細めた。


+++


「もらい」
「あ、ちょっと真田さんそれわたしの…!」


ぼーっとしてる方が悪い と、最後の楽しみにとっておいた特上カルビは真田さんの口の中へと放り込まれた。
ただ単純に、友達としての付き合いがこんなにも楽しくて、安心出来るものだなんて思いもしなかった。信じられない、ほんの3ヶ月まえまでわたしと真田さんはまったくの赤の他人で、ただ偶然に出会って、繋がって、今では一緒に笑い合っているなんて。

彼のポスターは、まだ少しも色を変えず わたしの部屋に飾られたままだった。『さん』から『』に呼び方は変わって。

まわりの、沢山のひとに心配をかけた。もう立ち上がれないんじゃないかと思っていたあの頃の傷は夢だったんじゃないか と思えるようにまでなっていた。やさしい空気の中では気付けなかった、静かに、静かに、バッグの中で震える携帯電話。家に戻って開いたメールに、ずっと奥底に眠らせていた闇を引っ張り上げられてしまう恐怖にからだを震わせる。

これは許されるはずのない非現実( ゆ め)なのだと、現実を突きつけられたような気がした。







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どんだけ恥ずかしいんだSANADA☆第一部終了かな。

20090311  秋夢うい

( 真夜中の観覧車U )