さすがにおかしいと気がついたのは、三度目の断りの返事をもらったときだ。 3月の終わりの頃に、一番初めに出逢ったあのカフェで 偶然はちあわせてそのまま一緒にそこで食事をしたのが最後。それから一ヶ月、何度か電話をしても一度も掛けなおして来られることもなくて、仕事が忙しくてすみませんでした とメールで返ってくるだけ。食事に行こうと、いつものような感じで送った誘いのメールも断られて。 今まで、一度も断られた事がなかったということはないが、それでもこの日はどうですか?と 別の日の提案をしてくれていたのに今回はそれもない。さすがにおかしい、仕事が忙しいにしても彼女らしくないと思って何かあったのかと心配のメールを送っても大丈夫、何もありませんの一言。返信があってすぐ電話を掛けてみてもやっぱり出ない。急な態度の変化への苛立ちよりも、心配の方が勝る。…俺がなにかしたか?思い当たる節が…あると言えばあるが、最後に会った日 いつも通り、普通に別れた事を考えればそれもない…と思いたい。 じゃあ、何だ? 「思い当たることないの?」 あるようで無いから悩んでる。 自分でもわかるくらいムスっとしたかおでそう言えば、目の前の友人は愉しそうに笑って酒の入ったグラスに口を付けた。正直、こいつにこんな事を相談するのは不本意だが、いま一番身近で尚且つ大晦日に行った店のことを教えて貰い 挙句に、実は 予約に口添えまでしてもらっている。イチから事情を話さなくてもいい楽さも理由の一つだけれど。 「もうさ、思い切って家行ってみるとか」 「恋人でもないのに出来ねぇよ」 「え、」 まだ付き合ってないの?真田ってそんなオクテだったっけ と、藤代はそう言った。前にも言ったけどそんなんじゃねえしと俺は少し悔しくなってそう返す。少なくともあんな馬鹿みたいなことを告白したときは、本当にそんなんじゃなかった、…はずだ。惹かれているのは事実だけれど、やっぱり、まだ何か足りない気がする。 「ま、さ、一方通行に聞いただけでなんだけど。別に真田が悪い様な気はしないし、」 本当に忙しいだけかもしれないし、しばらくそっとしといてあげたら?と藤代は言った。「…ああ」と、返事をしても自分の中で何も消化されない。もしこのまま藤代の言うようにそっとしておいたらもう このままってこともあるかもしれないと、…そんな不安があるからだ。それだけはどうしても避けたかった。。もし、もう俺に会えない、会いたくない理由があるのならそれならば仕方ないと、その時は納得もしよう。 俺の奢りで店を出れば、居酒屋が沢山立ち並ぶこのあたりには団体客の群れがそこここに出来ていた。もう4月も終わりに近づき少し落ち着いたとはいえ、まだまだ会社や大学などの歓迎会や飲み会は行われているようだ。 「あー、涼し」 程よく呑んで顔をほんのり赤くさせている藤代がそう声を漏らした。送りの運転手として今日飲酒を避けていたが、代行でも頼んで俺も飲めば良かったと苦笑して。パーキングに向かって並んで歩き出す。あいつは最近どうしてるとか、この間の試合でどうしたとか、やっぱり最後には必ずサッカーの話になる。 一つ路地を抜けたその時、「待って、!」と、女の叫び声がして反射的に足を止めて声のした左側の通路の方を見遣る。 ここから少し離れたところにある、どこかの飲み屋の前に団体客、女が一人こちらに向かって走ってきていて 離れて男女が二人、それを追うような形が出来ている。 なんだろう と、隣で藤代がつぶやいて俺たちの前を走りぬけた女を見ていてふと気がついた。顔は見えない、けど、 「っ!」 咄嗟に叫んで走り出す。程なく追いついてその右手首を掴んだ。反動で振り返りぐらついた身体を、左の腕を掴んで支えてやる。驚いて上げたの顔は蒼白で、息は弾み 身体は少し震えていた。 「さな、ださ…?」 小さい小さい声で、名前を呼ばれて「どうしたんだ」と声を掛けた直後、なにやってんだ!と男の声がして後ろから強く肩を掴まれてから離される。見覚えのない男だ。 「真田一馬!?」 どうやらの後を追っていた男女の一人らしい、すぐ後に女も追いついてきて俺の顔を見て名前を叫んだ。藤代もすぐあとからやってきて「なにやってんの真田」と困惑した表情だ。女の方はすぐにの方に駆け寄り、「大丈夫、?」と声を掛けた。 どうしたことかと把握出来ない俺に、藤代が「真田、もしかして…?」と目配せをしてきて、の事を言っているのだろうと理解した俺は「ああ」と頷く。 「あかり先輩…ごめんなさい、」 「いいのよ、気にしないで」 帰りましょ、送って行くわ と、が先輩と呼んだ女がそう言うと彼女は はっとして「や…っ家には帰らない…!」と苦しそうに叫んだ。そして先輩に縋り付いたまま、ずるずるとその場にしゃがみ込む。どうにも様子がおかしい。 !どうしたの大丈夫、と焦る声にの傍に寄れば耳につく 荒い呼吸音。 「落ち着け、」 「真田?」 「過換気だ。大丈夫だから、ゆっくり息吐け 」 「一応病院連れてった方がいいかも。俺見てるから、真田車取ってこいよ」 藤代に言われて、「頼んだ」と口早に言いパーキングに向けて走り出す。 と出会ってもうすぐ半年。出会いは偶然、でもこんな俺が自らアプローチをかけるなんて奇跡だった。さみしかったわけでもなくて、女が欲しかったわけでもない。色恋でいうところの感情なんてかけらも感じていなかったし、疑問を持って掛けられた問いに大晦日の夜にあんな応えしか用意も出来なかった俺を受け入れてくれたことはどうしようもなく嬉しかった。 そうして友人として傍にいて、いつも穏やかにわらって俺の話を聞いて、そして欲しい言葉をくれる。あんな表情も、声を荒げたところも、一度も見たことなんてない。その心地良くて穏やかな空気にいつものまれる。 そうして気付く。それ程にまで彼女の存在は俺の中に入り込んでいるというのに。 俺は、彼女の事を何も知らないのだ。 - PREV - TITLE - NEXT - 一年半ぶりの更新。これから少し進みます 20111014 秋夢うい ( 入り乱れたアンノウン ) |