あたしはそんなもの、存在しないと思ってる。










「もう三週間に、なるわね」

もうすぐ暑い、季節がやって来るという初夏の昼休み、お弁当の卵焼きを頬張っていると、そう、優希が突然言い出した。何を言われているのか、何のことなのか、さっぱりわからなくて。喉にあるものをちゃんと飲み込んでからあたしは「なに が?」と言葉を返す。


「真田くんと付き合って よ、」

折角付き合ってるんだから、もっと自覚持ったら?と、意味深な笑みを浮かべた優希が、意地悪く言ってきた。

「…、判ってて言ってんでしょ」
「なんの事?」

言われたことに少しカチンと来て、眉を寄せて睨むようにして言った。そんなもの気にしないかの様にとぼけたように優希に言われて。ムウ と思いながらでも、

────そっか、もう三週間になるんだ。


そう、思った。あたしは少し辺りを見回して、誰にも聞かれていないだろうかと注意しながらも、怪しくないように、でも気持ち少し 声を小さくして言う。


「あたしと一馬は、ホントは付き合ってないの!」

そのフリしてるだけだってば!と、強く言う。それでもものともしない優希に、「この間の休みは二人でどこ、行ったの?」の聞かれて、

「一馬、試合だったから 応援行った!もうスゴイのなんのって!一馬ってば何点も…」

試合の事を思い出して、ついつい興奮して声が大きくなる。

「ふうん、」

そうなの と、優希が綺麗な顔で、笑いを堪えながら言った。あたしはしまった、と思ってでももう遅くて、きゅ と悔し紛れに軽く下唇を噛んだ。





、帰ろうぜ」
「あ、うん、ちょ 待ってて」

放課後、に一馬から声を掛けられて急かされる。始めのうちは、クラスの子たちからも幾つもの冷やかしを受けたけれど、それもすっかり日課になって、誰も何も言わないようになって、一馬もあたしのことを名前で呼ぶのにも、違和感が無くなっていた。

ひょっとしてこれは、なんか、流されてるのかなぁ と思ってしまうのはきっと優希の、所為だ。


「…あ、そーいえば何かさっき松岡に、」

頑張って って言われたんだけど と、帰り道、何気ない会話をしているときに、一馬が突然思い出したように言ってきた。あれ、なに? と、不思議そうにあたしの方を見ていて、


「え…っと、昼休みこの前の、一馬の試合の話、してたから、」

きっとそのことじゃない?と、あたしはしどろもどろになりながら必死に答える。…優希はなんて余計な事を言ってくれたんだろう と、思う。

「ふーん…、あん時は応援 来てくれてありがとな」

英士と結人も喜んでた と、少し照れたように一馬が言った。あたしも嬉しくなって、またあの時の興奮が蘇ってくる。

「うん!一馬ホントに、すごかった!」

一馬はいつも、ぶっきらぼうだけど、それは照れ隠しなのはこの三週間で良くわかってきた。そして少しづつだけど、一馬の良い所、悪い所も見えてきて、

ふと、あたしは昼間、話した事を考える。優希の言葉と、あの笑みの、意味。
まだ、直接的には言われた事無いけれど、優希が言いたい事は 判る。


────真田くんの事、好きになった?


そう、言いたいんだと。

確かに、一馬といると楽しいし、サッカーしてるところなんか見ていたら、自分の気持ちが昂揚するのも判ってる、自覚してる つもり。そういう 対象として、意識していなくてもそう思えるんだから、一馬はとても魅力的で、すごく素敵なひとなんだな っていうのも。

もちろん、一馬の事は 好き。けれど優希が言いたい【好き】とはまた意味が違う。
付き合ってみたら、スキになるよなんてこと、一番大嫌い。あたしはそんなもの、存在しないと思ってる。それ以上に、あたしと一馬の今のこの関係は、そんなものまったく関係 ないんだから。


「じゃあ、俺 練習あるからまた夜にでもメール、入れる」
「うん、頑張ってね。あんな犬みたいのに負けんな!」
「藤代の事言ってんのかよ」

はは と、あたしの言った事に苦笑して言う一馬。あたしはこの顔の一馬が、好きだ。
それを向けられて、あたしも笑顔になって 言う。

「送ってくれてありがと、また 明日ね」
「おう」

力いっぱいに手を振って、駅に向かって走る 一馬の背中を見届ける。いつも、この時はなんだか、寂しい気持ちに なる。


「…、変なの」

寂しい なんて、思うわけ ないんだから。


付き合ってみれば、好きになる。なんて、あたしはそんなもの、存在しないと思ってる。
何があったって、あたしと一馬は付き合うフリを、している だけ。────だけど、

ちらちらと、時計を見る。一馬から、メールが来るまであと どれくらいかな。そんなことを思う、わたしは。

うれしい という気持ちと、なんだかよく判らない 気持ちと、持て余すほどまだ形になってないこれから成すその気持ちの形に、


かなしい想いを抱くなんて、思っても、いないんだ。


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書き直すのって、すごく難しい。当初はこんなに苦労するなんて思っちゃいなかったよ…;リメイク版と初版で違うところは、先を見据えた文章をところどころ入れてるくらいです。初めて嘘恋を読む、そんな人にも少しでも楽しんでもらえたらうれしい。

20050831(???)   秋夢うい