まだ、雨は降り続けている。










白と黒。対照的な色の傘が、雨音のリズムを奏でて並んで動く。白い色の傘が時折、楽しそうに動いて、


「…マジで俺んち?」
「ヤなの?」

「ヤ じゃないけど…、」

放課後、結局流れのまま俺の家に行くことになってしまってと二人、雨の中二人並んで歩く。嫌なわけじゃないけれど、正直 自分の部屋にを入れることに困惑していた(女を家にあげたことなんて今まで一度もないし、なにより…)、

「それじゃあ、何か 困るの?」

エロ本が散乱してるとか?なんなら片付けるまでおもてで待ってるけど? なんて面白がって言って来て。

「違う!」
「わかった、わかった、」

「じゃ いいよね」


あまりにも俺が必死になって否定するもんだから、はそれはもう完璧に面白がって いて。

「まぁ もっとも、ほんとに散乱してても構わないけど」

なんて言われてしまったら結局、断れる訳も無くて。諦めたようにため息をついた俺をみて、「やったね」と一言言って、うれしそうに俺の一歩前を歩いていった。

嫌なわけじゃ、ないんだ。確かにすこし 戸惑ってはいるけど。それになにより、昼間の松岡の言葉が あたまにずっとちらついてどうにかなりそうだった。


***



「きれいな部屋だね」

おじゃまします と、少し遠慮がちに俺の部屋に入ったが部屋を見渡して意外そうに言った。自分のものは整理整頓されてないと落ち着かない という事を少し言って、綺麗好きで良かった と、このとき初めて自分のこの性質に感謝した。

「じゃあなんで、来るとき嫌そうだったの?」
「や、それは…」

「てっきり散らかってるからとか、エロ本が散乱してるものだとばっかり」
「それはもういいって!」

何を見つけようとしたのか考えたくもないが、ベッドの下を覗き込みながらが楽しそうに言って、焦って俺はあわてて静止した。(マジで隠してあったんだよ、結 人 の が !)

こんな風に、他愛も無い会話をするのが好きだ。が楽しそうにしてると、不思議と俺も嬉しくなる。
この気持ちが、まったくわからない…わけじゃ ない。けど そんなの────、



「ねぇ、真田くん」
「なに」

「ちょっと聞いていい?」

松岡のこの笑い方は、苦手だと 素直に思った。絶対良い事なんて 言われないだろうなと直感で。




「…一馬?」
「え…、」
「どうしたの?ぼーっとしてる」

「あ、悪い…」

何か考えごと?そう言って、の顔が少し近づいて来て 俺は反射的に身体が後ろに引いた。「あ、ごめんね…」と言って、彼女の表情が少し暗くなった。


「やっぱ迷惑 だったかな…?」
「…っ、そんな事ねぇよ!!」

そんな、表情で言われて 俺はついつい声が大きくなる。が驚いて目を丸くしていて、俺は急に恥かしくなる。


「あ…、いや…嫌でもないし、迷惑でもないから」
「よかったー」

が、安心したように柔らかく笑った。

「…むしろ嬉しい から」

「え?」
「…え?」

が、不思議そうな顔をして 俺を見ていた。

「一馬?」
「え?」

「…は?」

……は?ちょっとまて、俺 いま…、

「俺…何か言った?」
「うん、何か言ってたよ、」

しどろもどろになっている俺に、なぁに?とが聞いてくる。


────嬉しい から


(やべぇ!声に出てた!?)

声に出していたつもりなんてなく、俺は焦って片手を口元に当てる。嬉しい だなんて。


「なっ!何でも無いから!気にすんなよ!!」

顔が熱く、なる。嬉しい だなんて、そんな感情持つはずが ないのに。いつもの事だけど、俺 今絶対顔赤い。が不思議そうに、こっちを見てる。


「あはは、一馬 りんご!」

俺の顔を指で指して、また楽しそうに笑う。俺、変だ。絶対、昼休みの───、松岡の 所為。




本当に、良い事なんて言わなかったんだ。


「好きになった?」
「…は?」

教室を出て行くの後姿をこっそり目で追っていた。ちょっと聞いていい?の次の一声が、俺にはすぐに理解出来なかった。

「好き?」
「なにが」

が」

好き?が?…誰が? 俺は本当に、松岡がなんの事を言っているのかさっぱりわからなくて 答えを探そうと俺は頭の中で必死で考えていた。


「それとも『まだ』好きじゃない?」
「俺が…?」

「真田くん以外に誰がいるの」

俺が の事を、好き? そんなことあるはずがないだろ と思ったのが一番だった。付き合っている と、周りからしたらそうかも知れないけど、実際はただの付き合っている【ふり】だ。俺がを好きだなんて、そんな。


「…ありえないだろ」
「どうして?」

どうして だぁ?そんなん聞くまでもねぇだろ と思っても、声に出して言えなかった。松岡は意味深な笑みを浮かべて俺を見ている。コイツ、英士に似てるかも なんて。

俺が突っ掛かってる事、一発でつついてくる。


「ホントは付き合ってないから?」
「…他、に何があんだよ」

と居ても楽しくない?」
「んなわけないだろ!」

思わず叫んでしまう。ハッとして気付いて、他のクラスの奴らが驚いてこっちを見ていた。焦っている俺とは対象的に、松岡はそれに動じてないようだった。…やっぱ英士に似てる。


「じゃあどんななの?」

(…どんな?)

「そりゃ…一緒にいると楽しいし…」
「それで?」

「試合や練習見に来てもらって…嬉しいって思ったし、学校来んのもに会うのが楽しみだったり、目が合ったら照れたりしてるも可愛いな って、思った…り、」

何言ってんだ、俺。これじゃあ まるで、


「気になる?」
「そ…っ、…かも」

そんなわけねぇだろ!なんて言えなかった。気になる…が?「ふーん」なんて、松岡が 不敵に笑う。

「ねぇ、決め事 って?」
「は?」

「それに…、最初に決め事…したでしょ?」


「…ああ、それは上手く回り誤魔化すために ちょっと…な、」
「学校では一緒に居る〜とか、こんな時はこうする〜とか、そういうの?」
「ん、まぁ…」

「真田くんは さ、」





「今日、試合中止になって良かったね」
「…え」

は となって俺は我に返った。が窓の外を見て、嬉しそうに言った。

「何で?昼間はヤだっつってたのに」
「そーだけどー…」

ベッドを背もたれにして、二人で並んで座る。俺の出したコーヒーの入ったカップを少し揺らしながら、

「こーしてのんびり二人でいるのも…何か照れくさいけどイイな って、」

なんか変な感じだね なんて。照れて、微笑っている。
どうしてだろう、はいつも俺を喜ばせるような言葉を持ってる。こんな時、英士や結人なら気の利いた台詞の一つでも言えるんだろうけど。…だから俺、へたれ って言われんのかな。


「ほんとはちょっと 緊張してたんだ」
「え?」

あはは、やっぱり変だよね。そう言った恥ずかしそうに照れてるが。


────すごく可愛く思えて、


自分で、何をしてるかなんて────


「真田くんは さ」


理解って、なかったんだ。


「キスも【付き合ってるふり】の内に入ると 思う?」


「一馬…?、かず…っ!」

きっとこれは、俺の本音なんだろうな。


ごめん、。このときの俺は本当に 何をしてるかなんて、瞬間 わかってなくて。衝動的だったって、言い訳にしかならないかもしれないけど。この感情も想いも全部、まだ自分でコントロール出来て、なかった。

後になって散々、後悔 したけど。多分 沢山悩ませたとも 思う。けど この時に俺がもっとちゃんとしてたら、の辛さも、想いも、もっと早く受け入れる事が出来てたかもしれねぇのに。




の驚きと戸惑いが、その唇から体温と共に伝わってくる気が した。



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真田くん、「え?」って台詞しか言ってないんじゃあ…?
やっと7話ですよ。一番最初の山場です。

20070207(20030922初版)   秋夢うい