何が起きても、変わらない事は一つだけ。それが始まりで、全て だから。










一馬の元から逃げ出して。無我夢中だったのにしっかりと携帯電話だけは持って出てる自分に腹が立つ。
好きじゃない、て。じゃあどうしてキスなんかしたの?

結人くんが言うように、あたしの事を好きだと 錯覚してるだけ?だからキスなんかしたの?

もう一度、指でそっと自分の唇に触れてみる。あんなに熱かった唇が、今では嘘のように冷たい。直接一馬に聞けなかったことを、自分の中で何度も何度も問い掛ける。


「一馬。擬似恋愛 って判る?」


「本物とよく似ていて…区別がつきにくいこと…」

英士くんが言っていた、言葉が頭から離れず何度も何度も頭の中で繰り返す。

「あたしも…一馬の事…、」

きっと、急に近い存在になりすぎて 浮かれていたんじゃないのかな。あたしも、…一馬も。そう、考える。なんだか。


「あたしも一馬も…錯覚してるだけなんだ、」

なんだか気持ちが軽くなったような気がした。

そうだよ、あたしと一馬は三ヶ月だけの『フリ』のコイビトなんだ。あたしが一馬の事、好きなわけない。一馬だってあたしの事、好きなわけ…ない。


携帯を手にとった。メモリダイアルを下げて行って、『一馬』と名前の出たところで発信ボタンを押す。
一回、二回、三回…と、呼び出し音が続く。


『っもしもし!?』
「あ、もしもし…一馬」

ものすごく焦ってるような そんな、電話の向こうの彼の声。

…あっ…あのさ…さっきは…』
「ごめんね、荷物。置きっ放しにしちゃって」
『え…?』

謝らないで。一馬は悪くないよ。悪いのはこんな状況を作り出したあたし。


「今から取りに行くから」
『いや、いいよ!俺が行くから!』

「いいのいいの、英士くんたち、来てるでしょ?じゃ、今から行くから」

一方的に通話を切った。自分でも驚くほど、心は冷静だった。





家の外で、一馬はあたしを待っていてくれた。きっと部屋に居ても落ち着かなかったんだろうな っていうのが一馬の様子からすぐにわかった。

「あれ?英士くんたちは?」
「あ…さっき…帰った」

「そなの?」

再び一馬の部屋にあげられて、二人きりになる。さっきと同じ…状況だ。それでもあたしはやっぱり、不思議なまでに冷静だった。一馬はまだ、動揺しているようだった。


「あ…のさ、さっきはごめん!俺…っ」
「あと2ヶ月だよ」

「え?」

一馬が聞き返してきた。なんのことか、きっと理解ってないんだろうな。

「あたし達の『関係』も、あと2ヶ月だよ。一馬」
「そ…」
「あたしも一馬も!この変わった関係に、ちょっとおかしくなってただけだよね?」

?何言っ…」

一馬の方を見た。驚いた表情をして、ショックを受けたときのような、そんな。
ねぇ そんなカオ、しないで。


「あたしは!一馬の事、好きになったりしない、」

この微かな気持ちを消し去るように 強く。


「一馬もそうだよね?」

自分の心の中で、哀しく言葉が響いた。何で泣きそうな顔してるの、一馬。今 一馬の中にある、あたしへの感情は ただの錯覚だよ。あたしのこと好きじゃない って。さっき英士くんたちにも言ってたじゃない。

「……っ、」
「あと2ヶ月…、」

「一馬の最高の彼女を演じきってみせる」


そう言ったのは、あたしの本音か…偽りか。あるいは人を好きになる事への、恐怖心だったのかも知れない。


でもね、あのときのあたしは覚悟を決めないとだめだった。自分と 戦うために、強くなるために。あの想いを…、ふっきるために。


あれだけ熱くなった唇が、驚くほど冷たくなっていたのを ねえ一馬、あたし今でも覚えてる。


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短いなぁ…。昔は展開と台詞重視で話し書いてたんだなぁというのがまる分かりです。
眠くて上手にリメイクできてないかも…(何)

20070213(20030924初版)   秋夢うい