自惚れていた心、切なくなるような想い。 なんて愚かだったんだろうか。 一瞬の出来事と驚愕。次の瞬間に重い、胸の痛み。 「っ!!!」 思わず叫んでいた。が部屋を飛び出して、すぐに次いで俺もすぐに飛び出したけど、それは以外にも遅かったことに気付く。 「ー!」 呼び止めようにも姿なんてとっくに 無い。追いかける事も出来ない。頭がぐらついた。 よろよろと、俺はそのまま玄関に座り込んだ。 「こーしてのんびり二人でいるのも…何か照れくさいけどイイな って、」 そう言って恥ずかしそうに微笑ってた、が俺の隣に、居たのに。 「…にやってんだ…俺」 玄関は開けっ放しだ。階下までを追いかけて降りたものの、そこから追いかけていけないでいた。 キス をした。────に。 唇が触れる直前の、俺の名前を呼ぼうとした 驚いたの表情が何度も何度も頭に浮かぶ。両手で頭を押さえて、そのままぐしゃ っと前髪を掴む。なんであんなことをしてしまったのか。 「一馬?」 急に名前を呼ばれて、俺は反射的に顔を上げた。一瞬が戻って来てくれたのか と、そんな事がよぎったけど、 「英士…?」 「俺もいるっつの」 「あぁ……」 あからさまに俺は、落ち込んだ。そうだよな、いきなりあんな事されて、戻ってなんか こねぇよな。そう思って、なんて大変なことをやらかしてしまったんだろうか と、罪悪感と後悔が俺を 支配する。何やってんの玄関 開けっ放しで と、英士が戸を閉めた。 「今さっきそこで さんにあったけど」 「え!?」 つい、声が大きく なる。しまった、と思ってももう 遅い。「やっぱり何かあったんだね」と、英士を誤魔化せるわけがなくて。「え、何?何の話?」と、結人は俺と英士の顔を交互に見て、教えろよ!と、少し怒ったように言った。 「 は…?」 「泣きそうな顔して走ってったけど」 「そ…か…」 「オイオマエラ。また俺はスルーかよ!」 泣きそうだって。そうさせたのは俺、だ。英士が呆れかえったようにため息をついて、腕を組んで玄関の戸に背中を預けて。無視されて、結人はちょっと怒っていた。 「ほら、聞いてやるから。何があったか言ってみて」 「…、」 「一馬」 「キス…、したんだ」 はぁ!?と、結人が一番に驚いて声を あげた。英士も予想外の答えに、少し驚いているようだった。俺は順を追って、昼間の松岡との事からして聞かせた。 「…、今日 学校で…」 「真田くんは さ、」 ────キスも恋人のフリのうちに入ると 思う? 松岡に言われた言葉だ。ああ、俺って すっげー子供。少しくらいこの関係に酔ってたっていいや、なんて。 自分の行動に制御も出来ないような子供の俺が思える事なんかじゃ 無かったのに。 英士と結人が黙って俺の話を聞いてくれる。 こんな時こいつらの存在が大きくて有りがたいモノか、すごく強く思う。 「…大体の事は判った」 「え、英士今のでわかったの?」 「英士…俺…」 どうしたらいい? なんて。言えるわけ、無いのに。 「一馬。擬似恋愛 って判る?」 「擬似…恋愛?」 意識してたわけじゃないのに、自然と英士の言った言葉を繰り返していた。 「擬似っていうのは…、簡単に言えば『本物とよく似ていて、区別がつきにくい』って事なんだけど」 「一馬はちゃんのこと好きだけど、好きと勘違いしてるってこと?」 それって錯覚してるってことじゃねぇの?と、結人がわけがわからなさそうに言った。 「錯覚…?でも俺の事…」 「好きなの?」 松岡にも言われた事だ。英士はいつもの厳しいするどい顔で俺を見る。 けど松岡は、俺にとっての『答え』はくれなかった。 「ホントは付き合ってないから?」 ────気になる? と一緒に居て嬉しい とか、可愛い とか思うのも。いつでも目がを追ってるのも。 そんなんじゃねぇよ と、松岡に言えなくて「そうだ」と、言うしかなかったと、その時は思ったけど。 けどそれって、そーいう事じゃ ねぇのかよ。 「そうじゃないよね。少なくとも今 は」 今は? なに 言ってんだよ英士。 「俺…わかんねぇよ…」 「なんだよ一馬、自分の事だろ〜?」 わかんねーなー と、結人が不満そうに言った。んなこと言われたって。 判んねぇ。 判んねぇよ。 英士が言ってる事も、松岡が言ってた事も。俺のこの、締め付けられるような気持ちも。 「俺…好きじゃない…?」 他人にしか答えを求められない俺は───どこまで子供で、愚かなんだろう。 「…けどね、一馬」 英士が言葉を続ける。俺はそれにすがるしかなくて、英士の目をじっと見つめる。 「さんに対して一馬が抱いた感情は、確かにお前のものであって、付き合ってる『フリ』だからとか、その関係上にある錯覚 とかじゃ、ないから」 「…何か英士言ってる事矛盾してねぇ?」 「結人…俺は恋愛相談の教祖じゃないんだし、これはあくまでも俺の見解だよ」 「あ、うん、やっぱ俺 判んねぇから口出すのやめるわ」 「っ判んねぇよ!!」 少し大きく声を上げた俺を、驚いた結人と英士が見ていた。 「っそんな…擬似恋愛とか錯覚とか…っ何が違うんだよ!?俺が感じてる事とか、が俺にくれる言葉や仕草は全部嘘かよ!あいつも俺と一緒でその擬似恋愛とやらにハマってるって…事かよ…っ」 嬉しそうに笑ったり、優しくしてくれたり、恥ずかしそうに俺の傍に居てくれてたり、そーいうの全部。 多少、自惚れてたかもしんねぇけど。そーいうの全部、 「うそだって言うのかよ…っ」 「甘えるなよ一馬。…俺、言ったよね」 「え…?」 「今は って」 ここまで取り乱した俺を冷静に対処出来んのはやっぱ英士しか居ねぇよなーと、その時結人が思ったらしいことを後になって聞いた。 「本当はフリなのに、恋愛をしてる って、無意識に思い込んでいる二人の錯覚のことを 擬似的だ って言ってるんだよ。俺は。」 「無意識に…俺…?」 ────そんな事、思ってた…? 「彼女と『付き合った』時点で、お前はさんと自分は特別な関係で、彼女は特別な存在だ」 「え…?」 「そう、思ったんじゃないか?」 英士の言葉が俺に深く、突き刺さる。 「確かにお前はさんの事、好きになりかけてるかもしれない。さんだってそれは同じかもしれない」 「まだ好きじゃない?」 「何か照れくさいけどイイな って、」 松岡の言葉とのカオが浮かんでは消えていく。 「付き合ってる「フリ」だって事実を振りかざして、身を守って恋愛ゴッコしてるお前らは、いつまで経っても『擬似恋愛』止まりだよ」 無意識の内に芽生えていたその感情は、フリという事実の中でただ単に擬似的なものだと。 ただの恋愛ゴッコ なんだって。 「ホントは付き合ってないから?」 「他、に何があんだよ」 「…ありえないだろ」 のことは好きじゃないって、自分で認めてしまっているじゃないか。 ←BACK NEXT→ 『本物と良く似ていて。区別のつきにくいこと』やっぱり難しい言葉ですね。何だか無理矢理こじつけたような話になってしまいました。 相手が【恋愛】という対象に入る前に【恋愛ゴッコ】をしてしまっているから、身動きが取れなくなってるんだと。そーいう事…ですかね?(うーん…) 20070216(20030927初版) 秋夢うい |