嫉妬?そんな感情、持っていいはずがないのに。










「あつい…」
「……、」
「あちゅいよー…」
「……ッ」

「あちゅ…」
「あーもう!余計暑くなるだろッ!!」

俺だって我慢してんだよ!と、一馬が大きな声を出した。7月に入り、普通に過ごすのが大分辛くなってきた。あたしは、必死にFIFAのエンブレムが描かれた下敷きをパタパタと仰ぎ、僅かな風をたのしんでいた。


「うわっ非道っかじゅま!!」
「だっ誰がかじゅまだ!!ってかそれ俺の下敷きだろ!」

返せよ!と顔を赤くして、あたしに手を伸ばして来た。わたしはそれをひょい と、軽くかわして。


「だぁってゆーとくんがかじゅま って呼ぶと喜ぶよって言うから〜、」

結人くんのウソツキーと、多少名残惜しく感じたけれど あたしは下敷きを一馬に返す。


「いつ…?」
「ほぁーもうっ、まだ7月の初めなのにこの暑さは犯罪級よねぇ……」

雨の日。一馬にキスをされて、互いの気持ちに蓋をした。あの日からもう、2週間が経っていた。そう、あたし達のこの『関係』ももう残り半分になっていた。
事態を話した時の、優希の申し訳なさそうな、哀しそうなかおが忘れられない。けれど そのおかげで曖昧だったあたしの気持ちの重荷も、無くなったような気がしていた。

ひょっとしたらそれは一馬も同じだったかもしれない。
今、こうして2人で何のわだかまりも無く一緒に居られるのはそーいう事だと、あたしは思っている。


「いいの、それで?」
「ん、自分で決めた事だから」
「辛くなるだけよ、…そんな考え方」

「一馬だってきっと同じだよ」
「……、」

「この関係を続けてる限り、本気の恋なんて、きっと出来ない」


一馬の最高の彼女を『演じきる』為には、邪魔な感情は全てに蓋をしてしまわなければ、駄目だった。
そうしないと、一緒にいる自信がなかった。あのままじゃ、嘘の感情に流されてしまうところだった。

あたしは一馬のこと、好きじゃない。
一馬だってあたしのこと、好きじゃない。

だってこれは、ニセモノの恋なんだから。



「いつだよ?」
「ぅえ?」

一馬が真面目な顔をしてこっちをみていた。なんのことを言っているのかあたしにはさっぱりわからなくて、


「…一馬?」
「そんなの、いつ結人に言われた」



「だぁってゆーと君が一馬は かじゅま って呼ぶと喜ぶよ って言うから〜」



軽く流すなんて、この時の俺には出来なかった。…結人が言うから?今までそんなやりとりが出来る程会ってねぇはずだ。それでも結人とが会ってる時は常に俺も一緒だったし、そんなの言う暇も無かったじゃねぇか。

ああ、くそ。多分俺、今めちゃくちゃ機嫌悪い。絶対かおにも出てる。
何でこんな事言うのか とか、この気持ちは何なのか とか、理解ってるけど認められない。そんな資格すらないのに。
けどこの感情を 抑える事は出来なくて。


「1週間位前…」

控えめに、俺の様子を伺うようにしてが言った。…1週間位前?「会ったのか?」と、言うとの顔が少し泣きそうになっていた。俺だって自分でも驚くくらい低い声、出してるとおもう。けど、そんなを見てかわいいとか思ってしまっている俺は、どうしようもない。

「…結人くんから電話かかって来たの」
「……ふぅん」

何で結人がの番号知ってんだよ! と、そう言いたいのを必死で堪える。を問い詰める権利なんて、元々俺にはそんなものないんだ。

────自分の気持ちに蓋をする。

それが一番、しっくりとくる表現かもしれない。あの日、互いに互いを好きになんてならない、なっちゃいけないんだ と。…なるわけない と。

それは 今のこの『関係』を続ける為の契約みたいなものだから。

馬鹿だな、俺。こんな態度とったらまだあの時の感情引きずってるみたいじゃねぇか。また英士に何か言われそう。

そこまで思って、俺ははため息をついた。顔を少し伏せる。が不安げに様子を伺っているのが雰囲気でわかった。こっそりと視線だけを上げて見ると、何を悩んでいるのか ふよふよとあちこちに視線を泳がせて。


「あー…のさ、一馬」
「え…?」

に名前を呼ばれて、顔を上げる。目が合って、が何だか申し訳なさそうな顔をして 言った。

「一馬の携帯…見てあたしの番号、調べたんだって…」

結人くん… と控えめに訴えてくる。

…バレてる。
バレてる。バレてる。バレてる。


「うっあっ、あいつ勝手に…ッッ!!」

ってゆーかいつの間に!? 必死になって言葉をしぼり出す。絶対いま 顔真っ赤になってる。俺の考えてること、全部お見通しじゃねぇか と思って。


「アハハ、抜け目ないよねぇ結人くん」

が柔らかく笑った。

「っつか…そーいう事は…さ、何て言うか…」

こんな事言う資格ねぇかな…と、俺は不安に思って言葉を詰まらせる。

「うん、ごめんね、もっと早く一馬に言うべきだったよね」

が微笑っている。俺はなんだか胸がぎゅうっと詰まるような感覚に襲われて、直後泣きそうになる。


やっぱり、は すごい。
なんで俺が考えてる事とか欲しい言葉がわかるんだろう。

俺も、俺だって、にそうしてやりたい、そうでありたい とか、思うのに。



「…もうすぐテスト始まるよな」
「え?あーうん、そうだねー…」

それが終ったらもう夏休みだね。と、楽しそうに言う、。けど、俺は 直後にほんの一瞬、表情が暗くなったのを見逃さなかった。


「一緒に勉強とか…するだろ?」
「うん、もちろん!一馬は夏休み大変そうだね」
「なんで」

「練習、いっぱい入るんじゃない?」
「あぁ、ん…まぁそれは…」

「あたし、いっぱい応援行くからね!」

いつものガッツポーズを見せて、笑顔で言うに、


「……おぅ!」


────俺は、なにも言えなかった。



もうすぐ始まる夏休み。けれど、早く夏休みが来て欲しい なんて、皆が思うような事、言えるわけがなかった。
思いたくなかった。

夏休みが終る。その頃────



俺たちの三ヶ月の契約が、終る。


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折り返し地点でーす。

20070218(20031009初版)   秋夢うい