とてもとても大切な。だからこそ、誰よりも幸せになって欲しいのだと。











「だーかーら!!ここでXをここの公式に…」
「もーやぁだーー!!やめた!!」

「あっ!こら!!」

7月12日。
翌日にの苦手な数学の試験を控えて、真田くんが自分の時間を裂いてに教えようと必死になっていたけれど、当の本人は どうがんばっても理解しづらいらしく、更に意外と厳しい真田くんの教え方に飽きが来て、は教科書を後ろのベッドに投げ捨ててしまった。

数日前に彼が言ったらしいことを有言実行し、現にこうして試験勉強しているわけだけれど。その場所は、


「一馬の部屋ってサッカー関連以外で何かないの〜?」

つまんない… と言っては広げたノートの上で顔を伏せてしまった。


「つまんないじゃねぇよ!誰の為に、」

自分の時間割いて教えてやってると思ってんだよ!と、そんな発言とは裏腹に 少し顔を赤くした真田くんがの頭を軽くはたいた。

「いったい!もうっコレ以上馬鹿になったらどうしてくれんの」

は、真田くんにはたかれた部分を両手で抑えて、拗ねたように訴える。「それ以上馬鹿にはなれねぇよ」と、真田くんは笑いながらさらにぽんぽんと の頭をはたいた。

「…もうっ」

む〜 っと、とうとう頬を膨らませて 少し顔を赤くしてが言った。その様子に 真田くんは何だかうれしそう。


「ねぇ…わたし邪魔じゃないかしら?」

もうしばらく、このふたりのやり取りを側で聞いてても楽しかったかな と思ったけれど、わたしはそんな二人に少しイジワルをしたくなってついつい口を挟んでしまう。驚いたと真田くんが 揃ってわたしの方を向いて、「あ、」と恥かしそうにするふたりがおかしくて わたしはどうしてもイジワルをしたくなってしまう。


「邪魔でしょ?」
「そそ、そんな事ないよ!なにいってんの優希!」

「そーだよ!ちょっと忘れてただけだって!」
「ばかずまぁ!」

自分の言ったことに気が付いて、慌てて口をふさいだ真田くんの頭を は思いきりはたいた。「いってー!今本気で殴ったろ!」と、彼は本気で痛がって頭を抑えていた。

「冗談よ、冗ー談」

そんな楽しそうなやりとりを見て、わたしは本当にうれしくなって つい笑みがもれてしまう。

けれどわたしは、どうしようもない思いに駆られていた。誰よりも早く、わたしはふたりの気持ちに気付いてあげられていた。それなのに、真田くんをはやし立てるような事をして結局は2人共を追い詰める結果になってしまった。
彼の家で勉強をするといって、わたしにも声をかけて来たときのふたりの表情が とても切なかった。この部屋で2人きりになる事が、どれだけ重い枷をつけることになっているのだろう。

あの日の事を、想いを、感情を 全部胸の奥に秘めて、自分を偽ってまで周りを偽る事に必死になって。
誰よりも、どの恋人達よりも恋人らしいと、思うのに。

わたしが言えることじゃないかもしれないけど、もう 全部忘れていいの。ねぇ

真田くんならきっと、の全部を 受け止めてくれる。




「そう言えばさ、今日そこの神社周辺で、」

祭りやるらしいんだけどさ、ふと 真田くんが突然思い出したように言った。「ホント!?あたし、行きたい!」とが間髪入れずに言って、少しあ、しまった と思ったのか慌てて「勉強もちゃんとやるから!」と付け加えたら彼が苦笑して、

「…ん。じゃ、行こう」
「ね、優希も一緒に行こうよ!」

きっと、何の深い意味もなくさそってくれているのはちゃんとわかる。真田くんもそれ対して何の疑問も持たずにわたしの返事を聞こうとこっちを見ていた。

わたしはそんな、無垢なふたりの優しさに泣きそうになりながら、

「何言ってるの。ふたりで行ってらっしゃい」
「えーでも優希もお祭り行きたくない〜?」

わたしのその答えに、が不服そうに 拗ねた表情で言ってきた。ありがとう と、心のなかで言って ふいに罪悪感に襲われてしまう。

────わたしにはそんな優しくされる、資格なんてないのに。

それと同時に、変わった 彼の言葉を思い出して。

「それは自分が悪いって思ってるってことでしょ、だったら」

わたしは思わず ふ、と笑ってしまう。このふたり同様 なんてやさしい人なのか。


「誰も行かない、何て言ってないでしょ?」
「え?どういう…」

「郭くんと行く約束してるだけ、」

言ってしまってもいいか と、彼の言葉を自分の勇気に変えて。案の定 ふたりは呆然としていて、

「え…かく くん て、」
「英士!?」

あ、やっぱりそう?と、は真田くんに向けて言っていた。予想通りのふたりの反応に、わたしは少なからず嬉しくなって ついついいつものいじわるをしてしまう。


「じゃ、そーいう事だから。先行くわね、」

わたしはすばやく身支度を整えて、「おじゃましました」と真田くんに向けて言って 手を振って彼の部屋を後にする。
ねぇ郭くん、あなたのいう通り わたしにも想ってもいい権利が あるのかな。





「いつのまに…、」

やっぱ松岡って怖ぇと、呆然として一馬が呟いた。驚いたけど、なんかお似合いだよね って言ったら一馬も「おう」と返事してくれて、

「ってゆーか、似たもの同士…?」

あたしと一馬のこえが綺麗に重なって。「え、」と、その言葉も見事に重なって驚いて一馬を見ると同じようにあたしの方を見ていて、おかしくなって笑う。

「あはははは、同じ事考えてるね!」
「っつかマジ怖ぇよ!あの組合わせ」

おなかが痛くなるほど、笑ったあとに訪れる沈黙。いま この部屋でふたりきりだという事実に気付いて、気まずい 雰囲気になる。

「…ぁ、」

その事を一番気にしているのは 一馬だ。何か言おうと、あたしも必死に頭の中をめぐらせるけれど この雰囲気を壊せるだけの言葉が出てこない。
ねぇ、出てきてくれないよ。





キスをした、あの日の事が忘れられない。
あの日以来 俺達2人とも 言葉にはしないけど、日々の所々でどうしても思い出してしまう。その度に俺は、ただただ上から気持ちを抑え付けることしか出来なかった。

英士の言葉を繰り返して、に言われた言葉を繰り返して、松岡に言われた言葉を繰り返して。
自分の気持ちに戻って来た時には、また自分を抑え付ける様にまた英士の言葉を繰り返す。
どこまで考えたって 堂々巡りだ。

どうすれば楽になれる?どうすれば英士の言った事が理解出来る?

日に日に積もって行く想い。変えられない 想い。もう、時間が無いのに。夏休みなんて、あっという間なのに。
どうして素直に伝えられない?想いに気付いちゃいけない?
好きになっちゃいけない?


────楽に、なりたい のに。



、あのさ…」
「お祭!あたし達も行こっか?」

もう勉強飽きちゃったし と、本人は笑顔を作ってるつもりなんだろうけど。

「…ん、」

そんな泣きそうな表情されたら。…言えなくなるだろ。

なぁ、

何に怯えて、俺と …お前の、

この想いを認めようとしねぇんだよ。




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ころころ視点が変わった…オリキャラ出番多すぎてごめんなさい。そのうち、かくくんとのお話書けるといいなぁ。

20070317(20031021初版)   秋夢うい