本当の 事実を隠す事で、あたしは。ずっと自分を護って、保って来てて。
触れられたくない傷が、疼いて、怖くて。

肩にもたれ掛かる一馬の重みが。あたしの本当の想いを、気付かせてしまった。










「ごめん、少しだけ…少しだけだから」

そう言って、あたしの肩に頭を預けてきた 一馬。きっとまだ、ほんの数十秒のことなのに、すごく長く感じる。あたしが逃げないようにと、腰に回された一馬の腕は、護られているような感じがする程に 優しくて、それが微妙な、最後の距離を保っているかの様にさえ思えて。

手が震えて、相変わらず泣きそうで、でも離れて欲しくなくて。抑えてた自分の、一馬への想いに気づいてしまうには、認めてしまうには充分で。

「好きになったりしない」
「最高の彼女を演じきってみせる」


自分で言ったあの言葉が、あたしの首を締める。今更、この想いを伝える事なんて出来るはずも無くて。本当は、気付く資格だって無いはずなのに。
そしてきっと、今の この状態の一馬が離れる時には、きっと。

…きっと、




肩から、軽くにしか触れていないはずのの身体が震えているのが全部 伝わってくる。きっと泣きそうな顔してるだろうな、とか。
こうした事で俺の気持ちが伝わってしまった そう思って、でも。未練がましいいんだ。離したくなくて。必死に泣くのを堪えて。

最初から俺は信用されてなかったんだ とか、何で嘘付いて隠す必要があったんだ とか。
本当は そんなことは…どうでもよくて。(まったく、っていったら嘘になるけど)

俺の知らないが、俺の知らない過去や傷を 俺に明かしてくれなかった事実のがすごく辛くて。こんな形での傷に触れてしまったのが、知ってしまったのが、俺に、知られてしまったのが。

きっと、絶対、の傷をえぐる事になってしまった。傷を増やしてしまった。傷つけてしまった。
いつも俺にそうしてくれていたように、俺だってにそうしてやりたい って優しくしてやりたい、喜ばせてやりたい って、ずっとそう 思ってたのに。

こうなった今、ずっと思っていたそれは もう叶わない事なんだって判って、…理解って。

…だから、





ゆっくりと、一馬の頭が離れて行った。そのとき一瞬だけ、目が合った。暗がりの中でもわかる位 辛そうに顔を歪めて いて、そして俯いて。
腰に回されていた腕も、ゆっくりと解かれていった。


「ごめん…、」

すごく近い距離に、目の前いるのに、でも一馬は あたしとと目を合わせる事もしてくれなかった。こんな一馬に、言える言葉が見つからなくて なにも言えなくて。そしてきっと、この後言われるだろうな って言葉に。
あたしはすごく怯えてる。


「も、帰ろう」

一馬が小さくそう言って、あたしに背を向けて歩き出した。すぐには足が動いてくれなくて、震えていることに気が付いた。でも歩かなきゃ と思って、機械的に足が出た。
ほんの数歩して 一馬が急に立ち止まって、


「さっきはごめん、無理に歩かせて」
「……、」

振り返って、一馬があたしに手を差し出した。顔はこっちを向いているけど、あたしの方を見てはいなくて やっぱり少し俯いていた。こんなになってまで、まだ優しくしてくれる一馬に あたしは本当に胸が痛くなった。
けど、まだがんばって泣くのを堪えて一馬の手に触れた。
ほんの少し、指先だけで繋ぐような形になって 彼はまたゆっくりと歩き出した。

やっぱり、お互いに何も話さなくて、あたしの足元でカラコロと鳴る音が ものすごく遠くから聞こえてくるような気が、して。

沈黙が続く。
お祭りの喧騒のなかしばらく歩いて、ようやく入り口にまで戻って来た。これから祭りに向かう 楽しそうな顔をした人と沢山すれ違った。そこから抜けると、まわりの音が極端に小さくなって、あたしの下駄の音がすごく 近くに感じるようになった。

それでもやっぱり沈黙は続いて、その時ふいに繋がれた一馬の指先に力が入ったのを感じた。
あたしは思わずぎゅうと、目を瞑った。


「…さっきは、ごめん。…もう、触れたり、しないから、」

これで最後だから と、小さな ちいさな声で一馬が必死で言葉を繋いでいくのがわかる。
何を言われるのか、わかってしまって。覚悟を決めて目を開けると一馬の背中が、視界が、全部 歪んで。


「好きになったり、しないから。後1ヶ月だから。…だから、」

────ごめん。


最後に、その言葉で締め括った一馬。あたしは返事をすることも出来なくて。俯いて、もう堪えられなくなってただ、静かに涙を流すことしか出来なかった。このとき一馬は、あたしの泣き顔を見ないようにするのが精一杯だったって、後になって聞いた。


あたしの嘘から始まった、この約二ヶ月の間に。想いの芽が出て、溢れて、絡まって、…芽を摘まれて。
残されなかった希望に、甘い 想いを残して。

一馬が耐える事で繋がっていた、見えないその甘い希望が 今日ついに切れてしまって。
先に拒絶した、あたしの気持ちに気付く事も無くて。最終的には一馬が引導を渡してしまう結果になって。

すれ違ってしまった、あたしたちの想い。


不器用なまでの、意地と、傷と、焦燥感で満たされそうになるのを。
きっと一馬は言葉に出して否定する事で、あたしへの想いを消そうとするしかなくて。それしかなくて でも、今の想いがこれ以上大きくなってしまわないようにするのが精一杯で。

あたしは昔の傷を隠す事で自分を護って、傷つくのが嫌で、あんな形で一馬を拒絶してしまった傷つけてしまった。
きっとその罰なんだよ。今日 彼に会ってしまったのも、あんな形で傷を見せてしまったのも。
もうどうしようもない、一馬への想いに気付いてしまったのも。

全部、あたしへの罰なんだ。


理不尽なまでの不器用なあたしたちの恋が、互いに潰し合っていた事に気付かされてしまった。
そのきっかけを作ってしまったのは、あたしなんだ。

どうしようもない悲しさと悔しさに襲われて、胸が潰れそうになって、ずっとずっと、一馬にも聞こえないくらいの小さな 小さなこえで。


「ごめん…、」

ごめんねかずま。


そう、謝り続けることしかあたしには出来なかった。
ねぇ、一馬。


────どうしてあたしは、一馬を傷つけることしか出来なかったのかな。



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なんだこれ、総集編? あ、会話がない(笑)
その場のノリで読んだら耐えられるけど、意味考えながら読んだらすんごい意味不明だった。

20070324(20041031初版)   秋夢うい