二年前の夏も。こんな想いをしていたはず、なんだ。










初めて彼と知り合ったのは、中学に入学して 新しく部活が始まってすぐの、まだそんな頃だった。まだ5月の半ばだっていうのに その日はとても暑くて。

さん」
「はい?」

それが初めて交わした言葉だった。
彼は、同じバスケ部の 男子部員の三年生だと言った。
年は二つしか変わらないはずのに、小学校から中学校に上がって来たばかりのあたしから見たら、すごく大人な男の人に感じたのをよく覚えてる。

「部活でも毎日頑張ってるよね、俺ずっと見てたんだ。よかったら…」

────俺と付き合ってくれない?


名前も知らない人だったのに。男女と違うけど、一応同じ部活だから 顔は見た事あるな っていうそんな程度だった。
もちろん話したのもそのときが始めてで、名前すら知らないのに どうしてそんな事が言えるんだろう って思って、


「でもあたし、えーと 先輩の…名前も知らないし…、」

当然の台詞だった。いきなりあんな事言われて、ハイ って返事する人なんかいないと思う。ましてや、小学校を卒業したばっかりのこんなこどものあたしにそんなことを言うなんて、からかわれてるんだ だとも思った。


「俺の名前は和泉武志」
「和泉…先輩?」

「うん。今はさ、俺の事好きじゃなくてもいいから、」
「え…」


────付き合って行く内に好きになってくれれば、それでいいから。


そう言った先輩の笑顔が、とてもとてもまぶしくて大好きで、あたしはうないづいてしまったんだ。



その日から、登下校を一緒にするようになった。こんな 思いも寄らずあたしに彼氏が出来た。しかもバスケ部のカッコイイ先輩で周りからはすごくうらやまれた。あたしはそれが凄く嬉しくて。
休みの日にはふたりで出掛けたり、夜には電話したりして、部活中は目で姿を追うようになって。

やさしく笑う先輩の笑顔に、あたしはすぐに恋に落ちてしまった。


「ね、ね、先輩!あたし先輩の彼女になってよかった!」
「だろ?俺だって、が彼女になってくれてすげー嬉しい」

「先輩、大好き」

無邪気に笑うあたしを、いつも受けとめてくれて、本当に ほんとうに大好きだった。ずっとずっと、この笑顔に見つめられていたい ってそう、思ったしずっと続くものなんだって。
疑いもしてなかった。

あの、暑い夏の日が 来るまでは。


付き合ってもうすぐ3ヶ月になろうか、って頃だった。夏休み、部活が終ると一緒に帰るのが日課になっていて。
いつもは同じ時間に練習が終るところを、その日はあたし達女子部は少し練習を詰めてて男子部よりも上がるのが少し遅かった。
そんな時はいつもお互い部室で時間を潰して、待っていたから、あたしは早く先輩の元に行きたくて走って、先輩のいる、男子の部室の前まで行った。

何故かその日のあたしは、ちょっとしたいたずらをする子供のような心境になってて。先輩を驚かそうと、そっと、部室のドアを開けて忍び込むようにして入った。
足音を立てないように、ロッカーに姿を隠すようにして先輩に近づいて行って。

いつもは一人で待っててくれる先輩が、その日は同じバスケ部のひとと一緒にいて。


「そう言えばさータケ、もうあの一年生ちゃんと付き合って結構たつんじゃね?」

その言葉に、咄嗟にあたしの足は止まった。「一年生ちゃん」ああこれはあたしの事だな、っていうのはすぐにわかって。何の話をするのかな なんて、何の気なしに立ち聞きする形になって。
次に放たれた、大好きな大好きな、大好きな先輩の言葉に。

「あーまぁ、夏休み中の暇つぶし。」

────夏休み終ったら別れるし。


先輩のその言葉に。あたしは頭が真っ白になった。「先輩 いま、なんていったの?」その場に出て 聞けなかった。


「お前ホント、続かねぇよな」
「最初からそのつもりだったんだって」
「うわ、最低!」

「つーかさ、」

目的は他にあるんだよね と、先輩は言った。なにそれ と、彼の友達は興味深々に先輩の話を聞いていた。その後交わされていった二人の会話も、笑い合う声も、すごく遠くのように感じられた。
そのまま部室を飛び出して、でも何故か涙は出て来なくて。身体全体に重りが付けらたような、そんな感じだった。

もう皆帰ってしまった体育館の前で、あたしは一人立ちすくんでいて。あれは何かの聞き間違いじゃなんじゃないか、夢なんじゃないか、って。信じたくなかった。
しばらくして先輩があたしを迎えに来た。「さっき言ってた事は本当なの?」なんて聞けるわけがなくて。


、何やってんだ?ホラ、帰ろうぜ」

そう言って手を差し出した先輩の笑顔が、いつもと変わらなくて、あの言葉を信じたくなくて。好きだから、大好きだから その手を 取ってしまった。


それから残り少なかった夏休みが、すごく長く感じて、あたしの心に闇は残っていたけど。先輩の笑顔がいつもと変わらないから、先輩がすごくすごく好きだったから。だからやっぱり、一緒に居たけれど。

運命の新学期。
やっぱりあの時聞いた言葉は、間違いじゃ無かったんだ って。

「ごめん、他に好きな子が出来たんだ…」


先輩のその一言であたしのはじめての恋は終りを告げた。家に帰って、自分の部屋で良く考えてみた。

「先輩、好き、大好き」


何度も何度も、先輩に向けて言った その言葉。けど、あたしは一度も「好きだ」って言葉を貰ったことがなかったのに気がついて。ああなんだ、やっぱり最初からそのつもりだったんだ。

やっぱり、あのとき言ってたことは本当だったんだ。


「あいつの友達がすーげぇかわいい子なんだよね」
「お前目的ってそっちかよ」

「手っ取り早く近づくには一番の方法…ってね」


そこではじめて涙が出てきた。あたしの大好きだったあの優しい笑顔もなにもかも全部。全部嘘だったんだ って。
次の日、自分でもびっくりするぐらい目が腫れている程泣いた、中一の 夏の終りだった。



それからあたしは、何故か告白される事が多くなって。先輩と同じ、「付き合って行くうちに」っていう言葉を、嫌悪するようになった。そんなものはあたしを手に入れようとする為の、手段でしかなくて、ただの言葉の飾りで。
欲しかったのはあたしの容姿や、イメージの中のあたしで。

あたしは、お互いに本気の恋しか、したくなくて。
だからあたしは。あたしは、


「ね、3ヶ月だけ付き合ってるフリ、しよっか?」

あの時 一馬に言ったあの言葉は、【付き合えば好きになる】というあたしの傷を。根底から覆したいが為に言った事だったはずなのに。本気以外の恋で相手を好きになる事なんて無いんだ と。

それなのに結局あたしは、2年前の あの時と同じ。それ以上の想いを、一馬に抱いてしまった。


「ごめん…」

あたしのありったけの謝罪を、聞こえないように、一馬にぶつけ続けた。
家に着くまであと、少し。どうか、どうかお願い。
この手が離れても、


────この手が、離れても。



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ヒロインの過去話。それでなんで付き合うフリになったのかは…ねぇ?(ノリで書き始めた結果ですよ!)

20070324(20041103初版)   秋夢うい