望むものは何もない。ただひとえに、キミの、笑顔を。 「おはよー一馬!」 「おう」 8月20日、三ヶ月の契約 最後の日。遊園地に行くことを決めた俺達は、朝一番に駅で待ち合わせをしていた。最後の日だと、なるべく考えないようにして。 「誕生日、おめでとう」 走って俺のところにまで来たに、笑顔でそう言われる。毎年、この日になると言われる常套句。けれど今まで、言われてこんなにも嬉しい言葉だったなんて知らなかった。自然と、自分の顔が緩むのがわかった。 「…さんきゅ」 * 「やっぱり結構込んでるな」 「そりゃあ夏休みだからね」 家族サービス中のお父さんは大変ですよ とが笑って、そしてしみじみと言った。一瞬、なんでお前がお父さんの気持ちがわかるんだよ って心の中でツッコミを入れて。 「…お前がお父さん?」 「しょうがない、今日1日一馬くんの面倒見てあげますか!」 「それは俺のセリフだっつの」 が、本当に楽しそうに笑っていて。つられて俺も笑う。こんなに、笑ってるを見るのはすごく久しぶりな感じがして。ああなんかもう、鼻の奥がツンとする感じ。が嬉しそうにする度、笑いかけてくれる度 俺は泣きそうになる。 「よし、じゃあまずは景気付けに一発 行くぜ!」 「ガッテン兄貴!」 楽しまなきゃ、楽しんで 楽しませて、もっとたくさん わらってくれたらいい。 最初にジェットコースターに乗って、次々とアトラクションをまわる。昔 結人と英士と3人で来た事あったけど、男3人でなんてアホなんだ と言い合ってた事を思い出した。 あの時もそんな事を言いつつも楽しかったけど、今日のはそん時の比じゃないくらい たのしい。 「ねぇ一馬…」 「ん?」 「ホントに何も無くて良かったの?」 プレゼント と、フードコートで昼飯を食っているときだった。申し訳なさそうにがそう 言ってきた。 「誕生日プレゼント、何か欲しいもの ある?」 1週間前のあの日、言われた言葉だ。 「いいよ、前にも言っただろ」 「何も要らねぇよ。…そのかわり」 「それで俺は充分だから」 少し笑いながらそう言った俺の言葉に、が少し顔を紅くしてうなずいた。自分でも、正直あのとき言った言葉は思い出すだけで恥かしくなるけど、本気でそう思ったから。 「…でもこれじゃああたしがプレゼント貰ったみたい」 そしては少し俯いて、ジュースを一口飲んで少し寂しそうな表情をした。 「いいんだよ、これで」 な? と俺がわらって言ったら、はそれに「うん」と小さく返事を返てくれた。 ────本当は、欲しいものなら一つだけ ある。 心の中を、自分の愚かな望みがよぎる。こんな時まで馬鹿だ 俺。 「何か、雲行きあやしくなって来たね」 ふ と、が不安そうに空を見上げて、大きな雲の広がりを目で追いながら言った。「あぁ…ホントだな…」と、俺もつられて空を見上げると、少し灰色をした大きな雲が、ゆっくりと太陽を遮っていた。天気予報では、雨は降らないって言ってたんだけどな と思いながら、英士に聞いとけばよかったかな とも思う。 「でもまぁ…夜までは大丈夫なんじゃねぇ?」 「う…ん、だと良いけどね…」 「さ、てと。次、どれ行く?」 心配そうな顔をしているにそう言って、俺は立ち上がり、笑って。そしたら一瞬暗い顔をしたけど、もわらって、 「それじゃあも一発、景気付けに行きますか!!」 「え、メシ食ってしょっぱなから…?」 トーゼン!! と満面の笑顔でそう言ったを見て、俺は嬉しく なる。 ────欲しいものは一つだけ、ある。 心に残る、熱い想い。けどそんな欲張りな事は、言わないから。最後の瞬間がやって来るまでは、『今』を楽しむって自分で決めた。 「せめて今日1日そうやって笑っててくれよ…」 スピードにのるコースター。ゴー というコースターの轟音と、バタバタと耳にうるさく風の音が響く。楽しそうに笑う横顔を見て、そう呟いた俺の言葉が微かに耳に届いたらしく、が叫ぶ。 「えー!?一馬何か言ったー!?」 なぁお前がそうやって笑ってくれるなら、俺は何だってしてやる。この想いに変わりは、無い。傍に居てやれる、居させてもらえるこの最後の日を。 「何も要らねぇよ。…そのかわり」 お前に言った、最後の望み。俺にとってはそれが何よりも、一番だから。それを叶えてくれるが愛しくて、いとしくて。 「おー、何でもねぇよー!」 「うきゃー!落ちるおーちーるーっ!!」 ────そのかわりずっと笑ってて。 それだけが俺への、なによりのプレゼントだから。 ←BACK NEXT→ ラストふたつ!がんばれわたし!(ぇ) なんか、だんだんと直せるところがなくなってきて、恥かしくなってきました。 20070328(20041122初版) 秋夢うい |