夏の終わり、最後の思い出。本当は言ってしまいたい言葉がある。
あたしは、卑怯だ。










「ずっと笑ってて」

言われたあの言葉。あたしそんなに笑ってなかったかな?なんて思って考えてみたら、無理してわらってたかもしれないな って自分でも思って。あの、お祭りの日 以来。
ねえ本当に、一馬はあたしの事よくわかってるね。


「かーずま、大丈夫ー?」

お昼ごはんを食べて、一発目に乗ったコースターで 一馬が顔色を悪くした。うーん、流石にあのぐるぐるのコースターはまずかったな と思って。


「なんで、お前は平気なんだよ…」
「うーん、好きだから?」

「…好きでもメシの直後はキツいっつの」

うっ と一馬があまりにも気分が悪そうに見えた。少し休む? と本気で心配になって声を掛けたら、一馬は「いい」と言ってさくさくと歩き出した。あたしは慌ててそれについていきながら、


「一馬、無理しなくても…」
「時間、もったいねぇだろ…」

その言葉に、あたしはぎゅうと 胸が締め付けられるような感じがした。思わず顔にも出してしまっていたみたいで、あたしのそんな表情を読み取った一馬が、バツの悪そうな顔をした。

「わり…、ホント大丈夫だから。…行くぞ」
「…うん」

必死になって 楽しませてくれようとしている一馬に、あたしはすごく胸が熱くなる。


言ってしまいたい、言葉がある。けれどあたしがそれを望むのはとても卑怯な事で。だからあたしは一生、その言葉は自分の中にしまっておくよ。
だからあたしは、一馬が望むように。笑って。笑顔で、


────サヨナラをするよ。



***



【御来園ありがとうございます。本日は、後30分を持ちまして…】


突然、閉園を知らせるアナウンスが、園内に流れた。焦って時計を見ると、もう入園してから8時間が経とうとしていた。
また、ぎゅう と胸を鷲づかみにされたような感覚が襲ってきた。目の奥がジン としてきて、
まだだ、まだ泣くな。笑って。笑顔で。


「……」
「……っ」

言わなきゃいけない。笑って。終りだね って、今までありがとう って。
隣にいる一馬が、強く 拳を握っているのが見えた。何か言わなきゃ。けれど、どんな言葉も喉に突っ掛かって出てきてくれない。

「かず…っ!?」

バクバクとする心臓。意を決して、あたしは一馬の名前を呼ぼうと顔を上げた瞬間、鼻の頭に冷たい感触。反射的に空を見上げて。

「っ雨だ…!」

通りすがりの 遊園客の中の誰かが言った。ポツリ、ポツリと、ひとつずつゆっくりと 雨の滴が落ちてくる。けれどそれはそんなに長くは続かなくて、一瞬の間に大降り。家族連れやカップル、小学生のグループの子らが走って声を上げながらあたし達の横を通り過ぎた。けれどあたし達は見つめ合ったまま、動かない。動けないでいた。

ザァァァ という、雨の降る音が大きく耳に届いた。髪も服も、全部濡れて。一馬も同じように、全身ずぶ濡れ。髪から滴り落ちてくる雫が、やけにリアルに頬をつたった。
それがあたしの覚悟と、なって。


「一馬…、」

この三ヶ月、ねえ 色んな事があったよね。楽しい事ばっかりじゃ無かったけど、そんなのものともしないくらいあたしは幸せだった。いつでも優しくて、あたたかくて。

あたしの所為でこんなことになって、ごめんね。
あたしの所為で沢山たくさん、辛い思いをさせて ごめんね。
忘れない。

この3ヶ月間にたくさん出来た。一馬との思い出は絶対、忘れないから。


「これで、サヨナラだね」
「…ああ、」
「今日はありがとう。楽しかった」

「俺も。すげー楽しかったし、…ありがとな」

それと、ごめん と一馬は言った。ねえお願い一馬 そんなかお、しないで。笑って、わらって。笑え、あたし。


「夏休みも後少しだけど、練習頑張って」
「お前も、ちゃんと宿題はやってけよ。得に数学」
「うっ、な、何とかがんばるよ」

「ホントかよ」

いつもと変わらない会話。いつもと変わらない笑顔。ねえ知ってた?一馬がわらってくれると、あたしも自然と笑顔になる。
雨が降ってるから、判らないよね。ちゃんと笑ってれば、絶対判らないよね。

本当は言いたいこと、沢山あった。けれどそんなもの、もう要らないよね。
三ヶ月分の全てのありがとう と ごめんなさい。


────この一言で全部、あなたに伝わりますように。



「ばいばい、一馬」

あたしの一番の笑顔。一馬に、残して行くよ。

最後まで甘えてごめんね一馬。せめて後で一人で って思ってたのに。泣いてごめんね、一馬。
でも雨で判らないよね。あたし、ちゃんと笑えてるよね。

ねえ、だいすきだよ。


ちゃんと前を向いて、一馬の横を通り過ぎる。その時に心の中でだけ、小さく気持ちを告白した。
あたし達を縛るモノは、もう無いよ。これからはもう苦しむ事も、悩む事も無い。

雨と一緒になって涙が頬を伝う。今まで、本当にありがとう。


さようなら、一馬。



←BACK   NEXT→
別れのとき。

20070330(20041122初版)   秋夢うい