簡単に終わりを告げたあたしたちの幼い恋は、ふたりだけが理解らない小さな突っ掛かりを残して 幾度の夕暮れを迎えただろう。

ねぇ、あたしの本当の気持ちはいま どこにあるの?










結人と別れてから見付けた哀しくて、美しい夕焼けの空。ひとりで見る事の方が多かったけれど、ふと気が付くと唯菜や英士が傍に居る時もあった。

悔しそうに泣きながら唯菜が、「あんなバカな男と別れて大正解!もう会っちゃ駄目だからね!!」それだけ言って電話を切られたのはつい一時間ほどまえ。

その直後に、

「俺の所為なんだ!ホントごめん何て言ったら良いのか判んないけどもう1回結人…」
「ちょっと貸して一馬。…、俺が場を作るから結人と話をしてみ…」

英士と一馬くん ふたりからの電話。それはあたしが何も言わずに電話を切った。
他の人から、結人の名前を聞くと辛くなる自分が居るのに気がついた。あたしにはまだ、もう少し時間が…いる。
そうして、人から結人の事を聞くのは嫌なくせに 日に日に結人の事を考えている時間は長くなっていた。


認めたい。認めたいけど 認めたくない、認めちゃいけない。
認められない。

ふつふつと湧き上がって来るような『認められない』想い。認めてしまったら、きっと今のあたしを保っていられない。





いつもと同じ時間、同じ場所で同じ夕陽を見るのが 日課。吸い込まれてしまいそうな 大きなあかい空は、今日のあたしのキモチを掴む程に近く感じた。
みんなの気持ちが流れ込んで来るようだった。みんな、あたしの事を想ってくれている。心配してくれている。
人から想われるっていうのは、こんなにも優しくて…あたたか。


結人に想われていなかった事実が、それを引き裂くように突き刺さる。
結人と別れてからの一ヶ月分の想いが、涙となって溢れてくる。

あんなにも不思議なほど出なかった涙が、あかい空を滲ませた。

嫌でも認めさせられる、思い知らされる。こんなにも、結人の事が好きだった事。


あたしはその場にしゃがみ込んで、膝を抱えて顔をうずめた。いまさら。今更、だ。

今更、本当に好きだ気付いたって 結人はもう、いない。まるでこの夕陽のように 綺麗なあかい色と、雲のようにふわふわな髪の下にある大好きだった笑顔も、もう戻って 来ない。


!」

名前を呼ばれて、ドクン と心臓が跳ねた。うそ、嘘だ。
息苦しいほどにまで鳴る心臓。顔を上げて声がした方を向いて その姿をとらえて更に心拍数は上がる。


「ゆぅ…」
「どしたんだよ!どっか痛いのか!?それとも、」

誰かになんかされたのか!?と、焦ったように走ってきて結人は あたしに合わせてしゃがみこんだ。
目が合って、呆然とするあたしに 心配そうなかおを見せていてその後すぐ、顔を歪ませて少し俯いた。

「何かしたのは俺、…だよな」
「結人…?」

「えっとさ、…なんて言うか…その…あー…何だ、…久しぶり」

顔を上げて再び結人と目が合う。なにか言おうと、必死になっているのがよくわかったけれど、なんだかおかしくてあたしはすこしわらう。


「…なんだよ、そんな顔して笑ってんじゃねぇよっ」

少し頬を染めた結人は、乱雑に自分のスポーツバッグをあさって、タオルを取り出してぐい とあたしの顔に押し付けた。あたしはそのタオルを受け取って、結人のにおいを感じて胸がいっぱいになる。

「…練習の後だからな、汗臭いのは勘弁しろよ」
「…だいじょうぶ、」

「何ていうか、…何しに来たんだって言われたら困るけど、取り敢えず…」

顔を歪ませたまま、結人がわらって、

「俺のいいわけ、聞いてくれない?」


***


「…とまぁそもそもの原因は、…ばかずまなんだけど」
「唯菜のことおとこのこに間違えるなんて。結人も一馬くんも見る目 ないね、」

「その事でお前を傷つけた、」

終わりにしよう って言われてから、さっき唯菜に会ったことまでのいきさつを結人は話してくれた。「ほんとにごめん!」と、と頭を下げてきて。


「しょうがないよ、勘違いだったんだから」

ずず と音を立てながらあたしは、結人から渡されたタオルを手に 呼吸のしづらい鼻をすする。

「あたしもごめんね、唯菜と出掛ける事ちゃんと結人に言っとけばよかったね、」
「お前は何ひとつ悪くねぇよ!ちゃんと話も聞かなかった一方的な俺が、悪かったんだ」

落ちこんでいるのか、結人の肩がすこし下がった。


「それだけじゃねぇよな、その前から俺、きっとお前の事傷つけてばっかだったと思う。お前の事ほったらかしにして、気が向いたときにだけ思い出したように会って…ほんと、最低。俺…」
「結人…」

「俺、お前の事何も考えてなかったんだ。何て言うか…余裕…っつの?いつまでもお前が俺の傍に居るような気が、してたんだと思う…」
「……」

少し顔を赤くして結人は ふよふよと、あちらこちらに視線を泳がせて気まずそうに話してくれた。そんな結人を見てあたしは ふと、あの日飛行機雲を見たときの事を思い出す。


「結人って雲みたい」
「え?」

結人が ぱっと顔を向けた。あたしは微笑って、結人の手を取った。緊張してるのか 結人の手は少し冷たくてそして少し汗ばんでいた。

「すぐ傍にあるような気がするのに、全然届かないの」

あかい空に浮いている雲に向かって、幾度も手を伸ばしてみた。すぐ傍にあって掴めそうなのに、本当はもっとずっと 遠い。


「結人は雲じゃないんだよね」
「?、…当たり前だろ?」

「本当は掴めるのに、ただ手を伸ばさなかっただけなんだなって」


そっと、結人の手を離す。自分自身臆病になってる事に気が付かないで、相手に求められていない と思うなんて。なんて、

なんて愚かな事だったんだろう。


「あたし結人の事ほんとに好きだった。…今でも大好きだよ」

本当はもっと早くこの事に気付いて、伝えるべきだったんだ。もっとちゃんと我侭も言って、喧嘩して、それでちゃんとお互い一緒に入れたら本当に幸せなこと。

完璧な恋愛なんて無い。幼い稚拙な子供の恋愛だからこそ学べる事が沢山ある。


だけじゃねぇよ、」

ん と言って、少し恥かしそうに結人が手を差し出してきた。

「俺だってお前のこと、好きだよ」



本気でぶつからなきゃ恋愛じゃない。怒って、泣いて、笑って、我侭だって言って良い。傷つける事だって沢山あるだろうし、不安になる事だってある。
小さな事で喧嘩だってするだろうし、勘違いだってする。嫌になることだって ある。

けど、なんの為に一緒に居るのか考えたら、そんなのなんて事無い。



────一緒に居たいから。傍に居たいから。愛して、愛されてるから。


差し出された、結人の やさしい 手を取って。お互いの想いを伝えて初めて、ひとつになるんだって事。
またひとつ学んで。


「これからも一緒に居よう」


あたしたちふたりの頬が、幸せな あかい色に染まっていたのは、夕陽の所為だけじゃないよね。




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これおもてに出して許される作品!? まぁでも…これもわたしの歴史の一つ。なつかしいからいいや。うん。
・・・ははは。

20070307(200408)   秋夢うい                

「そういえば結人にスキだって言われたの初めてだ」「…そうだっけ?」